「ライトノベル作家」に夢はありますか? 投稿サイト出身作家に聞く(1)

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自作小説を出版社に投稿し、新人賞を取ったり、編集者の目に留まって作家デビュー。そんなデビューの仕方は今、大きく崩れようとしているのかもしれない。

「小説家になろう」や「エブリスタ」「カクヨム」などのインターネット上に存在する小説投稿サイト発の作品が増え、出版社側も優れた才能がいないか注目している。また、そこで生まれて大ヒットしたライトノベルは『オーバーロード』や『魔法科高校の劣等生』『アクセル・ワールド』などビッグタイトルが並んでおり、ライトノベルの中には「なろう系」という新たなジャンルが生まれているほどだ。

新刊JP編集部は、「小説家になろう」への投稿をきっかけにMFブックスからデビューしたライトノベル作家・かすがまるさんに、作家、出版社、読者の関係が変化しつつあるライトノベルの世界の今を切り取るべく、作家生活からお金の話、投稿サイト、メディアミックスなどについてあらいざらい話を聞いた。

(取材・文/金井元貴)

■実は作家ではなくイラストレーターを目指していた

 

 
 

――かすがまるさんは2014年から『火刑戦旗を掲げよ!』を小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿し始めて、同作で「小説家になろう大賞2014」のMFブックス部門優秀賞を受賞、ライトノベル作家としてデビューされています。もともとライトノベルが好きだったのですか?

 

かすがまる:最初にハマったのは中学生のときです。『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』の世代なんですが、ものすごいブームになっていて、角川からファンタジー映画が一気に公開されて。当時私は受験生だったのですが、ストレスから逃げるように読んでいました(笑)。

 

――1980年代の終わりから1990年代前半くらいですね。

 

かすがまる:そうですね。あとはグループSNEがらみのファンタジーTRPGとか。でも、『ロードス島戦記』の衝撃が一番大きかったですよ。夏休みの時期はだいたいOVAをテレビで流していて、「タッチ」と「ロードス島戦記」を見るのがセオリーみたいなところがありましたから。

 

――ライトノベルを書き始めたのもその頃ですか?

 

かすがまる:その頃は「ライトノベル」という言葉はなくて、「ファンタジー小説」や「ジュブナイル」、「青春小説」が代わりの言葉だったと思います。

 

分岐でストーリーを辿るゲーム小説みたいな感覚でファンタジー世界を妄想したり、TRPGのリプレイを自分で文章に落としてみたりして、友だちとそれを見せ合っていました。それこそいつかグループSNEの『ソード・ワールドRPG』に参加できたら夢みたいだと思っていましたね。

 

高校に入ってからは、雑誌部に所属してファンタジー系の短編小説を書いたりとかそういうノリでした。中学生の頃に好きだった戦記小説に影響を受けて。

 

――その頃はまだプロを目指そうと思っていたわけではなく?

 

かすがまる:全く思っていなくて、文章よりもイラストの方が好きだったんですよ。絵を描いてそれがお金になればいいと漠然と思っていました。大学でもそんな感じで、絵で食べていくのは夢でしかなかったので、現実的な進路として教育関係を志望していましたね。

 

――おそらくちょうどその頃に「ライトノベル」のブームが来たのではないですか? 象徴的な作品である『涼宮ハルヒ』シリーズが2003年にはじまっています。そろそろラノべを書き始めたのでは…?

 

かすがまる:『涼宮ハルヒ』ブームは社会人になってからだったと思います。ちょうどその頃に、「2ちゃんねる」の「ニュース速報(VIP)」という掲示板で「新ジャンル」という遊びのようなものが流行っていたんです。まずはスレッドを立てた人が架空の女性キャラの設定を考えるんです。その設定に基づいてエピソードや絵をつけていくという。私自身もそこに絵師として参加して創作活動をしていました。

■ライトノベル作家のほとんどは兼業作家!? キビシイ作家業の裏

 

――え!? では、いつ小説を書き始めたのですか?

 

かすがまる:その後ですね。ゲームとかマンガを読んでいると「ここはこうしてほしい」という欲求が出てくるんです。個人的な不完全燃焼ですね。ちょうど二次創作の文化がネットでも定着して、いろいろなサイトで二次創作のストーリーを読んでいたんです。それを粗方読み終えたところで、「自分でも書いてみよう」と。

 

そこで3作くらいオリジナルの長編ファンタジーを「小説家になろう」に投稿をしまして、4作目の「火刑戦旗を掲げよ!」を書こうと思ったときにちょうどMFブックスさんの「小説家になろう大賞2014」というのが開催されていて、募集ジャンルの中に戦記・群像劇というものがあったのでこのテーマで書いて応募してみようと。

 

――賞に応募するってかなりハードルの高いことだと思いますが。

 

かすがまる:ところがまったくそうではなく、応募用のタグがあってそれを付けるだけだったので、まったく「応募した」という感覚はないんですよ。タグをつければ目立つし、読者も増えるかなと。

 

 
 

――かなり軽いノリで応募されたんですね。

 

かすがまる:小説を書いていることが楽しいし、読者からの反応がたくさんあるとなお良いっていうくらいしかないんですよね。そうやって書いていたら光栄なことに優秀賞をいただいて、デビューをすることになりました。

 

――お仕事をされていながら投稿されていたんですよね。

 

かすがまる:そうです。今でも兼業です。ライトノベル作家さんだと知り合いでも8割は兼業作家です。

 

――普段はどんな仕事をされているのですか?

 

かすがまる:塾を経営しています。自営業なので融通はきくのですが、実は育児も忙しくて…。娘が2人いるのですが、授乳以外はすべてこなせるので、塾で授業をしながら、育児や家事をしつつ、その合間で小説を書いているという感じです。だから1日のうち、1時間から2時間くらいしか執筆に時間が取れないんですよね。あとはここだけの話、妻に頭が上がらないので(笑)

 

――それは大変そうですね。

 

かすがまる:執筆している1時間にしても、子どもたちが仕事スペースに遊びに来て「ニコニコ動画見せて」とか言い出しますからね。こちらはシリアスな戦闘シーンを書いているのに、別のモニターではギャグ動画が流れていたりして。

 

――でも、専業作家として活動している人はそんなにいない。

 

かすがまる:専業で食べていける作家は限られていますね。ヒットを飛ばしている作家でも兼業の人が多いですよ。

■兼業作家でい続ける理由

 

――だいたいどのくらい売れれば専業でやっていけるのでしょうか。

 

かすがまる:その人のお金に対する考え方もあるので、どこから専業としてやっていけるかの線引きはできません。でも、メディアミックス、例えばアニメ化してもそれだけでは専業としてやっていけないと思います。

 

 

――専業は憧れだと思うのですが、かすがまるさんはいずれ専業になろうという想いはないのですか?

 

かすがまる:私はもともと「小説家になろう!」に趣味で投稿していた身なので、作家だけで食べていくという気があまりないんですよ。今でこそプロになりたくて投稿している人もいるのかもしれませんけど…。

 

気軽に投稿できて比較的デビューしやすい分、よほど売れないと専業になるのは難しいと思いますね。プロになるという覚悟も定まらないままにデビューしちゃうこともあるでしょうし。

 

――ライトノベル作家の場合、収入は本の印税以外にどんなものがあるのでしょうか。

 

かすがまる:私の場合は専門学校のノベル科という作家を養成するコースで講師をしています。それもライトノベル関連の仕事ではありますね。

 

ただこれはかなり特殊な例です。作品そのものとなると1年間に4冊は出せないと専業でやっていくのは厳しいと聞きますし、育児をしている身からすれば、子ども2人育てるならば、4冊でも難しいです。コミカライズからアニメ化を経て、作品が大ヒットすればまた話は別なのでしょうけど、それは一握りなので、お金面からいえば、あまり夢はない世界ですよ。

 

嫌な言葉ですけれど、「記念出版」ってありますよね。デビュー作だけで後が出ない。とある小説の新人賞の挨拶で、受賞した作家さんが「新人賞の受賞は、ガンの告知に似ている」と言ったという話があって、私もそれはすごく感じています。

 

――「5年生存率が何%」という話ですよね。確かにそれは厳しい世界です。こうなってくるともともと仕事がある人は兼業作家で続けようという選択をしてしまいますよね。

 

かすがまる:兼業ならば自分を追い込む必要があまりなくなるわけですからね。小説投稿サイトが大きなブームになっている中で、そこから生まれる作家さんも多くなっていますが、もともとは「投稿することが楽しい」というモチベーションで書いている人が多いので、そういった人たちが商業出版に移ったときにちゃんと継続できるかどうかは分からないところがあります。

 

――確かにそういう部分はこれから出てくるでしょうね。

 

かすがまる:もう一つあるのは、投稿していると分かるのですが、投稿サイトは作家そのものを評価するというより、作品を評価する文化なんですよね。「この人だから読む」「この人だから買う」というのはかなりレアなケースになっているように思います。そういう背景もあるわけですね。

 

(第2回「小説家と編集者と投稿サイトユーザーの関係に大きな変化が!?」に続く)

 

■かすがまるさんプロフィール

 

東京都出身。2014年1月よりネット上で連載開始した『火刑戦旗を掲げよ!!』にて、小説家になろう大賞2014、MFブックス部門の優秀賞を受賞する。本職は学習塾の講師で担当は数学と国語。

■新潟アニメーション

 

新潟市に拠点を置くアニメーション制作会社。「ニイガタからアニメーションの新たな可能性を世界へ発信する」というビジョンを掲げ、2014年2月創立。現在、地元テレビ局の番組内アニメ制作、アニメCM制作、ゲームOPアニメ制作、遊戯機器アニメ制作、TVシリーズのデジタルペイントなどを手がける。近年ではとくに新潟におけるアニメのデジタル制作の体制構築に注力している。

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