イタリアの奇才トラックメイカーのクリエイティヴな才能にも唸らされる、侮れないアルバム未収録曲集(Album Review)

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イタリアの奇才トラックメイカーのクリエイティヴな才能にも唸らされる、侮れないアルバム未収録曲集(Album Review)

 イタリアのトラックメイカーであるクラップ!クラップ!の登場は、ここ数年のクラブ・ミュージック・シーンでもっとも刺激的な出来事だったかもしれない。2014年にヴァイナルと配信で発表され、翌年初頭に日本でCD化された『タイー・ベッバ』は、民族色豊かなトライバル・サウンドと最新のベース・ミュージックが融合した傑作であり、架空の島を舞台にした壮大なストーリーを展開する前代未聞の大作だった。楽曲ごとのクオリティが重視されるダンス・ミュージックにおいて、アルバムとしてここまでコンセプチュアルでワクワクさせられる作品はなかっただろう。あのポール・サイモンが新作『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』に、数あるワールド・ミュージックを押しのけてクラップ!クラップ!を起用したのも、当然といえば当然なのかもしれない。

 そんな名作をものにしたクラップ!クラップ!の新作は、EPやシングルの音源を集めたアルバム未収録曲集。しかし、これが侮れない内容になっている。もちろん、『タイー・ベッバ』では聴くことができない音源を集めているという価値はあるが、それ以上にアルバムとして再構築し、“レインスティックの物語”と称して新しいストーリーを紡いでいくのだ。それぞれのナンバーでは、土着的で無国籍で謎めいたサウンドが展開され、聴く者を魔境のような世界に引きずり込んでいく。アッパーで無機質なビートを使っていても、どこかしっとりとした質感があるのは、やはり音から見えてくる情景を大切にしているからだろう。そして、その情景には、ムッとした湿気や、しっぽりと降りつむ雨、そしてその中で踊る異国の人々が浮かび上がってくるのだ。

 2014年から2015年にかけての2年間のみで、『タイー・ベッバ』以外にこれだけのクオリティを持つ作品を連発していたことが驚異的だが、それ以上にそのバラバラの素材を再構築してアナザー・ストーリーを作り上げたクリエイティヴな才能にも唸らされる。どこか遠くへ旅に出たいと思っているなら、『タイー・ベッバ』と並べてこの『テイルズ・フロム・ザ・レインスティック』を聴けば十分。いつだって、見知らぬ世界へ連れて行ってくれるに違いない。

Text:栗本 斉

◎リリース情報
『テイルズ・フロム・ザ・レインスティック』
クラップ!クラップ!
2016/05/04 RELEASE
2,484円(tax incl.)

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