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山崎まさよしの『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』でアーティストとしての確かな才能を傾聴する【ハイレゾ聴き比べ vol.5】

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(1)音がクリアー、とりわけ高音のキレが良くなることになることで、今までの音源で聴こえづらかった部分まで明瞭になること。(2)音像がシャープになって個々の音の位置がよりはっきりとすることで、個々の音の重なり=アンサンブルが強調され、楽曲全体としては角が取れたように感じられること。このふたつがハイレゾ音源、その聴き応えの特徴であろうが、前回1979年発表の坂本龍一の『千のナイフ』を取り上げたことで、奇しくも(1)(2)によって、その音源がレコーディングされた時の状況も露わにしてしまうことも分かった。

その意味では、過去音源のハイレゾ化は、小津安二郎や黒澤明のフィルムを4Kで保存する行為に近いものとも書いた。とするならば、とあるアーティストのハイレゾ音源を聴くことで、その人の音楽的変遷や本来の指向をよりリアルに捉えることができるのではなかろうか? ベストアルバムのハイレゾ化はその恰好の材料。今回の【ハイレゾ聴き比べ】は、昨年8月にリリースされた山崎まさよしのベスト盤『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』を題材にしてみよう。

天賦の才を持つシンガーソングライター
今さらながら…だが、山崎まさよしのプロフィールにも軽く触れておこう。1971年生まれ、山口県防府市出身のシンガーソングライターで、1995年にシングル「月明かりに照らされて」でメジャーデビュー。役者として映画やTVドラマにも出演し、主演映画『月とキャベツ』のテーマ曲「One more time, One more chance」(97年発表)、出演ドラマ『奇跡の人』の主題歌「僕はここにいる」(98年発表)も手掛けてヒットさせている。SMAPがカバーした「セロリ」(96年発表)も有名な他、杏子らと結成したユニット、福耳での「星のかけらを探しに行こう Again」(99年発表)でも知られるところだ。

1stアルバム『アレルギーの特効薬』(96年発表)の帯に“天才より凄い奴!デビュー”というコピーが躍っていたそうだが、その卓越したメロディーセンスと、力強いも甘い歌声はまさしく天賦の才と呼びたいほど。デビューから20年、常に一線級で活躍してきた、日本を代表するシンガーソングライターである。

アレンジャー、プロデューサーとしても優秀
ベストアルバム『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』は、04~15年に発売された全シングルA面を収録した作品集である。各楽曲の詳細は後述するとして、このベスト盤を聴いてみて感じるのは、山崎まさよしはアレンジャー、プロデューサーとしても極めて優れた人であるということだ。

デビュー当初の印象が強く残っているためか、ギター弾き語りスタイルが頭に浮かぶが、音楽活動を始めた頃はドラマーであったことや、早くから他者への楽曲提供を行なったり、スタジオミュージシャンとしても活動していたりしていたというから、元来、所謂シンガーソングライターというよりも、マルチプレイヤーでもあるアーティストというのが適当なのだろう。

『ROSE PERIOD』収録曲も弾き語りはM15「One more time, One more chance」程度で、これにしても93年制作のデモ音源である。他の収録曲は全てバンドサウンド。鍵盤はもちろんのこと、ホーンセクション、ストリングス、同期ものも取り入れている。

山崎まさよしの充実期を示すベスト盤
それゆえに…なのか、本作は所謂ベストアルバムとはまた異なったバラエティーさに富んでいると思う。M2「ビー玉望遠鏡」(04年発表)、M5「真夜中のBoon Boon」(08年発表)、M7「春も嵐も」(09年発表)といったソウル系のポップチューン。あるいはM8「HOBO Walking」(10年発表)、M11「アフロディーテ」(12年発表)、M14「21世紀マン」(15年発表)等のラテン系ナンバー。さらには、スローなM9「花火」(10年発表)やM13「アルタイルの涙」(13年発表)、ロッカバラード風M12「星空ギター」(12年発表)といろんなタイプがあるものの、一本筋が通っている印象だ。

具体的に言うと、楽曲を構成している楽器のアンサンブルが大きく変わらないのである。基本はアコギ+バンドサウンドに上物(ピアノ、オルガン、シンセ、ホーンセクション、ストリングス)で、多少の差異はあれど、ある曲ではエレキギターが前面で、ある曲ではストリングとピアノが前面で…ということがないのだ。

これは『ROSE PERIOD』が彼の20年間の音楽活動のうち、その後半の10年間の作品集であることも大きいと思われる。本人のやりたいこととリスナーの聴きたいものとの隔たりも少ないのだろう。いい意味で音楽性が安定しており、彼の活動が充実期に入っていることの証左とも言えるのではなかろうか。

アコースティックギターがより鮮明に
この辺はハイレゾ音源を聴くことでより歴然となる。何よりもはっきりとするのはアコースティックギターの鳴りだろう。前述のスローなM9「花火」やM13「アルタイルの涙」に加えて、M6「Heart of Winter」(08年発表)辺りは、テンポが緩いことも手伝ってか、既存音源でもアコギ基調であることは分かるが、むしろサウンドの密集感の強い楽曲でアコギの鳴りが確認できるのがハイレゾのハイレゾたる所以だろう。

各音の定位が分かりやすくなることで、“アコギも聴き取りやすい”という言い方が正しいだろうか。M5「真夜中のBoon Boon」やM8「HOBO Walking」が顕著だと思う。いずれもアコギをアコギとして確認できるだけでなく、“ギターは張られた弦を弾いて鳴らす楽器なんだなぁ”と改めて思わせてくれるほどに響きが良くなっていると思う。

また、エレキギターとアコギとの対比も鮮明だ。この辺は、上記2曲以外にも、M1「僕らは静かに消えていく」(04年発表)やM14「21世紀マン」で聴くことができるだろう。

グルーブ感が増すアンサンブルの妙味
THE BLUE HEARTSの『TRAIN-TRAIN』を紹介した際、“個々の音の位置がはっきりとし、楽曲の奥行きが増すことで聴き応えも変わる”と書いた。所謂グルーブ感が増したように感じられることもあれば、不思議と楽曲全体がマイルドになったように感じられることもある。この辺はバンドアンサンブルの妙味と言ったところだろうか。

『ROSE PERIOD』ハイレゾ版でグルーブが際立っている楽曲としては、M12「星空ギター」を推したい。ロッカバラードで、もともとドラムが若干前のめりなので、グルーブが出やすいと言えばそうなのだが、エレキギター、ピアノ、オルガン等々が派手すぎずに伴奏。輪唱的に入るコーラスも含めて、独立した個々の音が絡み合いながら楽曲に推進力を与えている様子が細部までよく分かる。

ミディアムだがM10「太陽の約束」(12年発表)もいい。音数が多く、展開もドラマチックなので、そもそもグイグイと来るタイプではあるが、明らかに音圧が増して力強く響く。特に後半。Cメロでブレイクしてからのアレンジは、ベタっちゃベタだが、やはり聴いていてアガるし、それは個々の音がクリアーになることでさらなる高揚感を与えてくれていると思う。

楽曲全体がすっきりと整理された印象
ハイレゾで全体像がマイルドに聴こえるのはM3「メヌエット」(05年発表)やM4「アンジェラ」(06年発表)だろうか。「メヌエット」はアコーディオン、「アンジェラ」では電子音やコーラスワーク(自ハモ)がそれぞれに印象的で、どうもそこに引っ張られるきらいがあるのだが、ハイレゾ版ではそれ以外の音がクリアーになるために相対的に印象的な音が薄まる感じで、妙に突出した音が少なくなった気がする。

また、マイルド感とは少し違うかもしれないが、M6「Heart of Winter」はハイレゾ化で全体がすっきりと整理されたような印象がある。元の音源は音処理が派手な上、高音が割れ気味で、なおかつ全体的に音がこもり気味な感じがしないこともないが、ハイレゾでは電子音は如何ともし難いものの、ゴチャ付き感が薄まっているというか、全体のフォルムがはっきりとした感じがある。もしかすると、これは前述したアコギの音色がクリアーになったことと関係しているのかもしれない。

歌とその世界観を彩る理想的なかたち
『ROSE PERIOD』の過去音源とハイレゾ音源との聴き比べで分かったことは、言うまでもなく、山崎まさよしというアーティストの仕事っぷりである。実に的確な仕事をしている人だと思う。細部にまで傾聴した結果なのかもしれないが、いずれの楽曲も歌をしっかりと聴かせることを大前提に、その世界観を彩るアレンジが施されていることが分かる。

また、ここに収録されている楽曲が作られた年には新旧10年間の幅があるのだが(デモ音源である「One more time, One more chance」を除く)、最古と最新とではそのアレンジにさほど差異がないことも分かる。いや、厳密に言えば、過去音源で若干こもり気味だった音像がハイレゾ化でシャープになることで、差異がないことが分かるのだ。

シンガーソングライターとは字義通りに言うならば、“自ら書いた歌を自ら歌う人”である。しかし、彼の場合はそこにとどまらず、“自ら歌う自ら書いた歌を、最も理想的なかたちで聴いてもらうことにも腐心しているアーティストであること”も確認できる。彼のような真摯な取り組みを多くのリスナーに知らしめる意味でもハイレゾ音源の持つ意味は大きいと思う。

TEXT:帆苅智之

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