民放は「再利用のきく番組に制作能力を割くべき」 アナログ停波特番(5)

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「放送としてのテレビは、もうこれ以上大きくならない産業」と池田信夫氏(写真・右端)

 被災した東北3県をのぞく地域で2011年7月24日深夜、テレビのアナログ放送が完全停波となった。ニコニコ生放送では「アナログ停波特番『テレビはどこへ行く』」を放送。今後のテレビのあり方について、元NHKのディレクターで経済学者の池田信夫氏は、「民放は再利用のきく番組に制作能力を割くべき」だと主張した。

視聴者「テレビで家族団らんという、その感覚がすごい嫌だ」 アナログ停波特番(4)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw91615

 以下、番組を全文書き起こすかたちで紹介する。

■「民放のあのバラエティってやつは、悪いけど金を取って見るものじゃない」

津田大介氏(以下、津田): コメントの中で気になったのが、「言論のタブーをなくせば、視聴率が戻るのでは」というコメントがあったんですけど、確かに池田さんもこの前出てらっしゃった、大阪地区の「たかじんのそこまで言って委員会」っていうのが、そこでは圧倒的に強いわけですよね。もう(視聴率)10%とか20%とか取るような、かなり(の人が)観ていたりもするんですけど。その中で「ニコニコ生放送」なんかも去年の人気があった番組とかって、実はそういうオタク系の番組だけじゃなくて、政治系のこういう討論番組とかもすごく人集めているんですよね。

 実際に「ニコ生」って無料会員と有料会員があって、無料会員だと途中でいっぱい人が集まると、はじかれちゃうんですね。はじかれちゃってでも、政治系の番組を観たい人が多いから、テレビだとやっぱり聞けない議論みたいなものってものを求めて来た人が無料ではじかれるので、そこで有料会員になるっていうケースがすごく多いって意味でも、たぶんそういう画一化されたある種の抑制、リミッターが効いてない議論とか言論を聞きたいっていう層が、テレビで観られないって人がたぶんネットに流れてるっていうところがあると思うんですが。これってある種のリミッターが今かかっているようなテレビの言論というものが、戻っていく可能性とか・・・どうお考えですか、福原さん。

福原伸治氏(以下、福原): でもやっぱりそれもカウンターですよね、結局。カウンターでしかないという風なこと。

津田: テレビがある意味、その最大公約数的なところで議論になっているから、そのカウンターとしてネットが成立している、と。

福原: そういう風に成立するのであって、だからやっぱり、本当にネットで何かもし新しいクリエイション的なものが出来るようになってきたら、本当にテレビは終わっちゃうのかなっていう風な、そういう危機感はあるんですよね。

津田: じゃテレビは今、テレビ業界全体としては、何をカウンターとすべきなんですかね。たぶん、テレビにとっての「ニコニコ生放送」ってカウンターにはなれないと思うんですよ。まずそもそも勝負しているポイントが違うと思うし、視聴者数も全然違うと思うし。今後テレビがカウンターとすべき業界、もちろん報道とバラエティといろんなもののジャンルがあると思うんですけど。テレビ業界が全体としてカウンターとすべきメディアっていうのは何なんですかね。

福原: やっぱり何だろう・・・。自分たち自身のような気がするんですよね。

池田信夫氏(以下、池田): もうテレビはエスタブリッシュメントですからね、良くも悪くも。いわゆる放送としてのテレビは、もうこれ以上大きくならない産業、成熟産業だと思うけど。さっきも言ったように、僕はやっぱり日本のNHKも民放も含めて制作能力は世界的に見ると日本人はすごく映像の能力が高いと言われているわけですから、それが今のような形で民放の番組っていうのは特にリアルタイムで数字を上げるってことに非常に特化されちゃっているものだから、完成度が高くてシンジケーションで息長く売れるようなものっていうのは、あまり今の状況だと制作のリソースを配分しないってことね。

 でもそれはたぶん長い目で見るとですね、そういうチャンネルがどんどん増えていくと、特に有料チャンネルでお客さんに見てもらおうと思うと、民放のあのバラエティってやつは、悪いけど金を取って見るものじゃない。だから今一番困っているのは、それこそ今度ねNTTdocomoがこの(アナログ放送の)番組が終わった後にmmbiっていうのを作ってモバイル放送でやろうとしてるけど、全然どこも手が挙がってこないわけ。なぜかって言うと、コンテンツがないから。500円取って、見せれるものないわけ。つまり今まで無料で見るのが当たり前だったけど、これから金を取って見てもらわないといけない。その商売を伸ばさないと、もうこの業界伸びないんですよ。無料で観られる産業はもう完全に頭打ちで、ここから伸びるには金をとって儲けるビジネスを増やすしかないんだけど、そこのとこにまだ民放はリソース配分をしてない。NHKは結構アーカイブスにあるのを再利用すればすぐできると思うんだけど、むしろそういう意味では今民放が持ってらっしゃる制作能力を、もう少し完成度の高い再利用の利く番組に分配していくのがいいんじゃないかなと僕は思ってます。

■ニコ生で澤穂希選手所属チームの会見を中継できなかったわけ

津田: これはさっきスタッフから言われて、これは「触れてくれ」と言われたので、最後に触れようと思うのですが、今池田さんのほうから、テレビはやっぱりエスタブリッシュメントだって話もあったと思うんですが、今日ですね、7月24日になでしこジャパンのキャプテン、澤穂希選手が所属するINAC神戸の記者会見があったのですが、「ニコニコ生放送」も取材をしようと申し込みをしていたのですが、取材依頼が受理されていたにもかかわらず、中継を行うことができなかったそうです。

 何で出来なかったのかって言うと、中継担当のディレクターがこのINAC神戸の広報に理由を聞いたところ、これの取材の仕切りを、いっぱい数が来てしまったので「テレビ局に任せます」という形でテレビ局に任せたことによって、取材のルールがテレビ局側ですべて決定されてしまって、「ニコニコ生放送」のようなネットメディアが入る余地がなくなったということで、結果的に「ニコニコ生放送」が出来なかったんですが。本日の共同インタビューというのは、各選手に代表のテレビ局が同時多発的に取材を行って、取材後各局がそれぞれ取材した映像を持ち寄って適宜融通し合う方式で、一種のカルテルのような感じになっていて、こういうネットメディアが入り込む余地がなくなっていたということなんですが。「上杉ツネヒロ」さんはどうですか。

宇野常寛氏(以下、宇野): これ、本物の(ジャーナリスト)上杉(隆)さんのためにあるようなニュースですね。

津田: 上杉さんになり代わって、今乗り移って上杉さんっぽく言ってください。

宇野: 端的に、ある種の数10年培ってきた、業界内内部ルールみたいなものの弊害が端的に現れていると。これってもうちょっと頭を柔らかくすれば済むだけの話なのに、こういうエピソードが積み重なっちゃうせいで、何かこう若い人のテレビ不信というものが強まっちゃうと思うんですよ。非常に何かこうもったいないというか、惜しい事件ですよね。こんなポカミスみたいな、ちょっと気を使えば解消できそうなことを続けるっていうのは本当に良くないですよ。

津田: なるほどね。どうですか。記者クラブ問題はね、これはこれでまた別なんでしょうけど。そろそろ時間になってきたので、最後にまとめていきたいのですが、最後のほう、僕なんか福原さんのテレビの今倒すべきものっていうのは、テレビ内部にあるんじゃないかというのは、確かにそうなんじゃないかなと気も僕もすごくしました。また、このネットが発達したことによって、ネットと社会の関わり方も相当変わってきているし、テレビと社会の関わり方っていうのもおそらくどんどん変わってきているというなかで、今後テレビが目指すべきもの、ネットとの連携なんかも含めて、目指すべきところっていうのを…じゃ、池田さんからおうかがいしていいですか。

池田: さっきも言ったように、テレビっていうのは、今の放送をリアルタイムでやるテレビっていうのは、もう今のフォーマットからそう変わり得ないと思うんです。逆に言うと、むしろNHKで言うと総合テレビは24時間チャンネルにして、ニュースにして、全部リアルタイムに徹したほうがいい。逆に、実は僕のいたころからNHKは1チャンネルは24時間ニュースにして、もう1チャンネルは全部パッケージの娯楽チャンネルにしようと、当時の島さんという会長がやろうって言ってたんだけど、彼は途中で失脚してこうなっちゃんたんですけど。僕はある意味それは正しいと思っている。リアルタイム性ということと、もう一つは、ハリウッドが持ってるような作品性というものを、それぞれきちっと追求したほうがいい。

 今の民放のことを申し上げるとなんだけど、やっぱり中途半端になってしまってると思うんですね。そのリアルタイム性っていっても、おそらくバラエティみんなパッケージで録画してると思うから、ほんとにリアルタイムは少ないと思うし、じゃあ作品として何回観られるかというと、残念ながら何回も観られるのは非常に少ないと。どうもこうしてると、これからさっき教えたように多チャンネル化していくんですよ。もうバンドが、電波がなかなか解放されないってこともあるけど、これから例えば、地デジになって、UHF帯で200メガヘルツくらい空くと、いわゆるホワイトスペースなんか空いてくると、VHFなんかも空いてくると、そしたら金を取って新たなチャンネルで番組を放送しなきゃいけない。

 ところが、その素材が全然ないっていう状態なのね。それを作る産業、リアルタイムのテレビって産業はもう頭打ちだと思うけど、どんどん空いてくるチャンネルに新しい映像を送り込む産業っていうのをこれから育てなきゃいけないし、それを種を持ってるのは誰かと言うと、テレビ局の人たちなんです。

■「テレビがターゲットとすべきはお茶の間でなくハッシュタグ」

津田: 最後にフジテレビの2人に締めてもらおうと思うんで、宇野さんに先にコメントもらっていいですか。

宇野: そうですね、僕はだいたい今日言いたいこと言えたと思っているんですが。テレビっていうのは、お茶の間を空気を作っていこうとずっとしてたと思うんですよね。そうじゃなくて、これからはターゲットはお茶の間じゃなくて、すごい比喩的に言うと、ハッシュタグなんですよね。インターネットって言ってしまうとすごい陳腐なんですけど、何か中盤に出たように、僕らのコミュニケーション感みたいなものが、結局この20年くらいでかなり変わってしまっているので、テレビって結局、繋がりのメディアと思うんですよ。繋がりのためのネタを提供するメディアだと思うんですよね。だからこそ、ターゲットをお茶の間ではなくて、それはあきらめて、何か見えなくなった繋がり、その一つがハッシュタグだと思うんですよ。そこにターゲットすることによって、全然生きていけるし、だからこそ出来る面白いことって僕はあると思います。

津田: かつて深夜番組でフジテレビでやってた、予算をさらに10分の1くらいにして、ネット番組をアイデアだけでいっぱいテレビ局が作ってみたりとかね。そういうのでもすごく面白くなるんじゃないかなという気がしますが。じゃ、新・旧のフジテレビということでフジテレビを去られた立場から、今のフジテレビやテレビ業界のエールも含めて、まとめのコメントを吉田さんいただけますか。

吉田正樹氏(以下、吉田): 今日初めて「ニコ動」に出ましたけど、ちょっと残念で、あまり議論がかみ合ってなかったという部分が多い。それはなぜかというと間口が広すぎて、テレビ局が生き残るためにはどうしたらいいかということと、アナログ時代のテレビって何だったかという話と錯綜してたという風に思いました。

 池田先生の仰るコンテンツ制作、スタジオとプラットフォームを分離するというのは2000年頃から相当意識して放送局ってやっているし、バラエティに対して非常に辛辣なんですけど、例えばドリフの「ドリフ大爆笑」ってあれ何回こすってますかと。ビデオパッケージになっても大変売れるし、「笑う犬」もパッケージになればなるほど売れるし。何回こすっても楽しめるコンテンツっていうのは現にあるし、そういうのを目指してきた。それがうまくいってないとすれば、ヒューマンリソースの問題もあるでしょうけども、放送における著作権はどこにあるのかっていうようなことに起因するのかな。今度、在野の立場になったら、歌を歌っても何しても放送局が全部取って行くのはおかしいじゃないかという考えもある。それは出演者かというと、その辺の整理を相当していかないとうまくいかないのではと思います。

 インターネットとどう絡むかという話は、これはどっちにしても絡むんですよ。それは意識してるし。だけどどっちの理屈を主軸にしてやっていくか。放送局がインターネット会社、「ニコ動」を買ったほうがいいのか、「ニコ動」が放送局を買ったほうがいいのか、というのはいよいよ決戦の時が近づいているのではないんでしょうか。

津田: 決戦すると思いますか。真正面でぶつかると思いますよ。

宇野: 同じことをするようになってくるのではないでしょうか。

吉田: それは災害放送をやるかやらないかの違いですよ。東北の震災の時に3日間CMなしでやるんですよ。
いつでもそれをやれる体力を温存しとかないといけないので。あの災害が1年間続いたら、1年間災害放送をするわけじゃないですか。それが責任としてあるわけですから、今回何のためにテレビ局ってお金貯めてるのかなっていう理由がちょっとわかった。僕もずっとなぜそんなに稼げ稼げと言われるのか、腹が立っていたんですけど。受信料もらってるNHKと違って、誰も助けてくれない。仙台に中継車出すのに、どうするのということについて、どこかバックアップが必要だとなんとなくわかった。その辺をどうネットの自由な「だだ漏れ」とどう調整していくのかなということも悩みは現役としてありますよね。

津田: 今日のフジテレビの福原さん。

福原: 最後というのはあれなんですけど、個人的にテレビというのは、今とりあえず本当に変わらないといけないと思うんです。今までのことをゼロにしてもいいから今変わらないと、本当に外から潰されていくような気がするんです。まだ余裕があるし、今が最後のチャンスだと思うんですよね。いろいろ言われている批判というようなものも、それは「ネットの戯言」という風に思わずに、真摯に受け止めながらどうやって変えていくかということを本当に考えていかないとまずいなという危機感はすごくありますね。

 特にこの3.11東日本大震災で、世の中が大きく変わったんですよね。僕らも「フジテレビ批評」でいろいろと取り上げているんですけど、どうも今のテレビというのは、そういう人々の変化というものにどこまでキャッチアップしているのかということを考えると、どうもやっぱりまだテレビは、ずれてきているのではないかなということを感じるわけです。

津田: 震災報道が吉田さんの話でありましたけど、ちょっとフジテレビの震災報道はひどかったのではないかというコメントが。フジテレビが民放の中で間違いなく一番評判が悪いんです、フジテレビは。その辺り福原さんはどう評価されていますか。

福原: やっぱりそれは・・・仰ることもそうかなという。

津田: だからそれは視聴率をとるためにあげた方法論みたいなものが、少なくともニコ動視聴者には受けていない。

福原: だから片方で評価している人もいる、片方でそれはいけない人もいる。それぞれ何故評価されたか、何故これは評価されなかったかというのを真摯に受け止める必要があると思う。

津田: 僕は個人的には民放は、もうあと3ヶ月くらい報道特番をやってほしかった。僕は通常のバラエティとかに戻るのは早すぎたのではないかというのはすごく感じていましたが。まあビジネスですのでしょうがないですね。

吉田: それはまた別に回をとればいいと思う。そうでない人(通常に戻るのが早すぎたと思わない人)もいるわけだし、彼らが本当に何を求めているのかというのは、今断言はできませんけどお笑い番組をやって嬉しかったという人もいたと聞いたけど。

津田: そうですね。いずれにせよ、今日はさっき吉田さんがまとめてくださったみたいに、あまりにもテーマが細分化され過ぎていて、かなり語らうべき話というのもあると思うので。実は、このテレビが終わるのではないかという、この番組自体が来場者数5万と結構多いんです。

福原: へえ、多いんだ。

津田: こういう番組を語ること自体には、ニコ動の中にもいい数字がでてきているというところで、それはすごく面白いというか、たぶんいろいろまだまだこのテーマで語るべきことがあるのだと思います。エンディングなのですけど、宇野さんが何か告知が・・・。

宇野: すみません、今週末に本を出します。テレビっぽいですね。

池田: いいとものエンディングみたい。

津田: これは記者クラブの批判が色々書かれているというのですか。

宇野: そんなことはないです。村上春樹とか仮面ライダーとかAKBとかいろんなポップカルチャー評論の本で800枚を書き下ろしました。印税とかも全部寄付してしまい(自身には)1円も入らないので、僕のことを嫌いな人もガンガン買ってください。あともう1個。横にいる福原さんにも出ていただいたんですが、コミケで評論本を自費出版してこれを売ります。宮台真司さんとか小熊英二さんとか中沢新一さんとかの震災に関するすごく固めの話から、僕と中森明夫さんと小林よしのりさんがAKBについて熱く語るという謎のコンテンツまでいっぱい盛り沢山です。両方よろしくお願いします。

津田: 今回数字も結構良かったので、おそらくニコ動チームもテーマをもっと絞って、たぶんまたこういうテレビの特番をやるのではないかという気がするので、ぜひまた吉田さんにも出ていただければと思います。大丈夫ですか?

吉田: はい。一皮剥けました。これからちょっとマゾっぽくやろう。

津田: あとは報道の中を出して、みたいないろんな(コメントが)あるし、テレビも大好きですという意見もありますから、こういういろんな意見が知れるということで。次回もよろしくお願いしますという運営コメントも出たのでたぶん次回もあると思います。こんな遅い時間までパネラーの皆さんも視聴者の皆さんもどうもお疲れ様でした。では、また次回のニコ生テレビ特番でお会いしましょう。どうもさようなら。

(了)

(協力・書き起こし.com

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http://live.nicovideo.jp/watch/lv57321563?po=news&ref=news#1:22:18

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