体験を伝える―『ガジェット通信』の考え方

面白いものを探しにいこう 本物を体験し体感しよう 会いたい人に会いに行こう 見たことのないものを見に行こう そしてそれをやわらかくみんなに伝えよう [→ガジェ通についてもっと詳しく] [→ガジェット通信フロアについて]

リンカーン・ライムシリーズ最新作『スキン・コレクター』登場!

リンカーン・ライムシリーズ最新作『スキン・コレクター』登場!

 ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズを読むのには、4クールもののヒーロー番組を観るのに似た楽しみがある。

 1997年の『ボーン・コレクター』(邦訳は1999年。版元はすべて文藝春秋)で初登場したリンカーン・ライムはニューヨーク市警で天才と称された鑑識官だ。捜査中に建物が崩壊するという事故に見舞われ、脊髄を損傷したために四肢麻痺になった。首から下で動かせるのは1本の指先のみという状態になって公職からは引退するが、ニューヨーク市警の警官(のちに刑事)であるアメリア・サックスを助手とすることによって復活する。サックスが彼の手足となって事件現場に飛んで物的証拠を集め、彼の目や鼻の代わりに周囲の状況を見極めてライムに伝えるのである。知力と行動力の分業というコンビネーションには、レックス・スタウトのネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィンなどの前例があるが、弱点がある探偵、という点を強調することによってこのチームは際立った特徴を持った。シリーズは、最新刊の『スキン・コレクター』で11作を数える人気作品に成長したのである。

 ライム&サックス・チームの活躍譚には、いくつもの際立った特徴がある。

 有名なのが、敵役に存在感があるということだ。犠牲者を次々に誘拐して殺害し〈骨〉に異常なまでにこだわる敵が登場する『ボーン・コレクター』、狡猾な策略で捜査網をすり抜ける凄腕の暗殺者と対決する『コフィン・ダンサー』など、初期作品からその要素は前面に押し出されていたのだが、第5作『魔術師』が第1のターニング・ポイントになった。この作品に登場するのは〈イリュージョニスト〉と呼ばれる殺人者で、魔術のトリックを応用した目くらましの技術で幾度も派手な脱出劇を演じて見せるのである。オールドファンなら絶対に「さらばだ、明智くん」の怪人二十面相を思い出すところ。

 その後1作を挟んだ『ウォッチメイカー』に登場したのは、その〈イリュージョニスト〉を上回る知謀の主で、ライムは彼に完全に翻弄されてしまう。細かく説明するとネタばらしになってしまうのだが、作者の書きぶりも狡猾で、『ウォッチメイカー』までのシリーズを読者が読んでいることを前提とした上で、それを利用して罠を仕掛けるようなことをやってくるのである。4クールもののヒーロー番組が以前に使ったパターンを逆手にとったプロットを出してくるように、ディーヴァーも自作を利用してサプライズを演出する。つまり、シリーズを読んでいれば読んでいるほど、ズブズブと話にはまってしまうという仕掛けだ。

 この敵がよほど気に入ったのか、1作でお払い箱にせず、以降の作品にもディーヴァーは〈ウォッチメイカー〉を登場させるようになった。ライム&サックスは、人の人生を乗っ取るネットワーク使いとか(『ソウル・コレクター』)、送電網を支配して街を恐怖に陥れるテロリストとか(『バーニング・ワイヤー』)、難敵を相手にしつつ、同時に〈ウォッチメイカー〉とも闘わなくてはならなくなるのである。南米支部に移動になって新しく地獄大使が敵になったはずなのに、また死神博士が仮面ライダーの前に現れるようなものだ。違うか。

 新刊『スキン・コレクター』もその〈ウォッチメイカー〉の話題から幕が上がる。収監されていた天才犯罪者が獄死したという一報がもたらされるのである。今回ライム&サックスは、犠牲者の皮膚に刺青を彫り、そこから毒を浸透させて殺すという厭な犯罪者を相手にすることになる。犯行現場には、かつてライムたちが従事した〈ボーン・コレクター〉事件の捜査に関する本のページが遺されていた。犯人の行動は一つひとつが骨マニアの殺人鬼のそれをなぞっているように見えるのだ。遺体を利用し、捜査陣をからかうような暗号のメッセージを置いていく点はまさに〈ボーン・コレクター〉そのもの。かの事件でも、犯人は過去の犯罪捜査に関する文献を熟読した形跡があった。果たしてこれは、模倣犯、コピーキャットの仕業なのか。骨の代わりに皮膚にこだわる〈スキン・コレクター〉との闘いが始まる。

 シリーズの魅力として、登場人物が複数の作品に顔を出し続けるという点がある。ライム&サックスのチームに次々と新顔が加わり続ける点もそうなのだが、過去の事件の関係者が時折復活するという趣向もおもしろい。『ボーン・コレクター』事件の際に危うく命を落としかけた少女パム・ウィロビーは過去作にも顔を出していたが、今回は重要な役回りを担って再登場する。前作品を知らなくてもおもしろいが知っているとさらに印象が強まる、という演出がこのパムの登場場面以外にも施されているので、シリーズ・ファンは要注意である。もちろん前作を未読であっても問題はなく、これ1作できちんと完結した物語になっているので、初めて読む方もご安心を。

1 2次のページ
BOOKSTANDの記事一覧をみる
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。