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「マンガで企業ロゴを描いたら本当にクレームは来るのか?」佐藤秀峰インタビュー:マンガ業界の自主規制とマンガ家の反抗 <前編>

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shuho

『海猿』や『ブラックジャックによろしく』を生み出したマンガ家・佐藤秀峰先生。現在は『週刊漫画TIMES』にて『特攻の島』の連載と、オンラインコミックサイト『漫画 on web』の運営を行っています。ガジェット通信ではたびたび秀峰先生へのインタビューを行っていますが、今回はマンガ業界の“自主規制”について語っていただきました。

ききて:
ふかみん(=深水英一郎/ガジェ通発行責任者)
レイナス(ガジェ通新人記者)

青年誌はパンチラが必須

ふかみん:
やっぱり青年誌特有の編集部から漫画家への要望ってあったりするんですか?

秀峰先生:

『海猿』の頃は「パンチラを描け」ってやたら言われましたね。僕は無意味なパンチラは嫌いなので、自分でブリーフを履いてギュッと引き上げたのを写真で撮って、それをトレースして「オラァ!オレの股間でヌキやがれ!」みたいなことを思いながらパンツ描いたりしてましたねぇ。編集部がうるさいんですよ(笑)。レスキュー漫画でパンチラとかストーリーと関係ないじゃないですか。「そんなことを頑張んなきゃダメですか?」と思うんですけど、「それが大事なんだ」と言われて。パンチラを描くかどうかで5時間も6時間もモメたくないんですよね。適当に折れて「そんなに言うなら描きますよ」って言うんだけど、ちょっといじわるするっていう繰り返しで(笑)。

ふかみん:
ズボン脱いでパンツ姿を自分で撮ってるのもちょっと悲しいですけど。

秀峰先生:
そうですねー。当時、現像に出してましたからねぇ……。

ふかみん:
ちょっ! 現像出してたんですか、自分のハイレグ姿をカメラ屋さんに(笑)。

秀峰先生:
(笑)。

マンガでロゴを描いたら本当に企業からクレームは来るのか?

秀峰先生:
編集部からの指示が本当に細かいんですよ。『白木屋』の看板が描いてあると、「もし『白木屋』からクレームがきたらどうするんだ」とか「ちょっともじった違う字に変えてくれ」とか。

ふかみん:
“百木屋”になってたりとかね。なんか意味わかんないですけどマンガって大概そうなってるじゃないですか。リアリティを追求した作品でもそうなっているものもあって、でもそれ必要あるんでしょうか。

秀峰先生:
編集部によって判断が違いますね。その辺りはモーニング編集部は寛大なところがあって、「街並に看板が映り込んでいたらそれも景色なんだから描くべきでしょう」みたいに言うんですよね。小学館はもう「変えてくれ」みたいな感じでしたね。担当編集者の度量にもよるかもしれません。

ふかみん:
冷めちゃうんですよね、あれ。

秀峰先生:
テレビ本体を描いた時に、そこに『SONY』っていうメーカー名のロゴを入れたら、それを“SOMY”でもなんでもいいから変えろって、原稿を渡したあとに校了で引っかかって描き直したことが何回かあるんですよ。それも「くだらねー」と思ってたんで、毎回テレビとか描くたびに、途中からぜんぶ“SEX”とかですね、そういう“ウンコ”、“チンコ”みたいな下品な言葉をロゴでデザインして、テレビの下に入れるようにしてるんです。

本当に載ってた

ふかみん:
余計あかんでしょ(笑)。

レイナス:
それは引っかからないんですか?

秀峰先生:
編集者に「チッ!」とか言われますけど、まぁ載るんですよ。で、どこまでいけるのかなと思って、入院してる主人公が病室で雑誌を読んでるんですね。その雑誌に「ヤンマガ」って描いたんですよ。『ヤングサンデー』で連載してるのに。それは載りましたね。「“ヤンマガ”はありか」と思って(笑)。色々そういうことしてましたね(笑)。

ふかみん:
意外とそういうことに労力使ってますよね……。

秀峰先生:
何かねぇ……、腹が立つんですよねぇ……。

ふかみん:
実際問題、ロゴを載せると、メーカーから苦情が来たりするんですか?

秀峰先生:
それは一回もなかったです。

ふかみん:
読者の立場から言わせてもらえば、“SOMY”って描いてあると「なんだそれ、ニセモノかよ」ってスーッと冷めちゃう。やっぱ現実じゃないんだと思っちゃう。さすがに、その話の中心に出てくる仮想のモノが同じ名前だとまずいと思うけど、背景としてそこにあるものまで描いてはいけないってのはちょっと。

秀峰先生:
そうですね、例えば「巨大企業の悪を暴く」みたいな話で、いきなりビルの看板に特定の企業名を描いてしまったら良くないと思います。でも、何かあった時のことを考えて、“なんでもないこともとりあえず自主規制しとこう”みたいな風潮がやっぱりあるんですよ。細かい部分ではそういう所にも出るというお話ですね。

漫画の内容に踏み込んだ話をすると、レスキューシーンを描く場合で、僕が「現場では助けられないことのほうが多いので、助からないシーンやその時の登場人物の葛藤や悲しみもちゃんと描いたほうがいい」って言うと、「実際に事故で死んでしまった人の遺族からクレームがきたらお前に責任がとれるのか」って言われるんですよね。

「だったらこんなマンガ最初から企画としてナシでしょ」と思うんですけど、「助かるシーンだけ描け。だったらクレームも来ない」と言われます。もしも僕が事故の犠牲者の遺族だったらそっちのほうが馬鹿にされてる気がしますね。何かそういう所でモメるんですよ。

ふかみん:
ストーリーとしてどちらがいいかじゃなくて、クレームが来るかどうかが判断基準になってしまっている。

秀峰先生:
ありもしないクレームを想定して、さも賢そうに自主規制するんですよね。単に「ストーリー上、このシーンは描かなきゃいけないので描きたいんです」って話し合えばいいことでも、“めんどくさいことはとりあえず自主規制”っていう風潮がどうしてもあるんです。それが嫌でしたね。さっきのテレビのロゴをわざと下品にしたりとかは、ささいな抵抗です。僕は必要があると判断すれば何でも描きます。人が死ぬシーンや残酷なシーンも割と積極的に描きますね。

実際の事件をマンガ化すると被害者の遺族が傷つくのか

ふかみん:
意地悪な聞き方かもしれませんが、逆にその編集部の対応が作家を煽(あお)ったというところはありませんか? “残酷に描いてやれ”みたいな。

秀峰先生:
どうでしょう? そこはちゃんと自分なりにモラルはあったつもりです。ただ残酷に描けばいいとは思っていないです。

僕の漫画じゃないんですけど、『モーニング』で連載していた時、過去に実際にあった殺人事件をそっくりに描いたマンガが誌面に載ってたんですよ。「羊たちの沈黙」とか猟奇殺人を扱った映画やサイコホラー作品が流行った時期ってあったじゃないですか。その漫画は実際の事件をアレンジして、確か“妊婦の腹を切り裂いて殺した上に、お腹にバラの花を一輪さした”みたいな感じで、ちょっと耽美(たんび)的な描き方をしていたんですね。その事件を精神科医が犯人探しをするというような内容でした。

一方、僕が『ブラックジャックによろしく』で池田小学校事件を参考にした事件を描こうとすると、そっちはダメって言われるんですね。「なんであっちはアリでこっちはダメなんですか?」ということを聞いたんですけど、結局「被害者の遺族が傷つく」とか「それで責任とれるのか」みたいな話になってしまいました。「そんな残酷な内容の雑誌を売らされる書店員の気持ちを考えてみろ」ということも言われましたね。

僕のはリアルだからダメだけど、もう一個のほうは実際の事件を参考にしただけで、事件そのものをテーマとして取り扱っていないし、作り物の見せ物だからいいんだよ、キレイに描けばいいんだよ、というようなことを言われました。僕としては重大な事件をネタ的に軽々しく扱うほうが不謹慎だし、よっぽど害悪があるんじゃないかなと。そういうのは読者から見たら絶対“ナシ”でしょって思うんですけど、それは“アリ”だって言うんですよね。そういうふうに美しく描いて、生々しく描かなければ“あり”みたいな。

ふかみん:
犯罪を美化してると解釈される可能性がある、と。

秀峰先生:
好奇心を満たすためだけにやっていいことじゃないと思います。

ふかみん:
タイミングみたいなのもあるんじゃないですか? 時期的にはどうでした?

秀峰先生:
事件から何年か経って、犯人の死刑が執行されるちょっと前ですね。その時は編集さんからある遺族に連絡してもらって「こういうことを描きたいと思ってるんですけど、そんなに傷つきますか、ダメですか」ってことを聞いてもらったんです。そしたら「むしろ描いてほしい」って話でした。

ふかみん:
「遺族に直接きく」というのは秀峰さんの発案なんですか?

秀峰先生:
そうですね。でも、僕は「聞いてみてほしい」って要求を出しただけで実際に文面は書いてないんです。文章の内容は慎重に相談しましたが、編集さんが手紙を書いてくれて、僕が確認してから送りました。「そんなに編集部が”遺族が傷つくからダメだ”って言うなら、遺族に聞いてみてくださいよ、じゃないと何も描かないです」ってなっちゃって。「そこまでするか、お前」みたいな感じで、お互い退くに退けなくなって(笑)。

今考えると編集さんもよく付き合ってくれましたよね。ありがたいと思ってます。

ふかみん:
でもまぁ、ぴりぴりするのは分かりますよ。事件が大きければ大きいほどどう判断していいかとか、どう扱っていいか分からなくなるっていうのはあるんじゃないですかね。秀峰先生の作品は死に関係する描写が多いですから、そういう場面も増えるんじゃないかと思います。設定もレスキューの現場とか病院とか、いま連載されてる作品も戦争に関連している。死に関する生々しい描写って日本は隠したがる傾向があるのではないでしょうか。

秀峰先生:
そうですね。三島由紀夫が割腹自殺した時は、切り落とされた首の写真が新聞の一面に掲載されたらしいですね。昔は新聞もそのくらいはやっていたんです。今は自主規制が進んで絶対にそういうのはありえないですよね。

ふかみん:
血ですらそんなに映さないですよね。事故があれば必ず大量の血が流れてるはずなんですけど、まずメディアには出てきません。そういうところにいきなり生々しい死の描写を突きつけると、ショックが大きすぎるみたいな心配もあるし。そういうメディアのあり方に慣れちゃってるみたいなところはあるかもしれない。

秀峰先生:
僕だって朝起きて新聞を見たら、一面に生首が大きく掲載されてたらちょっと嫌ですよ。残酷描写は本当は得意じゃないんですよ。でも、必要な時もあるんじゃないかという考えかな?

つづく

『漫画 on web』‐http://mangaonweb.com/

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記者:

デザイナーと記者の二足のわらじ。ふだんはホラー通信(http://horror2.jp/)で洋画ホラーの記事ばかり書いています。好きなバンドはビートルズ、好きな食べ物はラーメンと角煮、好きな怪人はガマボイラーです。

TwitterID: _reinus

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