「決して温めないでください……」!? 徹底して逆をついた、冷やして食べる唐揚げ「努努鶏」とは?【福岡】 

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勇気を出して冷やし唐揚げの販売店に潜入

福岡市の南部、桧原・柏原方面から県道49号大野城二丈線を老司四角に向かって走っていると、左手に妙な看板を見かける。

「唐揚げ、冷えてます。」

なぬ?

唐揚げを、食レポ風に言えば「揚げたてのアッツ熱、衣がサクサクで中はジューシー♪かむと肉汁があふれ出ま〜す♪(おい、それニクジューじゃなくて、ただの油だろ!)」てな感じのがうまいんであって、弁当用の「冷めてもおいしい」というのはあっても、冷やしてうまいというのは聞いたことがない。

まあ、深く追求することもなく10回ぐらいは知らんぷりして通り過ぎたのだが、ついに意を決してこのお店に立ち寄ってみた。

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外観は看板もノボリも貼り紙も「唐揚げ、冷えてます」「決して温めないで下さい」「冷やして食べる唐揚げ」と、念の押し様が尋常じゃない。しかも、どの窓もブラインドが降りていて、外からはその冷やし様も分からない。

これは怪しい……。

扉を開けるのもはばかられるのだが、せっかく意を決して立ち寄ってみたんだからと、意を決し直して中に入ってみた。

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▲イートインはなく、販売のみの店内

中は別段、製造工程が丸見えとかいう訳ではなく、隠さないといけないという感じではなさそうだ。

しかし、中は中で「決して温めないで下さい!」とさらなるプッシュ。

商品名は「努努鶏」と書くらしいが、どこにもふりがながないので何と読むのか分からない。

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おまけに、一枚のボードには「120%驚かれる贈り物・手土産」とある。ということは贈答品なのか? しかも「喜ばれる」ではなく「驚かれる」とは何事だ? まあ、冷たい唐揚げを贈られたら驚くかもなあ……。

とにかく、意を決し直してまでお店に入ったんだから、その冷たい唐揚げというものを試さない訳にはいくまい。

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「唐揚げ冷えてます」というのれんがかかるイベント屋台のような売台から1箱取り上げて、商品名が分からんので遠慮がちに「ど……これ下さい」と言うと、

奥から出てきた女性が愛想良く

「『ゆめゆめどり』ですね。贈り物ですか?」と聞いてきた。

(そうか、『ゆめゆめどり』と読むのか……)と聞こえないようにつぶやきながら、

「いや、自分で食べます」ときっぱり返すと、

「保管は冷凍庫でお願いします。凍ったままでもいけますが、冷凍庫から出して5〜10分自然解凍すると食べごろになりますよ。レンジには絶対にかけないでくださいね」と丁寧に食べ方を教えてくれた。

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▲冷やして食べる唐揚げ「努努鶏」手羽中・骨付 箱詰(中)250g(約15〜20本入り)1,080円

冷たい唐揚げのお味は?

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家に帰って箱を取り出すと、箱には「手土産の小窓」がついていて、開けると「決して温めないでください!」というメッセージが出てくる。手土産でもらう人は「唐揚げ、冷えてます」などの看板やノボリは見ていないので、なかなか細かい配慮である。

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さらに箱を開ければ「努努鶏」の製造方法や食べ方などを書いたポップな説明書も入っている。

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ついに「努努鶏」の実物とのご対面。中には比較的小粒な手羽中がゴロゴロゴロ。見たところ全体にゴマがかかっているので、揚げてからタレをかけてゴマをまぶしたんだろうな、タレは甘口なんだろうな、と想像はつく。

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実際にかじってみると、甘口だがピリ辛スパイスとのバランスがちょうど良くて旨い。歯ごたえはキャラメルポップコーンのようにサクサク香ばしいので、冷たいって感じはあまりなくて、ビールにも焼酎のロックにもいけそうだ。甘辛具合もちょうど良い塩梅で、つい2本、3本と進んでしまう。身は揚げ締まった程よい硬さで、骨から身をそぎ落とす感覚も病みつきになってしまいそう。ごはんのおかずというよりはおつまみ。ピリ辛もそれほど強烈ではないので、子どものおやつにもいけそうだ。

なるほど、これなら手土産にもピッタリという訳だ。

「努努鶏」誕生秘話

この意表をついた冷たい唐揚げ「努努鶏」、『メシ通』のネタにピッタリじゃんと思って、さっそく「株式会社努努鶏」の代表に話をうかがった。

社長のお名前は濱部義隆さん。意外にも若そうな人だと思ったら、冷たい唐揚げを生み出したのはお父さんで、鶏肉の惣菜を作る「鳥一番フードサービス」の社長さん。義隆さんの「努努鶏」はその販売会社だと言う。

お父さんの「鳥一番フードサービス」は創業48年になり、イベントの屋台や百貨店のテナントとして当時はまだどこもやっていなかった持ち帰り焼き鳥を始め、これがヒットした。

しかし、このようなアイデアはすぐに周囲にまねされてしまい、どこにもまねできないようなオリジナルで勝負したいと考えていたという。

そこで昭和56年ごろに生まれた(36年も前!?)のが、すべて常識の逆をいく唐揚げだ。

すなわち、普通の唐揚げは下味をつけて寝かせて中温の油で3〜4分揚げて、熱々ジューシーなものがおかずとして喜ばれるが、その逆を行って、下味なしで高温の油で長時間揚げて、揚げた後にタレを絡めて、冷やしてカリカリさくさくにすると、おつまみやお土産にぴったりの唐揚げが出来上がった。

これを「チキンバー」と名付けて売り出したのだが、冷たい唐揚げは冷凍食品の粗悪品と思われて全然売れず、8割は廃棄していた。どうせ捨てるのならとそれを試食にまわすと、ようやく冷たい唐揚げの意味をお客さんに分かってもらえ、売れ出した。ところが、売れ出すと周りがまねをする。ひどいところは「チキンバー」という全く同じ名前で類似品を売り出した。お父さんは当時中学生だった義隆さんに、まねされないようないい名前はないかと相談した。義隆さんは当時好きだった「三国志」に登場する仙人のセリフ「努努(=決して)疑うことなかれ」から「努努鶏」を提案し、気に入ったお父さんはさっそく登録商標にしてしまったという。

素晴らしい! 何て『メシ通』向けな誕生秘話なんだ!

「面白い話をありがとうございました!」と腰を浮かせそうになったとき、

義隆さんがポツリと一言。

「ウチは営業がいないんですよ」

ネット時代の販売戦略

「努努鶏」を手土産に持って行くと、渡すときに説明書にもある誕生秘話(一応「決して喋らないでください」と注意書きがあるのだが)を紹介して話が盛り上がる。相手の驚く反応が面白いので、一度買ってくれた人には、次は3箱、5箱、まとめ買いの梅コース(12箱)、松コース(100箱)と売れていく。贈られた人も気に入ってもらえれば、また同じように売れていく。故に、売り込みをする営業スタッフが必要ないと言うのだ。

ゴルフコンペの景品やパーティのおつまみに買っていく人も多いという。

また、新しいものをプラスして飽きられないようにする工夫も怠りない。例えば、ユニークな容器付きの企画商品。「努努鶏」をプラスチックの樽型容器に入れる。食べ終わったら樽型容器をペン立てとして利用してもらう。その妙なペン立てを見た人が、「ねえねえ、そのペン立てな〜に?」と聞いてくれれば、「こんな面白い唐揚げがあってね」と話を広げてくれる。このシリーズで樽型容器に加え、刺身をのせる舟型のザル、蚊取り線香をのせる肥前焼きの皿をやってきて、現在は四代目の企画商品を販売している。このシリーズのポイントは、容器を人目につくところに置いてもらうこと。洗って食器棚にしまい込まれては話が広がらないので、来客のときに出す刺身のザルだったりテーブルの一角に置いてくれるペン立てだったり玄関先に置いてくれる蚊取り線香の皿だったりというのが肝心なのだ。

こういうクチコミで広がる商品は、通信販売やSNSの流行など、ネットの時代になって効果を増した。

「ネットでは片足はみだすくらいのビミョーな際どさが受けるんですよ」と義隆さん。

「鳥一番フードサービス」の頃は百貨店などのテナントが最大店25店まで増えたが、ネット通販で売れるようになった現在は「努努鶏」の名前で5店までに減らした。売れずに減っていった訳ではなく、通販で1,000万売れるようになると実店舗が1店不要になるという考え方なのだという。大家である百貨店は不況で閉店するところが多いなか、テナントである「努努鶏」は販売窓口のシフトに成功している訳だ。

何と賢い販売戦略。ネット通販で間口が全国に広がったことで、10人中2人ぐらいが入ってきてくれれば十分。売れだしたら逆に減らすことを考えると言う。たぶん、儲けだけを追求して会社を大きくすることを考えていれば、できない戦略なのだろう。

感心しきりで激しくうなずいている自分が、すでにその戦略にのせられている訳だ。

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樽付き(左/初代)、ザル付き(右/二代目)、蚊取り線香皿付き(中/三代目)を説明する株式会社努努鶏の代表・濱部義隆さん。

やっぱり僕は温めてみた

ところでこの冷やして食べる唐揚げ「努努鶏」、温めるなと言われれば温めたくなるのが人情というモノ。やっぱり僕は電子レンジでチンしてみたことは言うまでもないのだが、せっかくやってみたので言わせてもらおう。

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温めてまずいということは全然ないのだけど、ベチャっとなってしまって、サクサクピリ辛の醍醐味(だいごみ)はすっかりなくなってしまった。鶴の恩返ししかり、浦島太郎しかり、するなと言われたことはしちゃいかんのである。

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ちなみにお店がオフィシャルに「温めて食べる」とうたっているのは右上・中下・右下の志縁鶏シリーズ(甘酢ひざ軟骨/黒酢南蛮漬け/焼き肝)。

お店情報

努努鶏(ゆめゆめどり)

住所:福岡県福岡市南区老司1-33-1

電話番号:092-565-8585

営業時間:8:00~12:00/13:00~17:00

定休日:土曜日・日祝日

ホームページ:http://www.e-yumeyume.co.jp(通信販売あり)

※この記事は2017年4月の情報です。

※金額はすべて税込みです。

書いた人:兵土 G. 剛

兵土 G. 剛

福岡のタウン情報誌の編集部に15年勤めた後、フリーライターに。食うの好き、飲むの好き、きれいな女の人好き。マメさなし、根性なしの偏屈じじぃ。 Twitter:G(じぃ)@G3hyodo

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