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【C89】30代後半、冬コミ参加者のつぶやき

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冬である。
大晦日ともなれば幼い頃には年越し蕎麦を食べて紅白歌合戦を見てすごしたものだ。
それがおかしくなり始めたのは高校を卒業する頃だったろう。
私はその頃にはもうオタクに成り下がっていたのだ。

かつて自分もサークル参加者だったが現在は一般参加を楽しんでいる。
31日、朝の6時に起きた。平生の目覚めよりもかなり早い時間だ。
既にオリンピック前の工事が着手されている冬の有明に向かった。
恥ずかしながら夏コミまではだらだらと午後から参加をしていたのだが今回は違う。
体調がいい。それが理由だ。30代ともなると荷物を右から左へ運ぶのも大仕事で腰痛がついてまわってきたりする。冬の寒さはそれをことさらに後押しする。昨年の冬の冷え込みは尋常ではなく師走の都内で雪が降りた。けれど今年は暖かい。従って目覚めもよくなるわけで、今回は多少の気合をいれて冬コミに挑んだ。

今回の目当ては同人音楽だ。
同人誌作成を離れてからは久しいが今でも創作はする。小説を書くのだ。
それなりに趣向を凝らして書く場合には資料を収集し取材をする。
すると時間が惜しくなって以前よりも漫画やアニメに費やす時間が減ってきた。
音楽なら執筆の間も楽しむことができる。たまたま自主制作のインストゥルメンタルの音楽サイトを拝見して興味を覚えた。

到着したのは9時前頃だ。駅の蕎麦屋で春菊天そばを頂いた。温かさがありがたい。悲しいかな、胃が冷えるとすぐに気分が悪くなる。
青海の側へ会場を回り込むように並ぶ。
前にいる女の子のカートやバッグには覚えのある作品のアクリルキーホルダーやラバーストラップが付いていた。身につけられるグッズっていいなあ、けれど落とすのが怖いしもうそんな年でもない。そう思いながらもスマホケースの内ポケットには『まどか☆マギカ』のカードを挿してきた30代後半。それが精一杯という感じだ。それだけでも参加してる気持ちになれるのだ、それっぽっちで。大人になるというのは満足の水準を下げることができる力を持つことかもしれない。本当の大人はスマホケースにアルティメットまどかのカードを挟んでいたりはしないだろうが。

装身具としてのアニメグッズがコンビニを賑わせるようになったのはいつからだろう。アニメも昔は子供だけのもので、玩具メーカーが宣伝のために出資して番組を作らせるのが主だった。大きくて目立つ手に余るような玩具しかなかった。次第に多様化して大人が蒐集することを楽しめるようになった。アニメーションの在り方も変わった。スポンサーありきという作品よりも、中身ありきコンテンツありき、という『製作委員会』方式が増えた。大人がアニメにお金を出す国なのだ。それが稚拙な文化だとは、全然思わない。

待っている間にもサークルさんの情報を『Twitter』でチェックする。気になる本をリプライでとりおき予約できたり、同じ参加者とTLを通じて会話できたりと、ここでも時代の変化を感じる。

入場できたのは10時過ぎだ。思ったよりも早く入れたので肉体的にも助かった。『Twitter』で知り合った作家さんのもとへ伺い、初めてお話しする。目当ての作品を無心に手に入れていく。そして、ようやく訪れた同人音楽のスペースは他のスペースと様子が違っていた。各机にCDと視聴用のタブレットが備え付けられていて、声をかければ作品を試聴できるのだ。
もちろん試聴させてもらった。まずどのサークルさんも用意されているヘッドフォンがかっこいい。聴いてみると期待していた以上の驚きがあった。楽曲も歌唱力もプロ並みだ。未知のジャンルだったせいもあるだろう。久しぶりに発掘の喜びを味わえた。

続いて東の6ホールに向かったが、それがいけなかった。予想してはいたが、『男波』に巻き込まれた。20年以上コミケットに参加しているが噂に聞くばかりで巻き込まれたことはない。どうしようもない、というのはあのことだろう。前にも後ろにも進めないならまだいい。人の流れが前からも後ろからも押し寄せる。行きたい方向に進むという目的をまず一度諦めた。それから隙間をみつけて移動しては押されて戻され…という繰り返し。これが噂の波かと思いはしたが、不思議と満員電車のような不安感はなかった。結局は皆が同志なのだから耐えて切り抜けるしかない。
幸いにもスタッフさんが前後にいらしたので、その合間に挟まるようにして進行したら切り抜けることができた。感謝しかない。お陰で目当ての本は入手できたし荒波に揉まれた甲斐はあった。

男性ばかりとはいえ筋肉隆々のマッチョマンに囲まれたわけではない。
どちらかというと自分同様にインドア派の方々が集まっているのだから、押されて弾かれるようなことはなかった。当たり前だが痴漢されるようなこともなかった。けれどもファスナーつきのバッグでなかったらどうなっていただろう。中身がぶちまけられていたかもしれない。ミリタリー風味のコートだったから良かった。フェミニンなコートにブランドバッグでヒール高めのブーツだったら、途中で諦めたかもしれない。
会場内で読みきれない列が急にできるということはある。そういう場は女性向けでも何度も目にした。何故男性向けだけああした現象が起きるのか、わかる気がした。女性向けジャンルでは久しぶりに会う友人や憧れの作家さんの前で綺麗でいたいという気持ちが生じる。崩したくない差し入れを持って歩くこともある。だから身だしなみに気を使い、 スカートのプリーツは乱さぬように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみとなるわけだ。
多少殺気立つことはあっても無闇にぶつかって歩く、なんてことにはなりにくい。しかし男性だけならそうしたことには気を払わなくなるものかもしれない。不躾というのではないけれど、「どうせ男しかいねえしな」と私が男だったらそう思って無軌道に歩きやすくなるかもしれない。
あくまでも予測だ。

荒波を越えると何だか気が削がれてしまった。満足した、というのもある。西ホールにも行くつもりだったが、早々に切り上げた。
シーバスで浜松町を経由して帰路についた。
部屋で入手した同人誌を読みながら考えた。確かに男性受けするような女性キャラがメインの作品を頒布するならカテゴライズは『男性向け』だ。
けれど、こういうのが好きな女子もいる。百合やアイドルが好きな女子もたくさんいる。自分の自然な好みが一般の女性に適用されるかはわからない。もしもこのジャンルに『男性向け』とついていなかったらもう少し女性層が増えるのでは? そこまで考えて、ふとCDを買ったときのことを思い出した。
『女性の方(が買いに来るの)は珍しいんですよー!』と歌い手の女性の方が喜んでくださったのだ。特に音楽ジャンルには『男性向け』と銘打たれているわけではない。銘打たれているからそうなるわけではない。けれども、自然にそうなってしまうということが起きる。
『男性向け』というジャンルが最初からあるわけではない。本当に男性ばかりが集まるからそういう名付け方をされているだけだ。
改めてそう考えると、私の精神はあの荒波に向かっていただけなのだ。
しかしハンデがありすぎる。
次からは素直に通販にしようと決意した。
まったく年を幾つ重ねても新たに知ることというのは尽きない。
コミケある限り長生きしよう。そう思う。

―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 小雨) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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