ダライ・ラマ「何かを決めるとき一面だけを見てはダメ。原子力についても同じ」 会見全文
ダライ・ラマ14世が2011年11月7日、都内で開かれた自由報道協会主催の記者会見に出席した。ダライ・ラマ14世は、1935年チベット(現在の中国・青海省)生まれのチベット仏教最高指導者。1995年、インドに亡命。1989年にはノーベル平和賞を受賞している。会見でダライ・ラマ14世は原子力エネルギーの平和利用について聞かれると、「物事を見るときには全体をみなさいということです」と語り、「何かを決めるときにも一面だけを見て決めてはダメだということです。原子力についても同じことが言えます」と述べた。
以下、会見の模様を全文書き起こして紹介する。
・[ニコニコ生放送] ダライ・ラマ14世の登場から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv69345575?po=news&ref=news#1:16:34
■「メディアの皆様はバイアスのかからない目で報道を」
司会: それではダライ・ラマ法王をお迎えいたします。
会場: (ダライ・ラマ法王14世が登場。拍手が起こる)。
ダライ・ラマ法王14世: おはようございます。遅くなって申しわけございません。今日はこのように多くのメディアの皆様にお目にかかれましたことを、非常に嬉しく思っております。
司会: では冒頭、ダライ・ラマ法王よりお話をしていただきます。よろしくお願いいたします。
ダライ・ラマ14世: まず最初に今回の訪日の目的についてお話申し上げたいと思います。今回は高野山において法話も行いましたし、また、もう1つの大きな目的といたしまして、地震・津波に遭われた被災地を訪問させていただき、被災者の皆様の悲しみを共有したいと思いました。そこで(被災地の)皆様と私の考えというものを共有させていただき、これから前を向いて歩きましょう、そして今こそ家を建て直し、街を復興していこうではないか、そういう決意をする時ではないかというお話をしました。
こうしてメディアの皆様にお目にかかる時には、私は常に次の2つの点についてお話をしております。特に私が大切だと思っていることなのですが、まず1つがヒューマンバリュー、人間の価値ということです。我々は、このところさまざまな問題に直面しています。これは私たちが自ら作り出したものでもあると言えます。そういった意味で、こういった人的な問題というものをできるだけ軽減するにはどうしたら良いかということです。そのためには自己規律、責任を持つということ、そして他を思いやるという気持ちです。
これにはやはり、私たちが謙遜の心を持ち、そのためには慈悲の心と愛情を持つことが大切だと思います。そしてまた、他人のために尽くすという意志の力というものも大切だと思っています。これは単に宗教的なものから起こるだけではなく、宗教がないところでも人間の本質として元々あるものだと思います。私たち人間が生まれた時に、人の愛というものはすでにそこにあり、宗教があれば確かにその力を強めてくれますが、宗教がないところ、つまり世俗的なところにおける倫理というものでもあると思います。
まず最初に申し上げたかったことというのは、人間としてお話をする前に、人間としての価値ということです。これはどういう宗教であろうと、あるいはお金持ちであろうと貧しかろうと、どういう国民であろうと、教育を受けていようといまいと、私たちは社会的動物としてこの世に存在しています。そして、社会に対して慈悲の心を持った家族を作り、社会をつくっていくことが大切だと考えています。
会場: (ダライ・ラマ14世、「カメラのフラッシュが強いので抑えてほしい」と要望)
ダライ・ラマ14世: 私も人権がありますので、すみません。あまりに強いフラッシュは避けていただきたいと思います。
司会: これ以降、ストロボを使用しての撮影はご遠慮ください。
ダライ・ラマ14世: それから伝統というものもあります。宗教にもありますし、それに伴う哲学的な背景があります。どの哲学においても共通していることは愛であり、慈悲心であり、赦しであり、自己規律であり、正直さであり、信頼の持てる人間になることです。確かにこの世界は物質的にはかなり開発された地域となってきました。しかし私たちは人間として愛情や寛容な心、人を助ける心が必要だと思います。そういった意味では、内なる価値というものが大切であり、それを育てていくことで、より豊かな世界に暮らすことができると思います。私は仏教徒として、また宗教人として、「宗教間での調和」というものを掲げて、大きなテーマの1つと考えています。これはやはり、どのような宗教であっても、宗教そのものが持つものが共通しているわけですから、調和が必要です。宗教の名の下で行われているさまざまな対立というものも目にすることがあります。北に行けばカトリックとプロテスタントのように同じキリスト教の中でも対立がありますし、またイスラム教の中ではスンニ派とシーア派の対立も見られるわけです。
なぜ私はこの2つの観点、決意について皆様にお話をするかというと、ここにお集まりのメディアの方々はとても大切な役割を担っているからです。人間の価値、そして宗教における調和というものを進めていく中で、確かに個人レベルでは祈りや瞑想というものもありますが、これが社会のレベルになると多くの方々に対する認識というものがとても大切になってくるわけです。近代社会においてもこれらの価値というものが共通に見られ、大切なものであり、だからこそ、こういった価値をぜひともメディアの皆様には伝え広めていただきたいのです。個人レベル、家族レベル、そして地域レベルでこういうものが大切なんだということに意識を向けていただき、皆様のお仕事であるメディアを通して是非ともそれをやっていただきたいと思うのです。
特にこのような現代社会、それからまた民主主義社会において、メディアの方々は大切な役割を果たしていらっしゃいます。特に「現実を伝える」という大きなお仕事をお持ちになっていらっしゃいます。皆様各々が、ゾウのように長い鼻を持って、各々の現実に対して前からも後ろからも匂いを嗅いでください。私も含めてですが、現実が一体どういうものなのかということを自分自身でしっかり認識していただいて、それを一般の方々にお伝えいただくことがとても大切だと思います。そして現在、我々の社会の中にある腐敗やhypocrisy(偽善)というものを、できるだけ排除あるいは軽減していくことに、皆様が貢献されるべきではないかと思います。そのためには当然、皆様が誠実でバイアスのかからない目で報道していただくことが大切です。
以前、私はチベットにおける苦難に対して、さまざまな責任を負っていました。しかし今年の3月から私は公的にも政治的な指導者の立場を降り、そして選挙によって選ばれた政治指導者へとその主権をお渡しすることにしました。ということで私は今、政治的な指導者としての役割をまったく持っていない普通の人です。だからといってダライ・ラマを辞めたわけではなく、今でもダライ・ラマです。
ただ過去を振り返ると、ダライ・ラマ1世から4世においては宗教的な指導者であって、政治的な指導者の役割は一切ありませんでした。ダライ・ラマ5世の時から現在に至るまでが宗教的・政治的両方の責任を負うことになったわけです。私は今、ダライ・ラマという立場にあり、この過去400年の宗教的・政治的両方の責任を果たすという役割の中で、政治的な責任を移譲することを喜んで、私の意志として決めたのです。日本もそうですが、私は民主主義を素晴らしいと思っています。当然、日本は民主主義のみならず産業の発展もしてきたわけですが、チベットにおいてもぜひとも真の意味での民主主義というものを作り上げていきたいと考えています。また、現在もあるのでしょうが、日本においては過去に素晴らしい伝統があったとうかがっています。例えばその中の1つに、年長者を敬うという気持ちがありました。バスや電車を待つ時も年長者をたてて、車内でもお年寄りに席を譲るというようなことです。最近はその意識が薄らいでいるようですが、そういう良い伝統はぜひともまた思い出して、大切に育てていっていただきたいと思っています。そういった意味で、真の民主主義というものを私はこれからますます進めていけるような体制にしてきたと思います。
司会: ありがとうございました。カメラマンの方、申しわけありませんが声が聞こえにくくなっていますので、連写の音を抑えていただければと思います
■「原子力が平和目的で使われるのであれば、また別の問題」
司会: ではこれより質疑応答に移ります。まず名誉質問として自由報道協会の(ジャーナリストの)ピオ・デミリアさんからの質問をお願いいたします。
ピオ・デミリア: 今回はいつもより記者の数が少ないかも知れませんが、誠意をもって法王のお言葉を世に伝えたいと思います。この度は東北の被災地を訪問されたとお聞きしました。法王は原子力エネルギーに関しては「賛成する」と仰っていますが、実際にご自身が訪問された仙台市や石巻市などでは復興のために人々が希望を持って懸命に働く姿が見られたかと思います。しかし福島の人々は未だに不安と絶望の中に生きています。これは福島第1原発から20km圏内の地域で撮られた写真なのですが、見捨てられた家畜たちが飢えで死んでいきました。確かに福島の事故による直接の死者はまだ出ていないのでしょうが、このように多くの動物が命を落としているのです。人間には幸せに生きる権利があり、その中には放射能に侵されずに生きる権利もあるのではないかと思うのですが、宗教的なリーダーとして、また人権保護者としていかがでしょうか。
ダライ・ラマ14世: 私が常に強調して皆様にお話ししていることは、物事を見る時には全体を見なさいということです。例えば何かを決める時にも、一面だけを見て決めてはダメだということです。原子力についても同じことが言えます。例えば破壊的な目的での使うものでは、やはり破壊的なものしか生みません。私の最初の来日あるいは二度目の来日の時でしたでしょうか、広島を訪問しました。原爆が投下された建物の跡も見ています。また別の機会ですが、原爆資料館にも訪問しました。今でも記憶に残っているのですが、被爆をした方の時計が原爆投下の時刻で止まって、焼け溶けた状態で展示されていましたし、束になった糸が溶けて一本になっているというものもありました。そしてまた、実際に被爆者の声も聞きました。ですから原子力というものが兵器として使われるということであれば、これは決して望ましい状態ではないと思います。
しかし、原子力が平和目的で使われるのであれば、これはまた別の問題だと思います。もし原子力発電の他に何か代替案があるのなら良いでしょう。一つに水力発電のためにダムを造るという方法があると思いますが、この方法は自然に対して何らかの破壊、あるいは悪影響を及ぼします。また、風力エネルギーや太陽エネルギーというものもありますが、まだ十分ではないかも知れません。ここで言う十分というのは、単に日本あるいは先進国の方々にとって十分ということだけではなく、これから発展していく国々にとっても十分でなくてはならないと思うのです。そうでなければ、貧富の差がますます広がることになってしまいます。私たちはこれから発展していく国々の人のことも考えていくべきだと思います。だからこそ最終的な決断というのは、専門家の方々がもっと広い角度から全体的にこの問題を捉え、最大限の注意を払って結論を出すべきだと考えています。
確かに物事、何かをなす時には99%の安全性というものを考えていただきたいと思います。しかし、いくら安全に対して配慮しても、やはりどこか1%の危険というのは残ります。100%安全とは言えないと思うんです。例えば車を運転していても、1%の危険はどこかにあるでしょう。例えばおいしい食事をいただいていても、どこかに1%、もしかすると何かのリスクを負うこともあるかもしれません。そして、こうやって私たちが集まっているこの会場でさえ、もし何か大きなことが起これば、やはりリスクはまったくないとは言い切れないということがあると思います。ただ少なくとも、万全を期して行っていくということが大切ではないかと思います。例えば、チェルノブイリの事故がありました。チェルノブイリの原子力発電所は古く、そしてまた十分な注意がなされていなかったために、ああいう大きな問題になりました。もしかすると、今回の福島(第1)原発もここまでの津波を予想されていなかったから、こういう状況が生じてしまったと考えられるかもしれません。大切なのは常に安全策を最大限に考えていくこと、そしてそれに基づいてなされるならば物事はいいのではないかと思います。ただ、例えばもう原子力発電所はいらないと皆さんがお決めになるなら、それはそれでいいと私は思います。
司会: 質問がございます方は挙手でお願いします。では重信(メイ)さん、お願いします。
質問者: フリージャーナリストの重信メイです。チベットは正義と人権のために多くの苦難の道を歩いてきました。そして、パレスチナもチベット同じような状況で63年、正義と自由のために闘ってまいりました。しかし国連に入ることができず、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関 )はその加盟を認めました。これをどう思いになられますか。
ダライ・ラマ14世: あまりにも大きな問題で、また、あまりにも大きな力が関わっているので、コメントは控えさせていただきます。
司会: 続いてご質問がございます方、代表の隣の黒いシャツの方、お願いします。
質問者: ニコニコ動画の七尾と申します。よろしくお願いします。被災地で多くの方を励ましてくださりありがとうございました。質問ですが、チベット・中東だけでなく、欧米そして日本でも政府などに対する抗議活動・デモが世界的に激化しております。理由や規模はそれぞれですが、民衆が政府に強い不信感や怒りを感じていることは明らかです。こうした世界的なうねりは、今後どうなっていくとお考えでしょうか。政府と民衆との対立を克服するために、何が必要でしょうか。よろしくお願いいたします。
ダライ・ラマ14世: 先ほどから申し上げておりますが、今の世の中というのは、やはり道徳的な考え方が欠如しています。そういったシステムそのものに問題があるということです。あるいは道徳や倫理の誤用が見られると思います。だからこそ政治に関しても、やはりどうしても汚れた政治になってしまいがちです。確かに政治というのは問題を解決する1つの方策であると思います。しかし、その政治を行う政治家の皆さんが倫理あるいは道徳を持たない心で行われれば、どうしても政治というのは汚れたものになってしまいます。これは宗教でも同じことが言えます。例えば道徳的観点や倫理を持たない宗教であれば、宗教家がそういう状況であれば、宗教も同じように汚れたものになってしまうということです。だからこそ、我々はやはりすべての努力をかけて、倫理や道徳観、そういったものを推し進めていかなくてはならない。これは単に宗教的な考え方を通してだけではなく、皆さん自身がお持ちになっている良識を通して行うことができるのではないかと思います。良識や信頼を得ること、正直であること、そういったものが友情を育み、そしてまた温かい雰囲気が人を幸せにします。ですからそういった意味でやはり、例えば人々がいくらお金持ちになり、良い物を着ていても、そこに良識が無かったり、あるいは道徳心がなければ決してその人は幸せにはなれないと思います。だからこそ、やはり信頼ができる社会をつくっていくことが大切で、例えばいくら億万長者になっていても、自分だけが億万長者になっているようでは決して幸せにはなれないということです。
特に最近では貧富の差が大きくなってきております。この格差が大きくなっているのを何とか小さくしてほしいと、私はアメリカでも話をしました。アメリカでは、億万長者が更に億万長者になり、そしてまた貧困層にいらっしゃる方は、あくまでも未だに貧しい生活をしている、格差が広がっているという状況です。何とかこのギャップを小さくして下さいという話をアメリカではしました。同じことが、例えば南の国々、つまりアフリカや南米、あるいはアジアの一部の国々でも行われていると思います。
■「意味のある自治をチベット人に持たせてほしい」
ダライ・ラマ14世: 先日、インドでガンジー派の方がある運動を行いました。確かに、これはそんなに大きなものではありませんでしたが、しかし国の腐敗を何とかしたいという気持ち、こういうものにもっと皆さんは目を向けるべきだと思います。またインドだけではなく、中国でも政治的腐敗が見られます。ところが、残念ながら中国ではそういったものに、一般の方々は声を上げることができない、表現ができないという状況にあります。こういった話をしますと、皆さんはよその国のことのようにお考えになるでしょうが、実は皆さんにも責任があります。皆さんも例外ではないということです。だからこそ、皆さんもそれぞれに責任を持って役割を果たして、よりクリーンな世の中をつくることに貢献していただきたいと思います。
司会: ちょっと後ろのほうから・・・。通路側の黒いスーツ、ピンクのシャツを着ていらっしゃる方。
質問者: 元NHKの職員をしておりまして、内部告発をした立花孝志と申します。現在はフリーランスであります。ご質問ですが、昨年9月、日本の尖閣諸島沖で中国の漁船が、いわゆる違法操業をしていた。これを日本の海上保安庁の巡視艇が発見して警告を発した事件がありました。その警告を発した巡視艇に対して、中国漁船が故意に衝突をしたという事件があったんですが、その映像を日本の政府は公開をしなかった。2ヶ月後の11月にsengoku38と名乗る一色正春さんという一介の海上保安官の方がYoutubeにその情報をアップロードしました。この件でご感想があれば、お聞かせいただきたいと思います。以上です。
ダライ・ラマ14世: 日本の問題だと思います。
会場: (笑いが起こる)。
司会: 続いて、通路側の後ろの女性、お願いします。
質問者: では、チベットについてのご質問をしたいと思います。最近、チベットにおきまして僧侶の方々が焼身自殺をするということがありました。これは、焼身自殺をしてまで何を達成しようとしていらっしゃったんでしょうか。それから法王様がインドに出られて50年以上経ちますが、未だにやはり抗議活動等が行われています。実際に非暴力で今の状況が変えられるんでしょうか?
ダライ・ラマ14世: まず非暴力についてです。チベットの人間、そしてチベットに住むチベット人に対しても常に非暴力であるようにと私は話し続けております。中国の共産党によってチベットが占領された、あるいは別の言い方では「解放したんだ」という言い方をしていらっしゃる方々もいらっしゃいますから、どちらに取るのか、皆さんが調査をして、何が現実なのかということをぜひとも見ていただきたいと思います。ただ私たちはチベット人であり、中国人ではありません。私たちはチベット語という言語も文化も宗教も持っております。だからといって、私たちは何も中国から分離をしたいと訴えているわけではなく、意味のある自治を私たちに持たせてほしいということを申し上げているだけです。中国の共産主義がさまざまなプロパガンダを行います。そして今の状況になっているわけです。しかし、実際にチベットを訪問される中国人、本土の方々もひどい状況になっていると考えている。あるいは文化的なジェノサイド、虐殺状況になっているんだということを皆さん理解されていらっしゃると思います。
確かに強硬派の方々がみえて、今のチベットの状況を変えようとしています。ある意味では、準・文化革命のような状況になりつつあるということで、残念ながら悲しい出来事がチベット内で起こったということが皆さんの目にも触れているかと思います。だからこそ、ぜひとも皆さんがチベットに行って、一体何が現実なのかをくまなく皆さんの目で見て、それを発表して、一般の方に知らしめていただきたいと思います。私がどういうコメントをしても、中国に対してあまり意味がないことでありまして、やはり皆さんがそういうものを見て発表されるということが大切かと思います。日本の方々は中国の方に近いですから、「私は日本人です」と書いて、チベットに入られたらいいのではないかと思います。そういった意味でも、まず今の状況をわかっていただきたいと思います。
それからまた、中国の方自身も厳しい状況に置かれており、やはり苦難だと思います。中国は全体主義ですから、現実、本当のものを報告することができません。官僚でもそうです。上の方が喜ぶような、聞きたいことを報告するという状況に置かれています。そういった意味では「hypocrisy(偽善)の戦士」であるということであります。
会場: (ダライ・ラマ14世が自ら指名する)。
司会: 黄色いシャツの方ですね。ご指名でございます。
質問者: ありがとうございます。スピリチュアルTVの小泉と申します。やはり、いろいろな問題を解決するために、世界の人々が精神性を上げていったり、例えば仏教でいう悟りを開いていくような人が増えると、世の中が良くなっていくのではないかとうちのテレビは考えています。悟りや世の中の人たちが精神性を上げていくために、いい本や教えがありましたら教えていただきたいと思います。よろしくお願い致します。
ダライ・ラマ14世: 仏教的に申し上げますと、日本にも素晴らしい法典があります。法華経、華厳経、あるいは般若心経というものがありますので、そういうものを皆さんも勉強されたらいいのではないかと思います。大切なのは、恐れの心、あるいは心配する心を減らしていくことだと思います。そして、社会における内なる価値というものを進めていくこと、これは教育によって行うこともできます。そして日本は素晴らしい伝統をお持ちです。先ほども話をしましたが、素晴らしい価値観をお持ちですから、ぜひとも、もう一度そういうものを学んでいただきたい、あるいは思い起こしていただきたいと思います。
今回、日本で大きな震災があり津波や地震によって被災者がたくさん出ました。しかし、すでにもうそこには高いレベルのスピリチュアルな協力活動があったと私は聞いております。震災後2日目に訪問した方からの話によりますと、被災者同士あるいは政府の力を借りずに、一般の方々が被災地へおもむき、協力活動をして助け合ったという話があります。そういうものがあればこそ、恐れや不安、あるいは救いようがない気持ちというものを減らしていくことができると思います。単に祈りや瞑想だけではなく、やはりみんなが現状を気付くということ、道徳観を持つということ、こういったものによって状況というのはかなり改善されるわけです。日本は第二次世界大戦後、戦後の灰の中から社会というものを再建しました。ですから、今回はもっともっと良い社会を皆さんが作ることができると思います。そういった自信を持っていただきたいと思います。そういう中で、宗教あるいは政治家、役人、ビジネスマン、教師、多くの方々がそれぞれの立場から、より良い社会を作っていくための責任を果たしていただきたいという風に思います。
司会: 続いて岩上さん、お願いします。
ダライ・ラマ14世: あと10分とさせていただきたいと思います。
司会: はい。
質問者: ジャーナリストで、IWJの代表であります岩上と申します。よろしくお願いいたします。日本は今、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)という経済連携協定に入るということが非常に大きな政治的な問題になっております。これは、本質的にはアメリカという帝国を中心とする軍事的・経済的なブロック化であって、そこでは中国の脅威が非常に強調されております。チベットの現状を見ていると、中国の脅威は本当に現実のものであろうと思うのですけれども、我々はアメリカの帝国主義にも、中国の帝国主義にも与したくない。こうした巨大な帝国の隣に位置するチベットあるいは日本は、どのようにして民族の誇り、自治、主権、自立を周囲と協調しながら維持していくことができるのか。法王陛下のお考えを聞かせてください。
ダライ・ラマ14世: すみませんが、TPPのことはよく勉強していません。申しわけありませんがコメントをするには、もう少し勉強させてください。
■「中国は人々に対して厳しいコントロールを続けている」
司会: 通路から3番目の眼鏡の方、黒いTシャツの方、お願いします。前から2列目です。
質問者: チベットは中国とのあいだに大きな問題を抱えています。今後、チベットと中国、そして日本との関係はどうなるべきだと考えますか。
ダライ・ラマ14世: 問題を好む方は誰もいらっしゃらないと思います。これに対しては、中国の共産主義者も同じだと思います。やはり問題というのは、我々が無知から作り出したものであると仏教では言っております。仏陀(ブッダ)も言っております。すべての問題というのは我々の無知から生じるものだということです。
今13億人いるという中国の方々、この方々も現実を知る権利、そしてそれを判断する権利というのも持っています。でも今は残念ながら多くの歪んだ情報が与えられており、それによって中国というのは非道徳的な状況に置かれているということです。つまり、そういう現状を知り得ない状況に置かれているため、農民や一般の方々は、同じように苦難な日々を送っていらっしゃるわけで、適切な法的システムが確立されることにより彼らの状況はかなり変わってくると思います。私はある日、中国の方から手紙をもらいました。北京に住む方で、「ダライ・ラマ法王は宗教的指導者であるが、いろいろ問題もある」という指摘であったのです。しかし私の話している「中道」の道ということをこの方が聞かれた時に、もしこれを中国人が知れば、皆ダライ・ラマ法王のやり方を支持するであろうと言いました。そしてまた、北京に住む中国の方々はそう仰ってくださったわけです。1990年、天安門(事件)後、200人の中国人学生にハーバード大学で会いました。そして天安門の抗議(運動)に関わった20人の学者の方々に会いしました。そして中道について私の考えをお話したところ、もし中国の皆さんがこれを知ることがあったら、中国の方々は全員、法王様を支持するであろうと言われたわけです。
ここでちょっと冗談を申し上げたいと思います。中国の強硬派の方々が、ある日私に対して「あんたは悪魔だ」と言いました。その時にはイタリアの市長もいらっしゃったりとかいろいろあったわけですが、一種のマルキスト(マルクス主義信奉者)みたいな形で言われました。最初に私を悪魔だと呼んだ方がいらっしゃった時に、「角が生えて怖いんだよ」と(冗談で)私が申し上げたら、中国のメディアはそれを取り上げ、まるでテープレコーダーに撮ったようにずっとそればかり流すのです。まったくバカな話で、そういう悪魔で角が生えている人間がどこにいるのだという良識さえも分からず、それを常に流しているという状況です。人間の脳に良識という領域があるはずなんですが、どうもそういうものが欠けている方々がいらっしゃるようです。中国の方々は一般的には文化もあり、そして良く働く勤勉な方々であります。しかし、そういった一面もあるということです。
(中国での)革命当時、1930年、40年代、日本と中国は戦争をして当時は確かに戦争のために厳しい規律、コントロールが必要だったのかもしれません。しかし戦後もいまだに、中国は人々に対して厳しいコントロールを続けているわけであり、それにより歪んだ情報が人々に流れ、そして人々はやはり恐怖のなかで生活をしているわけです。私は個人的に中国の政治家をどうこう言うつもりはありません。しかし、そういう状況はなんとか改善できればと思います。1つの例を申し上げますが、中国のメディアは常に「第二次世界大戦でこういうことがあった、日本はあんなことをした」ということを繰り返し話しております。でもそんなことをやって、日本と前向きな関係が作れるのでしょうか。やはり良識というものが大切だと思います。どうも皆さんありがとうございました。
会場: (拍手が起こる)。
司会: ありがとうございました。(自由報道協会の)暫定代表からご挨拶がございます。
自由報道協会・上杉隆: 本日はありがとうございました。今日の会見を主催している自由報道協会(暫定)代表の上杉と申します。実はこの会見に来ている仲間は、全員通信のメディアを中心としています。というのも日本政府が、基本的にこのメディアを排除しているということで今日お招きしたのです。通信といえば、猊下もツイッターでフォロワーが300万人いらっしゃるということと、(ダライ・ラマ法王の)フォロワーがゼロということなので。ぜひうかがいたいのは、通信メディアが今後世界における自由ということに対して寄与するのかどうか、そしてフォロワーゼロということはなぜかということをうかがいたいと思います。
ダライ・ラマ14世: こういった通信は、非常に役に立つと思います。特にインターネットを通したコミュニケーションは重要な役割を果たすわけであり、閉鎖的な社会においてはまさにそうです。今起こったことがすぐに出されるようになる。60年代、70年代には、チベットで起こった状況がインドに届くまで1年、2年かかりました。今はもう即座にわかるようになっています。役割は大きいと思います。
司会: ありがとうございました。ダライ・ラマ法王に大きな拍手をお送りください。自由報道協会主催の記者会見では、ゲストスピーカーに敬意を表して拍手でお送りしています。どうもありがとうございました。
司会: (ダライ・ラマ14世が退席。拍手が起こる)。
(了)
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(協力・書き起こし.com)
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