『ラスト・ナイツ』紀里谷監督インタビュー「人種を越えた“人間”同士の物語を作りたかった」

紀里谷監督

『CASSHERN』や『GOEMON』など独特の世界観と映像美で世界中にファンを持つ紀里谷和明監督。ハリウッドデビュー作『ラスト・ナイツ』がいよいよ11月14日から公開となります。

本作は『忠臣蔵』をベースに、腐敗した世界で戦う高潔な君主とそれに仕える者達の騎士道を描いたダーク・ファンタジー。主演に、クライブ・オーウェンを迎え、モーガン・フリーマン、伊原剛志など国境を越えた豪華なキャスト陣も話題に。

今回は紀里谷監督ご本人に映画についてインタビュー。「撮影に使ったスモーク代が1日250万円」や「部屋全体を3DスキャンしてCGを作った」など、壮大な制作秘話は必読です。

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ラスト・ナイツ

―作品を拝見して、ダークファンタジーで幻想的な映像に最先端な魅力を感じながらも、物語自体は普遍的で誰しもに響くお話だと感じました。監督はどの様なきっかけでこの作品を作ろうと思われたのですか?

紀里谷:まず脚本が僕に送られてきて、脚本を読んだ時に素晴らしいな、と率直に思いました。おっしゃった通り、誰にでも通じる、寓話的な物語であったので。この作品って、日本や、アメリカや、他の先進国ではすごくタイムリーな話だと思うんですね。「権力」があって、それに人々が怯えていて、それは間違っていると皆が思っているのに誰も何も言わない。『ラスト・ナイツ』では、その間違っている事に対して一人の人間が抗議するわけですね、その結果、命や大切な物を全て失ってしまう。しかし、その意志は引き継がれていくという。匿名であれば意見を言えても、自分が表に立って言う人ってなかなかいない。しかも今の日本だと、その意見を言った人が叩かれてしまう様な状況がありますよね。

―撮影はいつ頃からスタートしたのですか?

紀里谷:2013年頃からですかね。

―2年経って、この物語が持つパワーがさらに響く時代に変化している様に感じますね。

紀里谷:どの学者も経営者も誰しもが今の日本の状況は良くないと言っていて、皆それに気付いているはずなのに見てみぬフリをしているというか。家が火事になっているのに「まだ大丈夫」と言っている様なものですから。だから、この映画を観て、自分の身を危険にさらしても正義を守るリーダーの姿には感動してくれるのではないかと思っています。

モーガン・フリーマン

―モーガン・フリーマンの君主の堂々たる厳しさといいましょうか、佇まいから全てが素晴らしかったです。また、髭のデザインも特徴的でしたね。

紀里谷:髭はモーガンのアイデアですね。自分のヘアメイク連れてきて、役も作り込んで来て、「この髭でやっていいか?」と聞かれたので「かっこいいですね、ぜひ」って。

モーガンとクライヴは脚本を読んで、すごく気に入ってくれていました。(黒人である)モーガンが貴族や君主の役をやるというのは歴史的に言うとあり得ないわけですよね。だから彼自身も「こういう役は最初で最後だろう」と気合いを入れてくれていました。

―他のキャスティングについてはいかがですか?

紀里谷:今回、人種を越えて映画を撮るという事が僕の中で大きなテーマとなっていて。ヨーロッパ人だから出来る役、アジア人がこういう役をやる、と決めずに配役する事は挑戦でした。例えば、日本の子供が「南北戦争の話が好きだ」と思っても、それが映画になった時に出演する事は絶対にあり得ないじゃないですか。それって悲しい事ですよね。でもファンタジーに置き換えれば演じる事が出来る。

黒澤明監督の『乱』はシェークスピアの『リア王』を日本の時代劇に置き換えてやっているわけで、『ラスト・ナイツ』では『忠臣蔵』を世界各国のキャストやスタッフと一緒にファンタジーに置き換えれば、世界的な映画になると思ったんです。日本のコンテンツをこういう形で世界中の人に観てもらう事は国にとっても有益だと考えています。だから、もしこの作品が評価していただければ、今後も幕末であったり、日本の歴史の物語を映画化出来るかもしれない。

―『ラスト・ナイツ』ではその監督のヴィジョンが見事に成功していましたね。

紀里谷:映画がはじまって最初の方は、白人も黒人もアジア人もいっぱいいて、混乱する人もいるかもしれないけど、観ていくうちにそんな事忘れちゃうと思うんですよ。みんな、ただ騎士であり武士であるだけだから。人種を越えた、人間同士の戦いがある、という風に感じていただければ僕は嬉しいわけです。

最後のクライヴと伊原さんの戦いのシーンでも、伊原さんがいる事でクライヴもすごく武士に見える。剣を抜く時に伊原さんがお辞儀をすると、クライヴはお辞儀をする文化の国の人じゃないのに自然とお辞儀をする。そういったシーンに、この映画の神髄があると思っています。

伊原剛志

―そういった素晴らしいお話をさらに盛り上げてくれる、映像美、世界観も素晴らしかったです。ロケはどこで行ったのですか?

紀里谷:チェコで撮りました。最初はインドで撮ろうとしていたのですが、色々な状況で断念して。『ラスト・ナイツ』はファンタジーなので、どこの国かも分からないし、もしかして他の星かもしれないし。『CASSHERN』も『GOEMON』もそうなのですが、パラレルファンタジーなんです。そういった世界観を撮れるという意味でチェコは素晴らしかったですね。プラハなんて街中が撮影スタジオみたいで。ヨーロッパ全体を日本に例えると、ロンドンが東京だとすると、プラハは京都くらいの位置にあるので、飛行機乗れば1時間くらいだから撮影に来やすいんですよね。

―幻想的なお城や歴史を感じる建物など、映画を観た方なら「これどこで撮ったんだろう」と絶対驚くと思いますね。

紀里谷:建物とかはほとんど、そこにあったもので、セットを組んだりとかはあまりしていないですね。元々あった建物に装飾はしていますが。

―そこからCG技術も加わって。

紀里谷:CGには一年以上かけています。『CASSHERN』や『GOEMON』と違って、分かりやすくCG全開という感じがしないから、それらの作品が好きだった方からすると物足りないかもしれないけど、僕はそれすらもカテゴライズだと思うんですよね。人間って複雑で「この人はこうだ」なんて決められないじゃないですか。とにかく今の時代ってジャンルが細分化されて、「○○系」って決められて知った様な事を言われてしまいますが、人間ってそんな簡単じゃないですよね。

―監督が今回の映画作りで面白いなと思ったガジェットや技術はありますか?

紀里谷:部屋全体を3Dスキャンして、それを基にCGを作ったりした事は面白かったですね。その技術は元々アメリカで犯行現場の保存に使われる物で、写真をバシャバシャ撮るよりも3Dで全てスキャンしてしまえば便利だと。

―立体的に部屋を映せるという事ですね。素人質問で恐縮ですが、技術の進化で映画作りの負担が減らせる、という事はあったりするのでしょうか?

紀里谷:テクノロジーでは楽にならないですよ。例えば、映画でもテレビでも解像度がどんどん上がっていって、CGがどれだけ精巧になってもその解像度に追いつかないという“いたちごっこ”なんですよね。カメラの解像度があがれば、メイクさんが大変になるとかね。昔は編集室でやっていた仕事がノートパソコン一台で出来る様になり、それは楽になったという事なのかもしれないけど、それによって納期が短くなったりとか。カメラマンが特にそうなんだけど、これまで一週間とか納期があったのにデジタルになった事で「明日ください」とか言われる。テクノロジーはどんどん進化していって、僕もフル活用していますけど、その進化によって人間が楽になるというかは分からないですね。それこそ『CASSHERN』の頃のCGを今やっても許されない。

ただ一つ言えるのは、カメラやパソコンで簡単に映像が撮れて、若者も映画を作れる時代になってきて、より誰も観た事の無いアイデアが求められる時代になっているとは思います。競争が激化していくというかね。

―また、この映画はとにかく「黒」が印象的で、あの漆黒なのにクリアというか、独特の映像はどの様に作られているのですか?

紀里谷:僕の中で日本の武士のイメージは「黒」なので、黒にはとことんこだわりました。普通に撮ると黒がつぶれちゃうんですね。これは細かい技術的な話になるので省きますが、黒をキレイに撮る為にスモークを炊くんです。そのスモーク代だけで一日250万円くらいかかったのかな。スモークを炊きすぎて、プラハから少し離れた場所で撮影していた時も、そのスモークがプラハまで届いちゃったんですよ。横浜で炊いたスモークが東京まできちゃった感じ(笑)。街の人は「今日なんか曇ってるな〜」って話してたらしいですけど、それは映画のスモークだったと。そのくらいの事をやらないと、あの黒は出ないんです。

―なんとも壮大で驚きのエピソードです。また映画を拝見する際にはそういった背景にも注目させていただきます。今日は貴重なお話をありがとうございました。

(撮影:周二郎探検隊)

紀里谷監督

『ラスト・ナイツ』ストーリー
大臣への賄賂を断り、反逆罪を勧告されたバルトーク卿に死罪が下された。最も残忍な処刑方法によるその死罪は、愛弟子ライデンの手による斬首だった。バルトーク卿の首を自身の刀で落とすこととなったライデンと仲間の騎士たちは、無念の思いで復讐の時を待ち続けた。そして1年後、ライデン率いる気高い騎士たちは、主君バルトーク卿の不当な死に報復する戦いをはじめる。

http://lastknights.jp

(C)2015 Luka Productions.

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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