村川絵梨『花芯』インタビュー

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1957年に瀬戸内寂聴によって描かれた小説「花芯」が初の映画化。親が決めた許嫁・雨宮(林遣都)と結婚し、子をもうけながらも夫の上司である越智(安藤政信)に恋をする主人公・園子(村川絵梨)の生き様を描いた本作は、時代背景から遠い物語のように感じられるかもしれないが、女性の恋愛や性、それにまつわる感情を鋭利に描き、今を生きる女性にも深い共感を呼ぶに違いない秀作となっている。子宮の命じるままに生きる、からだじゅうのホックが外れている女ーー身体と心を曝け出して園子を演じた村川絵梨に話を聞いた。

——安藤監督はずっと村川さんとお仕事をしたいとおっしゃっていたそうですね。オファーを受けた時の率直な感想を教えてください。

村川「まずこういう一人の女性の半生を描く役に、監督が私をイメージしてくださったというのが純粋に嬉しかったです。そして瀬戸内寂聴さんの作品の強さみたいなものが台本を読んでる時点で伝わってきて、園子という主人公に対しても、この女性はなんて格好いいんだろうと本当に純粋に好きになって。でも果たして私にできるのかなとも思ったんですね。いろんなチャレンジもあるし悩んだんですけど、『いや、これはやらなきゃ後悔する』とすぐ思えたのでお願いしますと挑みました」

——その悩んだ部分というのは?

村川「感情的にも肉体的にも色々女性として晒け出さなきゃいけない部分も多い役なので。そこを私が無理してやってしまったら無理しているものが伝わるし、無理しないでできるかということを考えて自分と戦って。でも『今ならできる!』と思えたんです」

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——今ならできると思えたのには何が一番大きかったんでしょうか。

村川「年齢的なこともあると思います。ちょうど二十代後半にかかってきて、今まで演じてきた役はどちらかというと元気で、少女のような感じがあり。なんだろう……それをもっと自分の中で変えたかったし、大人の女性を演じられる三十代になりたいなと思っていました。その第一歩として、随分大きな一歩ですけど(笑)」

——(笑)。

村川「こんな作品に巡り会えるというのはご縁だと感じましたし、運命なのかなと。これが1、2年前くらい前だったら、自分の経験もまだ浅いし、もしかしたらできていなかったのかなとも思います」

——なるほど。先ほど園子のことを格好いいとおっしゃっていましたが、憧れとシンパシーどちらの気持ちでしたか?

村川「シンパシーでした。言葉数が少ないのですが、発するセリフ一言一言にハッとして。私自身はたくさん喋っちゃうタイプなんです。でも園子は言いたいことを簡潔に一言にしていて無駄なことを喋らない。それでいて男女の性についてや男の人に対しての気持ちなどを代弁してくれている」

——確かに、私もとても共感しました。

村川「茨の道を歩んでらっしゃる女性には特によくわかって頂ける気がします(笑)」

——茨というか、ステレオタイプではない自分の道を歩むという時に、周囲の目というのはやはり厳しいものですから。

村川「そうですね。園子の時代は特にそうでしょうし、今の時代でもトゲがあると思います。今は女性みんながもっと自由になってきているとはいえ、そういう意味でもきっと園子の気持ちに共感する人は多いですよね。ああ、でも園子へはやっぱり憧れの気持ちもありますね。彼女は恋や愛に自惚れないじゃないですか。男の人のペースに振り回されて悩む女の人は多いだろうし、私もそうやって陥るときもありますけど、凛と強くいられて感情もあまり出さない、でも突っ走る勇気もあるーーこんな女性がいたら、男の人が逆に苦しむんだろうなって。この役を演じて勉強になりました(笑)」

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——瀬戸内寂聴さんの原作も読まれましたか?

村川「脚本を最初に読んで、その後原作を拝読しました。原作はもっと繊細に描かれていてすごく好きでした。映画には描かれていない部分も原作にはあるので、読んで園子のイメージが固まった部分もあります」

——園子の人間性は本作で実に忠実に描かれていましたね。特に冒頭は激しい感情を出さない分、村川さんの目と口元の些細な表情の変化が絶妙で惹きつけられました。

村川「本当ですか、嬉しい! 監督からは、もう『何もしないで、何もしないで』と言われていて(笑)。私は最近よく舞台をやらせていただいていたので舞台上で演じるようなオーバーな演技になりやすくなってたみたいで、本作では削ぎ落とされて削ぎ落とされて、という感じだったんですね。おっしゃるように冒頭は園子がすごく冷めていて、脚本にも『園子こういう風に見る』と、その引いた目線を書かれていて、セリフは少なくて。でもどうしたって、起こっている出来事が普通ではいられないことが多くなってきて、感情を出さずにはいられないんです。それをなるべく抑えようとしていたというのが、うまく園子とリンクしていったのかもしれません。本当に今までこういった役に出会ってきていないので、監督に私のこういう部分をいつ見透すかされたんだろうと不思議です(笑)」

——表情の変化でいうと、性交の後がやはり印象的でした。傍観者から、目覚めた時のほころぶような感じがあり、その後には狂ったような。そしてクライマックスがくる。自分の核心に近づいていくという流れにおいて、とても重要な変化だと思いました。

村川「ええ。その絡み合いが一番大事なところでした。園子が変わっていく象徴というか。『覗いちゃいけない深淵を覗いちゃったの』という、最後の越智さんとのシーンに行くまでの雨宮とのシーンがある。だから絡みに関しては1シーン1シーンを監督とかなり細かく話して、なるべく順番に撮ってもらって。そうすることによって自然と気持ちも流れていったというのはありますね。どういうお芝居にするかは決めず、感情だけを決めたんですが、感情だけは絶対に確信を持って相手役の人とやりたかったので」

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——雨宮と越智は対照的な二人ですが、林さんと安藤さんと共演されていかがでしたか?

村川「実際も対照的な印象がありました。林くんはすごく真剣で、戦友みたいな感じ。現場でも全然話さないんですよ。向こうも雨宮のモードですし、私も園子のモードだから、横にいても全然話さないで、常にちょっとピリピリしたモードというか。雨宮という人物の描写が少ないので、演じるのも難しかったと思うんですよ。言葉一つひとつのニュアンスが難しいので、毎シーン、毎シーン考えて挑んでるんだなという、すごくまっすぐな感じがあって。私も冷めた目線ではありますが、演じるには熱をもって挑んでいるので同じまっすぐなぶつかり合いができた。最後は思わずありがとうございましたってハグしちゃうくらいの戦友でしたね。絡みのシーンの気の遣い方も本当に紳士でした。安藤さんは撮影の後半の方にいらっしゃったんですが、ファーッて海外の風が吹いたみたいな(笑)、すごく力が抜けてる方で。私もそれまでギューッとなっていたのが、安藤さんが来てほどけた感じがあって。それはこの役での越智との出会いともリンクするような感じもありました。話しかけてリラックスさせてくれるし、気を遣ってくださいました。バッて隠してくれたり、『見ませんよ』みたいな(笑)。とにかくお二人とも紳士で、私が良くなるようにということを考えてくださっていて、『ありがとうございます』しか言いようがないです」

——安藤監督は、前作でもそうですが、心と体の関係性を描かれていることが多いと思います。今作で、村川さんはその関係性をどう捉えられましたか?

村川「個人的には、身体と心はすごく矛盾してるところと、一心同体だと思うところと両方あります。でも今作は、感情とは別の部分で子宮が反応してしまう悲しさ——受け身である女性の悲しさ、孤独感などがテーマだと思っていて。実際、身体と心が一つになることって日常生活でもあまりないと思うんです。女性がまだ熱をもっていても男性は行為を終えたら既に冷静になっていることがあったり、その隙間にどうしたって空虚感はあって…。女性はそんなにシンプルじゃないんだって、正直に描かれてる映画かなと思います」

——そうですね。その空虚さや孤独感も知りながらの、園子のダイブの仕方が本当に格好いい。最後の笑みはすごく象徴的ですよね。

村川「きっと、園子の人生はこれからもっと波瀾万丈で過酷だと思うんです。出来上がった作品を観た時に、その始まりという恐怖も感じて。あの時は清々しく笑ってたけど、本当にこの後どうするんだろうと。人生の第2章のスタート、第1章の終わりという感じだと思っています」

——それでも園子は園子らしく生きていくんだろうと思いたいです。最後に、園子を演じて村川さんが得たことがあれば聞かせてください。

村川「監督と出会って、削ぎ落とすお芝居に挑めたことがひとつ。あと、この作品で女性というものを改めて自分も考えさせられて、27、8歳で出会うべくして出会った作品なんだなと、仕事としてもプライベートとしても思わされました。園子のように、強く飛び込めて、でも溺れてしまわない。そういう生き方って羨ましいし、すごく強い芯を持ってたくましく生きた人がいたということで、自分も観た方も心強い気持ちになってもらえるのかなって。その“芯”を大事にして演じましたし、演じることで自分にも芯が得られたような体験ができたのが嬉しいです」

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撮影 中野修也/photo  Shuya Nakano

ヘアメイク フジワラミホコ/hair&make-up  Mihoko Fujiwara(LUCK HAIR)

衣装協力 銀座いち利/costume cordination  Ginza Ichiri

取材・文 桑原亮子/interview & text  Ryoko Kuwahara

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『花芯』

8月 6日(土)  テアトル新宿他全国公開

「きみという女は、からだじゅうのホックが外れている感じだ」―それが園子(村川絵梨)の恋人・越智(安藤政信)の口癖であった。

園子は、親が決めた許婚・雨宮(林遣都)と結婚し息子を儲けていたが、そこに愛情はなかった。

ある日、転勤となった夫について京都へ移り住んだ下宿で越智と出会い好きになってしまう。

生まれてはじめての恋に戸惑いながらも、自身の子宮の叫びは次第に大きくなり抑えられなくなっていく―。

<原作「花芯」について>

1957年(昭和32年)10月「花芯」を『新潮』に発表。

「子宮」という言葉が多く出てくることから発表当時「子宮作家」と呼ばれ、

その後5年間ほど文壇的沈黙を余儀なくされた。

原作:『花芯』瀬戸内寂聴著(講談社文庫刊)

監督:安藤尋 脚本:黒沢久子

出演:村川絵梨、林遣都、安藤政信 /毬谷友子

配給・宣伝:クロックワークス

製作:東映ビデオ、クロックワークス

製作プロダクション:アルチンボルド

制作協力:ブロッコリ、ウィルコ

2016年/日本/95分/ビスタサイズ/DCP5.1ch/R15+

(C)2016「花芯」製作委員会

公式サイト:kashin-movie.com

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