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『ロパートキナ 孤高の白鳥』ウリヤーナ・ロパートキナ インタビュー

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世界最高峰として称賛を集めるマリインスキー・バレエ。200年以上の歴史を重ねるこのバレエ団の中でひときわ輝きを放ち、なおかつ重責あるプリンシパルとして団の栄光と品格を体現し続ける存在、それがウリヤーナ・ロパートキナだ。95年にマリインスキーの頂点に昇格して以来、第一線で活躍し続ける彼女。とりわけ彼女の踊る”白鳥”は世界一と評され、研ぎ澄まされた表現力と身体性は観客を魅了し続けてやまないーーー。

映画『ロパートキナ 孤高の白鳥』は、そんな彼女の素顔に迫ったドキュメンタリーだ。貴重な舞台映像や稽古場でのリハーサル風景、最愛の娘とのプライベート・ショットに加え、彼女自身のバレエに寄せる想い、修行時代の思い出などの数々の証言を捉えたバレエファン必見の内容となっている。

このたび、伝説のバレリーナ、ロパートキナ本人に話を伺う貴重な機会に恵まれた。終始まっすぐな目線で、自分を決して偽らず、胸の内にある素直な言葉を紡ぐ彼女。映画の公開を目前に控えた今、生の声をここにお届けする。

 

 

 

——お会いできてとても光栄です。日本にはよくいらっしゃるのでしょうか。

ロパートキナ 「そうですね、最近は頻繁に来日の機会に恵まれています」

——日本でのお気に入りの場所などがあれば教えてください。

ロパートキナ 「特にここという場所はないのですが、紅葉のシーズンに訪れる小さな公園などはとても美しくて好きですね。残念なのは、何回も日本を訪れていながらいちばん有名な桜の季節にはなかなかご縁がないということ。日本の桜を見たことがないんです。いつかタイミングが合えばと願うばかりです」

———1月に公開となる『ロパートキナ 孤高の白鳥』を拝見しました。ステージ上のロパートキナさんの表現力、美しさに度肝を抜かれるのみならず、その貴重な舞台裏や練習風景も収められていて大変興味深い作品に仕上がっています。映画をご覧になって率直にどのようにお感じになられましたか?

ロパートキナ 「自分がステージに立った時の映像などは日常的に、それこそ仕事や練習の一環としても飽きるくらいに見慣れているわけですから、こと私に限って言えば、自分の踊る姿に特別に感動するということはなかったですね。バレエをよく知っている人、バレエを何回も鑑賞している人にとっては非常に面白い作品に仕上がっていると思いますが、逆にまったくバレエを見たことのない人、そしてバレエを知らない人には、果たしてこの映画を楽しんでいただけるのかどうか正直よくわからないです」

——————私はどちらかというとバレエの初心者なのですが、映像の中でロパートキナさんが踊る姿に涙がこぼれてしまいました。特に「瀕死の白鳥」という演目では最後に本当に魂が白鳥そのものと化しているかのようで本当に圧倒されました。

ロパートキナ 「そう言ってもらえると嬉しいのですが……」

「自分の映像を見るといつも修正点を探してしまう」

 

——華やかなバレエの世界の裏側に観客の視点をいざなってくれる本作。どのような経緯で企画が実現したのでしょう。

ロパートキナ「多くの人々がこの映画を実現するために、動いてくれましたが、先導を切ったのは、古典美術とロシアバレエを愛する、フランスに住むロシア人女性でした。彼女がマレーネ・イヨネスコ監督や撮影資金の調達に協力してくれた方々に掛け合ってくれたおかげで、今回の企画が形を帯びてきたのです」

——稽古場での練習風景も圧巻でした。ロパートキナさんにとってカメラの存在がプレッシャーになったりするようなことはありませんでしたか。

ロパートキナ 「正直に言うと、ちょっとプレッシャーでしたね(笑)。練習している私の背後からカメラが向けられると、何か自分のあまり美しくないポーズなどを撮られてしまうのではないかと気になってしまって。稽古場では常に集中していたいので、練習風景を撮影されることはあまり好きではないですね」

——なるほど、あの貴重な映像はそういった葛藤の中で撮られたものだったのですね。映画の中に収められたご自分の姿やバレエに対する発言などをご覧になって、改めて気づかされたことはありましたか。

ロパートキナ 「言葉にするのが難しいのですが……ミスを修正することや、踊りをより良いものにするために、映像を分析することはプロとして必要なことだということですね」

愛とは人生に欠かせない要素

——本編中には最愛のお嬢様も少しだけ登場されます。そのシーンで見せるロパートキナさんの幸福感に包まれた表情がとても印象的でした。02年にご出産を経験されたことでご自分の中のバレエに対する思い、愛というものについての考え方の変化などはありましたか。

ロパートキナ 「そうですね……バレリーナが出産を経験すると生き方が変わるとか視野が広がるとかよく言われますよね。私の場合、娘が生まれた翌朝、大きな実感が訪れました。目が覚めると自分のすぐそばに小さな赤ちゃんがいる。私は彼女のことを見つめ、赤ちゃんも自分のことをじっと見つめている。その瞬間、ああ、この子の将来のためにも自分には大きな責任ができたのだという思いがこみ上げてきました。子供が生まれる前は誰かのことを気にかけることなどなかった。自分は自分、自分のことだけに責任を負えばいい、と考えていましたから。人生において責任を合わねばならない存在ができたことは私にとって大きな変化でしたね」

——なるほど。

ロパートキナ 「なにしろ子供が人生を学んでいくのと同様に、私も母親であることを常に勉強しなければいけないわけです。その過程で怖いなと感じることもありますし、母親としてきちんと育てられるのだろうかという不安に襲われることもあります。今では娘も私と同じくらいの背丈になりました。子供は子供と言っても、すでに一つの人格を持った人間に育っていますから、この先いったいどんな大人へ成長していくのか、ますます責任を感じずにいられません」

——娘さんは「バレリーナになりたい」とはおっしゃらないのですか?

ロパートキナ 「言わないですね」

——映画の中ではロパートキナさんの幼少期、よくご自宅でレコードをかけて、それに合わせてあなたが踊っていたというエピソードが出てきますが、娘さんはいかがですか? 

ロパートキナ 「ええ、私がいつも自宅では音楽をかけているので、娘もクラシック音楽によく親しんで育ちました。マーシャは音楽学校でピアノを勉強しており、そこでとても良い成績を収めています」

——映画の中では「オネーギン」や「愛の伝説」について語られる場面があります。どちらも「愛」が重要なテーマの作品ですが、いま一人のバレリーナとして、そしてマリインスキーのプリンシパルとして、バレエにとって欠かせない愛という要素をどのように表現していきたいと考えますか。

ロパートキナ 「そうですね、バレエには愛をテーマにした演目が数多く、特にクラシック・バレエはそうです。もちろんとても深いテーマだと思いますし、人生にとって愛という要素は欠かせないもの。お客さんが劇場を訪れ、いざバレエの幕が上がった時、これから繰り広げられるものに何を期待するのでしょうか。スポーツなのか、劇的なものなのか、ハプニングなのか。いろんなことを期待していると思うのですが、その中でもやはり愛というものが持つ秘密や謎といいますか、そういったものにお客さんは大きな期待を寄せるのだと思います。

ですから、一つの作品の中で男女が結ばれるとしても、愛の雰囲気がしっかりと作品全体に行き渡っていなければ観ている方々には決してご満足いただけない。お客さんはいつもと同じように拍手してくださるかもしれませんが、それはきっと空虚な拍手となるでしょう。深い意味で、私はバレエというアートを使って、愛を表現することに自分の課題を見出しています。それは、愛は人生の意味だと信じており、人間の生きていく上での課題は、愛することを学ぶということだと思うからです」

 

撮影 吉場正和/photo  Masakazu Yoshiba

取材・文 牛津厚信/interview & text  Atsunobu Usizu

企画・編集 桑原亮子/edit  Ryoko Kuwahara

 

 

『ロパートキナ 孤高の白鳥』

2016年1月30日(土)渋谷Bunkamuraル・シネマほか全国公開

世界最高峰のバレエ団マリインスキー・バレエ。ロシア帝国の宮廷バレエを起源とし、200年以上の伝統と誇りを持つ世界でも最も格調の高いバレエ団である。そのマリインスキー・バレエの栄光と品格を体現する伝説のプリンシパル、ウリヤーナ・ロパートキナ。彼女の踊る“白鳥”は世界一と評される。なぜ彼女は踊り始めたのか。母校ワガノワ・バレエ・アカデミーを訪問し少女だった自分と向き合い語り出す。パリ・オペラ座のかつてのエトワール アニエス・ルテステュやジャン=ギョーム・バール、彼女を取り巻く人々の声で紐解かれる孤高のプリンシパルの素顔とは?彼女の代表作『瀕死の白鳥』、『愛の伝説』他、『カルメン』『病めるバラ』などの貴重な舞台映像や最愛の娘とのプライベートショット、マリインスキーの稽古場でのリハーサル風景で見せる迫力の表情など、“白鳥”の真実に肉迫する珠玉のドキュメンタリー。

<映画で見られる演目の数々>

愛の伝説、マルグリットとアルマン、レ・シルフィード、病めるバラ、ロシアの踊り、イン・ザ・ナイト、ステイン・アライヴ、カルメン組曲、ダイヤモンド、瀕死の白鳥、ヨハン・シュトラウス・ボール 他

◆PROFILE

ウリヤーナ・ヴァチェスラヴォヴナ・ロパートキナ

1973年10月23日ウクライナのケルチ生まれ。ロシア国立ワガノワ・バレエ・アカデミー卒業後の91年、マリインスキー・バレエに入団し、95年にプリンシパルに昇格して以来、第一線で活躍し続ける。プライベートでは、02年、一人娘マーシャが誕生。身長175cmを背の高いバレリーナとしても有名である。古典的でドラマチックな役どころに秀でており、長い手足、研ぎ澄まされた見事なライン、そして優れた表現力。ロシアが誇る、完全美を体現するバレリーナである。

<ロパートキナの受賞歴>

ワガノワ国際バレエコンクール第1位(サンクトペテルブルク、1991)/ゴールデン・ソフィト賞 (1995)/ゴールデン・マスク賞(1997)/ブノワ賞(1997)/バルティカ賞(1997、2001)/バレエ功労者賞(イブニング・スタンダード紙/1998)/ロシア国家功労賞(1999)/ロシア功労芸術家(2000)/世界ダンス賞(2001)/トライアンフ賞(2004)/ロシア人民芸術家(2006)

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◆監督:マレーネ・イヨネスコ(『至高のエトワール~パリ・オペラ座に生きて~』 『バレエに生きる~パリ・オペ座のふたり~』)

◆出演:ウリヤーナ・ロパートキナ、アニエス・ルテステュ、ジャン=ギョーム・バール

配給:ショウゲート
Lopatkina-movie.jp
(C)DELANGE PRODUCTION

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