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syrup16gが稀代の3ピースバンドであることを決定付けた、今も色褪せない大傑作『delayed』

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11月22日、金沢EIGHT HALL でsyrup16gの全国ツアー『tour 2016 「HAIKAI」』初日を観てきた。約1年5カ月振りのツアー、しかもキャリア史上最長のツアーとあって今まで以上に注目が集まったのか、翌日が祝日であったとは言え平日にもかかわらず多くのファンが集結。おそらく石川県外から訪れた観客もいただろう。そんな中、11月16日に発売されたばかりのニューアルバム『darc』収録曲全曲に加えて、新旧バランスよく織り交ぜたセットリストで、syrup16gならではのスリリングなサウンドを響かせた。バンド結成が1996年ということは今年結成20周年だったわけで、ことさらそう言うことを押し出さなかったのも彼ららしいが、気が付けばベテランと呼ばれる域に入ってきた日本屈指の3ピースバンド。そのバンドとしての特徴を、彼らの評価を決定付けた大傑作『delayed』とともに振り返る。

デビュー後、短期間で2作品を発表
syrup16gがメジャーデビューした年、五十嵐隆(Vo&Gu)に取材させてもらったことがある。以下にその時のインタビュー原稿に添えたリード文を掲載する。

《すごいバンドがメジャーシーンに現れてきたものだ、と思う。メロディーセンス、歌詞の世界観、バンドアンサンブル、どれをとっても一級品であることは間違いない。そこら辺のバンドが束になってかかっても、間違いなく彼らにはかなわないだろうし、勝負以前にひれ伏すのではないかと思うほど、スピリチュアルなクオリティーも高い。立脚点が高いというのではなく、次元が違うといった感すらある。変に祭り上げられるのは当人たちの望むところではないかもしれないが、このバンドなら、ロックを次のステージに持って行ってくれるのではなかろうか──。そんな妄想を抱き、高揚感を抑えきれないでいるのは僕だけではなかろう(以下、略)》。

自分の文章スキルのなさにはほとほと嫌気が差すが、そこはご容赦いただくとしても、我ことながら、とにかくその時点でかなり興奮していることが分かる原稿である。実際、2002年、syrup16gがアルバム『coup d’Etat』でメジャーシーンに現れ、そのわずか3カ月後にアルバム『delayed』を発表した時、そこで受けた衝撃は相当なものであった。

素晴らしすぎる名曲「Reborn」
まず『coup d’Etat』。フィードバックノイズが強調されたディストーションの効いたエレキギター。歌にもギターにも寄り添うことなく、独特のうねりを響かせるベース。リズムキープというよりもダイナミズムが前面に出ている印象がある爆裂ドラム。そこに《最新ビデオの棚の前で/2時間以上も立ちつくして/何も借りれない/何を借りればいい/何本借りればいいんだ/何を借りればいい》(「神のカルマ」)や、《天才だった頃の俺にまた連れてって/いつのまに/どこで曲がったら良かった?/》(「天才」)といったそれまで耳にしたことがないフレーズが乗り、しかもメロディーはいずれも耳に残るものばかり。「何だ、これは!?」と一気に惹かれた。
そして、『delayed』。こちらは前作から一転、ミディアム~スローがほとんどで、明らかにメロディーが前面に出た作品。短期間で陰と陽、静と動を見せつけたバンドのポテンシャルの高さにも驚かされたが、この『delayed』はとにかくメロディーが絶品であった。M7「キミのかほり」、M8「Are you hollow?」辺りもいいが、何と言ってもM3「Reborn」が素晴らしかった。いや、素晴らし過ぎた。最初にこの音源を聴いた直後、その旋律にすっかり心を貫かれ、鼻息荒く「一体何なんスか、この曲は!?」とレコード会社担当者の携帯に電話を入れてしまったことを白状する。そんな“面倒臭い人”になってしまうほど、すっかり「Reborn」に心を貫かれてしまったのであった。
実際、筆者の取材の中で五十嵐本人も「自分でも「Reborn」は曲としての完成度が高い」と発言していた上、08年の解散ライヴで最後に演奏されたのが「Reborn」であったり、13年に“生還”と銘打たれた五十嵐がソロライヴ(とはいえ、メンバーは五十嵐の他、キタダマキ(Ba)、中畑大樹(Dr)で、実質syrup16gであった)のオープニングが「Reborn」であったり、この楽曲は今もバンドにおける最重要曲であることは間違いない。ちなみに「Reborn」は櫻井和寿がBank Bandにおいてカバーし、彼らのアルバム『沿志奏逢3』に収録されていることでも知られる。というわけで、アルバム『delayed』を解説するとなると、文字のポイント数を上げて、“とにかく「Reborn」が素晴らしい”と書いて終わりとしたいくらいなのだが、それではさすがに怒られそうなので、以下、「Reborn」の素晴らしさ、即ちメロディーの良さ以外にもアルバム『delayed』の優れた点を挙げてみたいと思う。

美しいメロディーには美しいサウンド
きれいなメロディーに呼応しているかのように、楽器の音色もきれいである。これも『delayed』の特徴であろう。M2「Everything is wonderful」、M4「水色の風」、M5「Anything for today」、M10「愛と理非道」。それらのエレキギター、アコギ、エレピ、オルガンの響きひとつひとつが美しい。M6「サイケデリック後遺症」なんてタイトルが示す通り、M1「センチメンタル」、M3「Reborn」辺りではサイケデリックロックの手法も取り入れられているが、それも決して過度ではなく、あくまでもメロディーを引き立たせるように添えられていて、マニアックになりすぎていないところもいい。過度ではないと言えば、前作『coup d’Etat』で多く見られたシューゲイザー的なアプローチは本作でも聴くことができるが、これまた過度ではないというか、うまくバランスが取られていると思う。本作中、ノイジーなギターが前面に出ているのはM9「落堕」とM1「センチメンタル」だと思うが、当時の五十嵐は所謂ロック的な先鋭さは全10曲中でこのくらいの割合が丁度いいと判断したのであろう。確かに当時は激しすぎるロックサウンドを毛嫌いする人も少なくなかっただろうし、何よりも純度の高いメロディーを強調することにおいて、このバランス感覚は正解だったと思う。

独特な言葉選びと旋律への乗せ方
syrup16gの歌詞というと、やれダメ人間だ、やれ鬱だと揶揄されており、明るく前向きな評価をされているのを見たことがない。まぁ、その指摘はあながち否定できない。この『delayed』にしても、M4「水色の風」の《消えないで/照れないで/君がいて/宇宙の中へ/見違えって/キレイになって/透き通って/水色の風》や、M7「キミのかほり」の《風のまわり 一瞬/君のかほり した》といったロマンティックなリリックもあるが、M3「Reborn」にしても《手を取り合って/肌寄せ合って/ただなんかいいなあ/って空気があって》と言いながらも、その後は《一度にそんな/幸せなんか/手に入るなんて/思ってない/遠回りしていこう》である。100パーセント見通しが良いわけではない(まぁ、そこが奥行きがあっていいところなのだが…)。何しろ《通信簿に書かれたよ/協調性に欠けてます なんて/妄想気味のロンリーガイ》(M1「センチメンタル」)という作者なのだから、どう転んでもこの部分は失われないのであろう。
よって、歌詞の内容云々よりも、ここではメロディーへの言葉の乗せ方に注目してみた。1stアルバム『COPY』収録曲「生活」のサビ《I want to hear me/生活はできそう?/それはまだ/計画を立てよう/それも無駄》からして言葉選び、その音階の付け方が独特であることが分かるが、もちろん『delayed』でもそのオリジナリティーは健在だ。それが最もわかるのはM9「落堕」であろう。《いつ髪切んだ/いつでもいいんだ/どうでもいいんだ/明日また熱出そう/熱出そう/寝不足だっていってんの》。こんなことを歌詞にする人はそうそういないが、それがまたメロディーにジャストフィットしているのだから、素直にそのアプローチは称えたいと思う。このセンスは、堕落を落堕と逆さにして“らくだ”と読ませたり、リビドーに“理非道”と漢字を当ててみたりする(M10「愛と理非道」)言語感覚とともに、評価されてしかるべきものであろう。

バンドの後ろ盾があってこその楽曲群
ここまで“syrup16g=五十嵐隆の才能”といった切り口で『delayed』を語ってきた。全ての作詞作曲は五十嵐が手掛けているし、フロントでそれを歌っているのだから、バンドの中心人物が彼であることは間違いないが、syrup16gはバンドであること──実はここも大事なポイントである。前述の通り、所謂爆裂系のナンバーは少なく、そういった意味での3ピースサウンドは、それこそ翌年のアルバム『HELL-SEE』やシングル「パープルムカデ」と比べれば比較的おとなしめかもしれない。しかし、ここに収録されている曲のほとんどは、五十嵐がひとりで作ったものではなく、スタジオに入って作り上げたものだという。厳密に言えば主旋律やコード進行は五十嵐が作ったのだろうが、ひとり部屋に籠って作ったものではなく、バンドという形態でなければ生まれてこなかったものだということだ。当時の取材でも五十嵐は「(曲は)バンドでやっているほうが出やすい。ひとりでやっていける自信は全然ないですね。やっぱり寂しいですね、ひとりは」と語っていた。何よりも名曲「Reborn」は前作までベースを担当していた佐藤元章に向けて書いたものだというから、これもまたバンドがなければ生まれなかったことは間違いない。syrup16gが名曲を生み出すのは彼らがバンドだからだ。そう考えると、08年に一度syrup16gが解散した後、五十嵐隆がソロではなく、再びsyrup16gで復活したのも必然だったと言える。

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