第38回 『血に飢えた島』

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第38回 『血に飢えた島』

 今回からしばらく、劇場未公開・未DVD化映画の中から、これぞ「幻の怪獣怪人映画の真髄」といった、クズ映画とは一線を画す由緒正しき作品をシリーズで紹介していこう。

 ハマープロ(ハマー・フィルム・プロダクション)は、1950年代から1970年代にかけて制作した怪奇映画で知られるイギリスの老舗。そこでフランケンシュタイン、ドラキュラ、狼男など数多くの有名モンスター映画を手掛けたのがテレンス・フィッシャー監督だ。そして、それらハマー作品でフランケンシュタイン博士やヴァン・ヘルシング(ドラキュラのライバル)を演じ、クリストファー・リーと並んで「世界の2大怪奇スター」と呼ばれたのが、『スター・ウォーズ』のモフ・ターキン総督としても知られるピーター・カッシング。「ハマープロ」「テレンス・フィッシャー」「ピーター・カッシング」……古典モンスターマニアなら絶対にそそられるキーワードが揃った『血に飢えた島』。ストーリーはこうだ。

イギリス・イタリア・アメリカ・日本による癌の共同研究が行われているアイルランド沖の小さな島。だが島では、人間や家畜が骨のないグニャグニャ死体で次々と発見される。島の開業医ランダース先生はロンドンに出向き、病理学の最高権威スタンレー博士(ピーター・カッシング)と、骨の専門医ウエスト博士に調査を依頼する。
 癌研究所が怪しいと睨んだ博士らは、その地下実験室で「シュワワワン」と怪しい音を鳴らして這い回る不気味な怪物に遭遇する。先が亀頭のようになった触手が蛇のようにクネクネと宙を舞い、その根元はアメフラシか『ウルトラQ』のナメゴンみたいな胴体に付いている。灰色の体は長さ80センチほどで、目も口も見当たらない。等身大の怪人が多いハマー作品にしては珍しい形態のクリーチャーだ。同プロの『原子人間』(55年)や『怪獣ウラン』(56年)に登場したブロブ(ぶよぶよ)モンスターの系譜といったところか。
ランダース先生は怪物の背中に斧で一撃を加えるが、触手で足を刺されて毒が回って死ぬ。すると怪物の背中がパカッと割れ、中からラーメンのゲロみたいな液体がドロ~と溢れ出て、2体に分裂を始める。

 癌研究所に残された書類から、怪物は癌を中和させる細胞から生まれたシリコン生物(シリコンだから「シリカ」と命名)で、動物の骨を食料とすることが判明する。またシリカは6時間ごとに細胞分裂を繰り返し、現在の生息数64匹は数日後には百万匹に増殖する計算だ。これを阻止せんと、博士らと島民によるシリカ退治が開始された。だがライフルも火炎瓶もダイナマイトも、緩慢なシリカに誰一人命中させることができない(笑)。おまけに油断したスタンレーはシリカに左腕を刺され、全身に毒が回らないようウエスト博士に手首を斧で切断させる(ハマープロらしい残酷描写)。
 そんな折り、シリカの弱点が放射性物質と分かり、研究所にあるストロンチウム90を投与した牛をシリカに食わせる策に出る。だがその牛の骨を食ったシリカの群れは、ストロンチウムの投与量が不足していたため死なず、全島民が集められた集会所を襲い始める。もはやこれまでと誰もが観念した時、シリカの動きが止まった。ようやくストロンチウムの効き目が現れ、島中のシリカはあっさり全滅したのだった。
 そしてラスト、唐突に舞台は日本へ場面転換する。中国っぽいBGM、筆で「研究所々長」と書かれた部屋の標札といった誤った日本観には相変わらず閉口するが、どうやら抗癌の共同開発をしている日本の研究所のようだ。その部屋へ入って行く日本人科学者。だが部屋の中から「シュワワワン」と例の音が聞こえてきて、男の悲鳴で「完」。なぜ日本にシリカが? 全く説明はないが、きっと「まだ終わっていないぞ」というオチなのだろう。

ちなみに、この「シュワワワン」という電子音、『キャプテン・スカーレット』か『謎の円盤UFO』で聞き覚えがあり、それらの音楽担当バリー・グレイ(『サンダーバード』の作曲者)がオープニングに「音響」とクレジットされていることから、彼が同番組の効果音を提供していたのだろう。

2000年代初頭、ある日偶然入った個人経営のレンタル屋でこの『血に飢えた島』のビデオを発見した。このビデオはTSUTAYAほか、どこの店にも置いてなく、中古市場でも滅多に出回らないレア物。私は商品を売ってもらおうと試み、その場は一旦断られたが、2度目の訪問で店主の言い値の3000円で譲ってもらった。ちなみにレンタルされた回数を聞いてみると「1回」(笑)。TSUTAYAさん、入荷しなくて正解だ。でもおかげで画質は新品に近い。私はここで人生の運を、かなり使ってしまったのだった。

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