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記憶の移植は可能なの? 脳科学の専門家に聞いてみた

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記憶をテーマにした映画は数多く存在します。記憶をたどったり、消したり、売買したり―。2月25日(土)公開の映画『クリミナル 2人の記憶を持つ男』もその内のひとつです。

重大な極秘任務の最中に死亡したCIAロンドン支局のエージェント。彼は世界を脅かすハッカーの居場所を知る唯一の人物だった。巨大なテロを阻止する唯一の手段は、脳手術によってその記憶を凶悪な死刑囚に移植すること。手術は成功するが、彼は自分自身と正義感あふれる別人格の“2人の記憶”に引き裂かれながら、テロリストとの壮絶な闘いに巻き込まれていく――。

“記憶の移植”なんてSF作品の中だけの話……と思いきや、科学技術の発展によって、その実現はそう遠くない未来にまでやって来ているのだとか。記憶の蓄積や操作をテーマに脳の研究を行っているという、脳科学者/富山大学大学院医学薬学研究部(医学)教授の井ノ口馨氏に話を聞いてみました。

記憶の移植はいずれ可能に?

井ノ口馨教授(以下、井ノ口):マウスの脳から特定の記憶だけを消去する実験は既に成功しています。また、異なる記憶を融合して、人工的に新しい記憶を作り出すことも可能です。そういった研究を行う身としても、今回の映画は非常によく出来ていると感心しました。知らない記憶が少しずつフラッシュバックしたり、他人の記憶が移植されたらどうなるのかという部分にリアリティを感じました。

――マウスで成功しているということは、人間でも可能なのでしょうか?

井ノ口:原理的には可能です。記憶は想起によって一時的に不安定な状態となり、“再固定化”のプロセスを経てまた強固な記憶として脳に定着します。一度特定の記憶を思い出してもらい、その不安定な状態の時に薬を投与することで、記憶を消去することができます。人については、海外の話ですが、PTSD患者に対して臨床的に実践され始めています。トラウマ体験の記憶を弱くして、症状を和らげてあげることを目的としています。

――他人の記憶を移植するというのは可能ですか?

井ノ口:今はまだ難しいですが、将来的には可能になると思っています。AとBという記憶があって、それを構成する神経細胞の違いを明確にする。そうやって、あらゆる記憶について構成要素の特定を繰り返していけば、決まった神経細胞の組み合わせによって記憶を復元することが可能になるはずです。さらにビジュアルデータと関連付ければ、取り出した記憶からビジョンを再現することも考えられます。そしたら、もう悪いことはできなくなりますね。犯罪が一発でバレてしまいます。

――そんな未来も決して遠くないと?

井ノ口:具体的に何年後と言うのは難しいですけど、決して夢物語ではないと感じています。BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)と呼ばれる技術があって、例えば、脊髄を損傷して下半身麻痺になってしまった人でも、脳から発する神経信号を身体の外部にあるマシンを通じて下半身に伝達するということが可能になっています。少し前には誰も考えなかった研究がどんどん進んでいて、今後もきっと新たな発見がたくさん生まれるでしょう。脳科学の目まぐるしい進化を見ていると、いずれ記憶の抽出についても不可能ではないことのように思えます。

脳科学が進歩すれば人間は不死になる

――劇中では、他人の記憶を移植したことによって、その人の“人格”や“習慣”をも体得していきますよね。これらは記憶と密接に繋がっているのでしょうか?

井ノ口:人格や習慣はすべて記憶の積み重ねなんです。例えば、この記事を読んでいる読者は、年齢の分だけ自分が生きてきた記憶を持っているはずです。でもそれは、もしかしたら15分前に他人によって植え付けられた記憶かもしれない。でも頼れるのは記憶だけです。記憶があるからこそ個人の人格や習慣を獲得し、アイデンティティを保つことができる。記憶が全くない人は喋ることもできませんよね。

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よしだたつき

記者:

PR会社出身のゆとり第一世代。 目標は「象を一撃で倒す文章の書き方」を習得することです。

TwitterID: stamina_taro

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