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副島隆彦(そえじまたかひこ)さん、ごめんなさい

金融日記

今回は藤沢数希さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。

副島隆彦(そえじまたかひこ)さん、ごめんなさい

先日、書評人というサイトに投稿された、次の記事をたまたま読んで、僕は自分が犯した罪を思い出してしまった。ひっそりと誰にも気づかれずにやったことだ。だから僕が黙っていたら、世間の人は、僕が何をしたのか、まったく知らないままだ。知らないままだった。

「副島隆彦というイノベーション」2011年04月03日/転載 2011年11月03日『書評人』
http://shohyoj.in/70

僕が、どんな罪を犯したのか。そのことを今日は書きたいと思う。自分の心を整理するためにも。そして、この胸を突き刺すような罪悪感から少しでも逃れるためにも。

最近、僕が出版した『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』[リンク]の中で、バーナード・マドフ事件について書いた。ひとつのセクションを丸々使って、かなりくわしくこの人類史上最大の詐欺事件について、僕は書いた。

僕は、大学で研究者をやっていたことがあるので、参考資料として使わせていただいた文献はていねいに掲載することにしている。研究者にとって、自らの論文がどれだけ引用されるか、というのは非常に重要な評価基準になる。だから、先駆的な研究、データや考察などを参考にした論文などは、できるかぎりフェアに紹介することに僕は大変気を遣う。それは優秀な研究者が、世間に正しく評価されるための非常に大切なプロセスなのだ。

それとバーナード・マドフ事件とどういう関係があるのか? 実をいうと、僕の本の中のマドフ事件の事実関係の記載は、『バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』[リンク]を参考にして書いたのだが、僕はこの本を僕の本の参考文献には記載しなかった。その多くを引用したにもかかわらず。これは作家として明確なマナー違反だし、ましてや、僕は元研究者として、普通の作家よりはるかにていねいに参考資料のリストを作っている。その基準からしたら、この本は確実に載せるべきだった。それでもなぜ載せなかったのか。 無視したのか。まるでそんなを本がこの世に存在しないかのような態度を取ったのか。それはこの本の翻訳・監修が副島隆彦氏だったからだ。

この本自体は、バーナード・マドフの人間関係を詳細に追った秀逸なノン・フィクションなのだが、副島隆彦氏による解説文が常軌を逸していた。ユダヤ人差別の中でも、出身地の違いによるユダヤ人によるユダヤ人の差別があるらしく、副島隆彦氏によればこの事件はすべて、そうやって差別されたユダヤ人のマドフが、マドフを差別したエリートのユダヤ人に対する、最初から入念に計画された復讐(ふくしゅう)劇だとされた。そんな、馬鹿な! 実際に本書を読み進んでも、そういった記述は全くなく、副島隆彦氏の荒唐無稽なストーリーがどこから湧き出してきたのか、僕には皆目見当もつかなかった。

副島隆彦氏によれば、アポロ計画は実際には誰も月には行っておらずアメリカの茶番劇だし、ホロコーストもなかったし、オバマ大統領は世界を支配する巨大な闇の権力の操り人形(パペット)なのだ。長い時間をかけて一生懸命書いた、まだ一度もセックスをしたことがない美しい女子高生みたいな、まだ僕と編集者しか読んでいない原稿に、どうしても“副島隆彦”という文字列を書きたくなかった。どうしても。それは何か汚らわしいことのように思えたし、恥ずかしいことのようにも思えた。“副島隆彦”という4文字、たった4文字を僕の本の片隅に少しでも書くことにより、僕の本が呪われてしまい、その他大勢のトンデモ本の仲間入りを宣告されてしまうように思えたのだ。それはレイプされる、とまではいかないけど、真っ白で柔らかい処女の肌に、薄汚れた二級市民の体液をかけられるような感覚だった。

僕の本は、ミルトン・フリードマンやフリードリヒ・ハイエクという自由主義の巨人たちの系譜を引き、グレゴリー・マンキューやポール・クルーグマンの教科書と同じような、正統派の経済学のイントロダクションでなくてはならなかった。そこに“副島隆彦”という名前を書くわけにはいかなかった。だから僕は彼の翻訳を大いに参考にしたにもかかわらず、そのことを隠し、彼の存在を無視した。言論の世界で、僕はひっそりと誰にも知られることなく、彼の作品を盗み、そして彼を殺した。僕は最低の人間だった。最低の犯罪者だ。

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