まき火炊きの濃厚鶏スープで作る「とり伊」の親子丼は、一杯で三度うまい!【京都】
創業から80年以上。受け継がれる唯一無二のレシピ
こんにちは。メシ通レポーターの泡です。
気軽な食事として、昼に夜にと重宝する丼。
数ある丼ものの中でも老若男女を問わずに人気のある一杯といえば、親子丼がまず挙げられるのではないでしょうか。
とろ~り半熟の卵の中に見え隠れする鶏肉やネギ。卵と混ざり合った甘辛い出汁がじゅわりと染みたご飯。想像するだけでたまりませんな……。
きっと誰もが一度は口にしたことがあるはずの親子丼。
でも、京都は四条大宮にある「とり伊」の親子丼は未知なる味を秘めた特別な親子丼なのです。どんなんかって? まぁ、焦らずお読みくださいましよ。
お店があるのは、阪急電車で始発駅の河原町から2駅目の「大宮駅」の近く。
以前にご紹介した人情ベーカリーの「まるき製パン所」や南インド料理が泣けるほどうまい「ティラガ」のご近所さんです。
大宮駅から四条通の南側を東へ。1つめの信号を南へ下がってください(右折)。
わりとすぐに、右手上空に看板が見えてきます。
「とり伊」には入り口が2つありますが、親子丼目当ての場合は右側の新しい方へどうぞ。左側は、夜のみ営業で鍋やコース料理を提供している店舗です(こちらもおすすめ!)。
店内は1人客も落ち着いて過ごせるカウンター席が中心。
グループや家族連れ向けの小上がり席もあります。
▲当主は四代目の正木昭七さん
「とり伊」は明治後期に鶏肉店として創業。往時から親子丼も提供していたといいます。
途中、20年ほど休止していた時代もあったそうですが、古くからのお客さんに話を聞いたりして昔の味を再現し、現在は鶏料理専門店を中心に営業。
こちらの親子丼の何が珍しいかといいますと、カツオや昆布のいわゆる和出汁を一切用いず、鶏スープのみを使うということ。
しかも、このスープは昔ながらのおくどさん(かまど)でまきを燃やしながら炊き上げたものというから驚くではありませんか!
利便性に満ちたこの時代に、わざわざこれほどの手間をかけているというだけで味わいが増すような気がしますよね。
──でも、なぜおくどさんじゃないとダメなんですか?
「昔はおくどさんで料理をするのが当たり前やったから、(先代たちが)ずっとしてきたことを守っているだけなんやけどね。でも、まきで炊く意味はちゃんとあるんですよ」
「まき火は一定の火力を保つガス火とちごて、まきの形や燃えるタイミングによって勝手に火が動くでしょう。そうすると、沸き立っている鍋の中で対流が起こって鶏の骨同士がぶつかって砕けたところからエキスが出るんですわ。これが濃厚なスープの秘訣(ひけつ)やね」
うわー、聞いているだけでうまそうっ!
「今のおくどさんは去年の12月に新しくしたばかりの五代目。前のんはだいたい20年くらい使てたかな」
まきは主に岡山から取り寄せる松の木を使用。
スープを炊く日は早朝から夕方まで鍋をかけたままなので、時折まきを追加したり、おくどさんの窓を開けたり閉めたりして火の加減を調整するのだそう。
五升炊きの鍋に丸鶏やもみじ(鶏の足)をたっぷりと投入し、下ゆでしてアクを抜いた後、半日以上かけてしっかりと煮出します。
完成したスープは粗熱をとってから冷蔵庫で保存。煮こごりのようにぷるっと固まるので、これを薄いスープで割ってから水炊きなどに使うとのこと。
下ゆでから完成までは丸3日。これはなかなか、まねできませんぜ。
それでは、いよいよ親子丼を作っていただきましょう。
鶏肉は、若鶏のささみ(右上)ともも肉2種類を合わせて、味の濃淡や食感の違いを出します。
醤油やみりんベースの調味料に鶏肉を加えて火にかけます。
鶏肉に先のスープを絡ませているので、加熱するほどに味が染み出していくという寸法。
鶏肉のほか加える具は、京都らしく九条ネギ(青ネギ)のみ。
「そろそろ卵を入れますね」
卵は大分産のものを2種類、1個ずつ使用。
「1つは黄身濃厚な『蘭王』、もう1つは白身がしっかりしている『田舎の卵』です。同じ産地のもの同士じゃないとしっくりこないんですわ」
それぞれの特色を活かすべく、「蘭王」の黄身は取り分けておき最後に使用。2個分の卵白を軽く切るように混ぜてから鍋に加えるのがポイントだそう。意外にも加熱用の黄身はさっとつぶすくらい。卵焼きのように全部混ぜるものかと思っていましたよ。
ふつふつと沸き立った中に卵をツィーと、
「うちの親子丼は白身も主役級。だからナマっぽくならないよう、しっかり火を通してあげますねん。ご飯の上に卵焼きがのっているようなイメージで作ってます」
全体に火が通ったら、取り分けておいた黄身をのっけて完成です。
味わい三変化を堪能すべし!
できあがったのがこちら!
▲名代 親子丼 690円(特製スープ、漬物付き)
スープはもちろんおくどさんで炊いた鶏スープ。生姜とうずら卵入りです。まずはそのまま鶏の風味を味わって、のちにお好みで塩を足してみてください。一気に飲み干さずにおくと、後でいいことがあるかも!
あああ、美しい!
ね、食べたくなってきたでしょ?
(書いている私がまず食べたい! 原稿書き終わったら行こう……)
最初はあえて卵黄をくずさず、プレーンな状態で召し上がれ。
親子丼=甘辛い味という概念が覆る、あっさり具合に戸惑うかもしれません。
でも、じっくりとかみ締めるうちに、淡味の中にある鶏肉の甘みやコクがじわじわと広がってくるのです。シャキッとしたネギの青味もよろしな~。
そうこうしているうちに、蘭王様の卵黄がアレな感じになってきました!
あー、もうすぐ、もうすぐにっっ。
(……ふぅ)
そうです、第二段階ではこの濃い~黄身を絡めてご堪能ください。
最初が淡い味だっただけに、この変化はかなり大きなインパクトがありますよ。
白身にしっかりコシがあるのにも驚きます。
そして最終段階は、お茶漬け仕立て!
水炊きの最後の雑炊みたい。
特製スープを最初に飲み干さずにいれば、こんな風にも楽しめてしまうのです。
少し塩を加えたスープで鶏のうま味がしゅんだご飯がほろりとほぐれ、さらさらっと味わえばこれまた妙味。
卓上に備わった山椒をひと振り、ふた振りで清涼感のある刺激も加わります(京都では親子丼をはじめ、ほとんどの丼に粉山椒というのがデフォルト)。
一杯の丼でこれだけ楽しめたら、人生がちょっと豊かになる気がしませんか?
食べ終わる頃には、きっとあなたもこの親子丼のトリコになっていることでしょう。
※親子丼のほか、日替わりランチ690円(日・祝を除く)や、1人用の水炊き1,950円、唐揚げ650円などもあります。
店舗情報
とり伊
住所:京都府京都市下京区猪熊通四条下ル松本町278
電話番号:075-841-1937
営業時間:11:30~14:30(LO 14:00)、17:00~21:00(LO 20:30)
定休日:火曜日、ほか不定休あり
ウェブサイト:水だき・むつみ焼の「とり伊」
www.hotpepper.jp
※本記事の2017年5月の情報です。
※金額はすべて消費税込です。
書いた人:泡☆盛子
ライター。沖縄出身、京都在住。京都の水というか食がカラダに合い、48kg肥えたのが自慢。立ち呑みと、おかずケース食堂での昼酒が好き。
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