tofubeats『POSITIVE』ロングインタヴュー(後編)

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tofubeatsはメジャー移籍後のセカンド・アルバム『POSITIVE』でクラブ・ミュージック/ヒップホップが出自のプロデューサー/ヴォーカリストにしかできない方法論と底知れぬ執念で2015年の“J-POP”を作り上げようとしている。それは前作『First Album』の延長にあるものの、“もうひとつ向こう側”に行くための努力にまったく余念がない。小室哲哉、KREVA、岸田繁(くるり)、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)をはじめとする大物ミュージシャンとの共作も自然体でこなし、気負いなど微塵も感じさせない。実はそれだけですごいことだ。この理知的かつ情熱的な現在24歳の男はどこからやって来て、いまどこにいるのだろうか。『POSITIVE』とそこに至るひとつの軌跡、そして作品の背景にある価値観について語ってくれた。

 

(前編からの続き)

――『POSITIVE』の中で作るのに苦労した曲はありますか?

tofubeats「だいたいの曲は苦労はしてますね。僕はあんまりツルツルっと曲を作れるタイプじゃないんです。ちょっとした引っかかりができてもそこから仕上がるまでに時間がかかるんです」

――でも多作家ですよね。 

tofubeats「そうですね。やっぱり多作にならざるを得ないところはありますね(笑)。というのも、いっぱい曲を作らないと上手くならないから頑張っていっぱい作ろうとはしています。苦労したと言えば、“POSITIVE”はけっこう歌詞を書き換えたりしましたし、“STAKEHOLDER”も叩きができてからもうひとつガッと良くなるまでに時間がかかりました。80点ぐらいから90点に行くのに苦労しました」

 

tofubeats / STAKEHOLDER

tofubeats / すてきなメゾン feat. 玉城ティナ

――80点ぐらいから90点に行く最後のもうひと押しの難しさはどこにありましたか?

tofubeats「特に今回の『POSITIVE』はキャッチーかどうかというところですね。玉城ティナさんとの“すてきなメゾン”にしても、サビの最後の『すてきなメゾン』っていう歌詞がなかなか出てこなかった。『すてきなメゾン』っていうキメの歌詞があるかないかでこの曲の魅力はぜんぜん変わってきてしまうんです。そういうキメがバチンとあるのがJ-POPだと思いますね」

――つまり、ポップスのキャッチ―さを創造すること、J-POPとしての完成度を高めることに苦労したと。 

tofubeats「そうですね。ポップスはストップ&スタートができないといけない音楽だと思いますから」

――J-POPはずっと聴き続けてきたんですか? 

tofubeats「中学校に入って日本語ラップを聴き出すと、“J-POPダセェ期”が到来するんですね」

――“J-POPダセェ期”はやっぱりあったんですね。

tofubeats「ぜんぜんありました。でも中3ぐらいから、もう折れて、高1から渋谷系に行くんです。『そう言えばオレはオタクやった』と思ってそこで足元を見るわけです。ヒップホップを聴いてる場合じゃなかったと」

――ヒップホップは良くも悪くもヤンキー・カルチャーや不良と切っても切り離せない側面があるじゃないですか。tofuくんはそういう側面をどのように見てきました?

tofubeats「僕、中3年ぐらいから地元のヒップホップ・クルーと少し交流があったんです。アカペラもらってリミックスをしたりもしてました。ただ、神戸は京都や大阪と比べると、やっぱり田舎ですから良からぬヴァイブスもあるわけです。当時日本語ラップ・バブルが少しきていたのもあったし、たいして売れてもねぇクセに一丁前にやろうとするんです。先輩に服屋に呼び出されて、『お前のトラックは音が若い!』とか怒られたことがありましたね」

――だって、実際若いですよね(笑)。

tofubeats「そうなんですよ。『オレは若いがな』って思ったし、自分のトラックがダサいとも思わなかった。それでもいろいろ文句を言われるし、『うちの店にトラック持って来い』とか命令されるし、ウンザリしちゃったんですよ。高校生なんてお金ないじゃないですか。そういう環境で100均でバイトして日銭を稼いで機材とか買って、自分のできることを一生懸命やろうとしている中で、この人たちと一緒にいても広がりがないと思いましたね。この人らは音楽をやりたいんじゃなくて、つるみたいだけなんやなって、そのときの僕は思ったんです。もちろんそうじゃなかった人もいたと思います。でも、ヒップホップをやることに対して得がないと思うようになってしまったんです。BUDDHA BRANDみたいなもっと開けたことをやれるのかと思っていたらぜんぜん違った」

――BUDDHA BRANDはトラックもラップもオシャレですしね。

tofubeats「そうそうそうそう」

――それこそD.Lさん(DEV LARGE)は“人間発電所”(1996年)に関して、「フリー・ソウルを狙う」という心づもりで作ったと当時のカッティング・エッジのA&Rの本根誠さんという方がDOMMUNEで語っていました。つまり、渋谷系を意識してたんですよね。 

tofubeats「サンプリングして曲を作るという点ではヒップホップも渋谷系もやってることは同じですからね。しかも京都にはSecond Royal Recordsがあったし、JET SETもまだ神戸にあったというのも大きかった」

――同じことをやっているけど、ヒップホップの人たちよりも音楽的に自由な人たちがいるじゃないかと。

tofubeats「そうですね。アブストラクトなサウンドが流行っていたのもあって、そういうどんどん暗くなっていく方向性に対して、明るい音楽がいいなって思うようになっていったんです。高3で柳田久美子さんのリミックス曲“君のせいなんだ(TOFUBEATS SEVENTEEN REMIX)”を作っているんですけど、あの曲は『フリー・ソウル』をTSUTAYAで30枚ぐらい借りてきて、キーの合う曲を100曲ぐらい選んでサンプリングしたんですよ。いま考えたらあり得へん悪過ぎるやり方ですけど(笑)」

――それでも、常にヒップホップの人たちとは接点を持ち続けていますよね。東京に頻繁に来るようなっていろんな人たちと出会ったでしょうし。 

tofubeats「そうですね。『lost decade』の“Les Aventuriers”では PUNPEEさんとやっていますし、最近ラップしているのもそういう出会いと関係してると思います。ラップをやってもいいかな、という気持ちにやっとなれてますね」

 

tofubeats / Les Aventuriers feat.PUNPEE

――KREVAさんとの“Too Many Girls”でもラップしてますしね。

tofubeats「でもラップに関しては『なんかすみません』って気持ちがあるんですよね。この曲みたいに面白半分じゃないとラップはできなくて、ラップは趣味程度でやるって決めているんです」

 

――でも、この曲のラップはオチもあるコミカルな内容で、そこに関しては“面白半分”とかじゃなくて、考え抜いて構成していると感じましたけど。もう思いっ切りカッコつけたラップをしてみるとか、そういう気持ちはないですか?

tofubeats「いやぁ……まあ恥ずかしいですからね。難しいですね」

――ラップすることに対してはどこかに照れがあるんですね。

tofubeats「月一とか二ヶ月に一回とか、ラップをやろうとするタイミングがあるんですよ。でも、『16小節も書けへんなぁー』みたいな感じになっちゃうんです」

――tofuくんがカッコイイと思うラッパーは誰ですか?

tofubeats「一回リリックでも言っていますけど、ECDとA.K.I.PRODUCTIONSがむちゃむちゃ好きなんです。ヒップホップという枠で言えば、ヤン富田さん、いとうせいこうさん、 DUB MASTER Xさんも超好きです。彼らから“ひっくり返すのがヒップホップ”ということを学んだんですよ。いまは技術的な意味で上手い下手かにこだわっているラッパーの人たちが多いじゃないですか。でも、そういうのはヒップホップの思想とは離れていると思うんです。僕の中でのヒップホップはひっくり返そうとしている気合があるかないかなんです。だから、テイ(・トウワ)さんとかパラ・ワンとかもめっちゃ好きですね」

――パラ・ワンとはele-kingで対談(http://www.ele-king.net/columns/004168/)してましたよね。 

tofubeats「僕がファン過ぎて、『会わせてくれ!』って言って実現したんです。パラ・ワンも元々は、DJプレミアみたいなビートを作ってたんすよ。そこからテキとかと出会って、アブストラクトなビートを作り出して、いまみたいなクラブ・ミュージックをやっている。そういう流れにはかなり共感するところがありますね。テイさんもまさにそうじゃないですか。ヒップホップを作っていたらハウスに向かっていく、という体験が自分にもあるから共感できるんです」

――ラップのフロウやライミングの音的な気持ち良さってありますよね。その観点から気になる人、好きな人はいますか?

tofubeats「ラップのスタイルを発明しているっていう意味ではPUNPEEさんもそうだし、KOHHさんとかもそうじゃないですか。新しい日本語ラップを発明しようとする気概があるか/ないか、ということですよね。そういう人は好きですね」

――唐突ですけど、最近僕の中で熱いから訊きたいんですけど、TOKONA-Xのラップはどう思いますか?

tofubeats「めちゃ好きです。なぜか去年の末ぐらいは、TOKONA-Xの“Let me know ya…”(2003年)とミッドナイト・スターの“ I’m Curious”をミックスしてクラブでかけていましたね。マネージャーがCAMPANELLAさんやERAさん、WDsoundsやRC SLUMの人たちと仲良かったりするのもあって、そういう人たちの音楽もすごい好きですね。だから、いまは昔のようなヒップホップへのバイアスはあんまりないですね」

――そういう流れで考えると、クラブ・ミュージック、ヒップホップが出自のtofubeatsが本腰を入れてポップスを作ろうとしているのがメジャー以降の作品だと思うんですけど、前作『First Album』と今作『POSITIVE』の制作する上でもっとも技術的に変えたことは何ですか?

tofubeats「ヘッドホンアンプを買い替えたことによって全体的にJ-POPっぽいシャキッとした音になりましたね。だから、ヘッドホンアンプを買い替えたことに全体が引っ張られたところはあります。あと『First Album』は力が入り過ぎているところがあるんですよ。18曲で80分近くもありましたから。でも今回は60分以下に収めています」

――それは曲がたくさん入っているほうがお得だという考え方だったんですか?

tofubeats「そうですね。でも今年はそうでもないなということがわかって良かったです。たくさん曲が入っている方が正しいと思っていた価値観をやっと刷新できたんです。前作よりも“風通しの良い”作品にしたくて、実際そう作れたと思います」

――これからミュージシャンとしてやっていくと見通した上で『POSITIVE』は本人としてはどういう位置づけとして作りましたか?

tofubeats「『メジャー2枚目を〆切通りに出せないヤツは、一生無理だ』というようなことを山下達郎さんがインタビューで話していたのを読んで、とりあえずちゃんと出そうという意識がありましたね。山下達郎さんだけではなくて、いろんな人がよく言うじゃないですか、2枚目は大変だと。正直作っている最中はもっとダメになるかもしれないという予感もなくはなかったんですけど、そうはならなかった。だから、これからも音楽を続けられるな、という気持ちですね。ただ今年は全体に掴みどころがない年だから、このアルバムが出てどういう反響がくるのかはぜんぜん想像もつかないんですよ」

――掴みどころのない年ってどういう意味ですか? 

tofubeats「“これが今年のブームです!”というものがないですよね」

――それはtofuくんの個人的なブームとして、それとも音楽シーン全体を見てそう思いますか?

tofubeats「クラブ・ミュージック・シーン的に今年はコレが流行っています、みたいなのがないなあっていうのがなんとなくありますね」

――去年は何が流行っていたと思いますか?

tofubeats「FKAツイッグスがバーン!みたいなのがないなと。あと、タームとしてのポストR&Bがドーン! フューチャー・ベースがドーン!みたいなのがないですよね。今年は去年の流行をまだなんとなくやっている感じがする」

――ああ、なるほど。ただ、流行と関係ないところでtofuくん自身が急速なスピードで動いていますよね。昨年自分が出会いたいと思っていたミュージシャンの人たちと『First Album』で共作して、宇多田ヒカルさんのカヴァーもやりましたし。

tofubeats「そうなんですよ。しかも今年のはじめにSMAPのリミックス(“華麗なる逆襲(tofubeats remix)”)もやってたんです。夢が叶うのがちょっと早過ぎて狼狽えたんですよ。何か予定がおかしいんじゃないかと。SMAPのリミックスなんて、今年の元旦に作業に取りかかっていますからもうめでた過ぎる幕開けだったんです。後厄とは思えない(笑)。厄年の最後の大晦日にSMAPのリミックスが決まって、紅白が終わってSMAPのスタッフから返答がきますという話だったのを憶えていますね。8日〆切だったので、三が日から作業に取りかかって、4~8日までずっと修正作業をやっていましたね」

――あと今日初めてお会いして、ミュージシャン、アーティストとして当然のことと言えばそうなんですけど、上手くなること、知ることに対しての貪欲さみたいなものをひと一倍持っている方なんだなと感じました。

tofubeats「でも、早く上手くなると、あいだが楽しめないじゃないですか(笑)。だから、やりながら少しずつ上手くなるぐらいがちょうどいいし、上手くなる途中ってすごいいいじゃないですか。ゆっくり変えて行くと、意外と遠くへ来たなと実感できるからいいんですよね」

――わからないことがたくさんあるときの楽しさですよね? 

tofubeats「そうなんですよ。中途半端に上手いときの自分には上手くなってしまってからでは絶対に戻れないから大事な時期だと思うんです。あと上手い人はいっぱいいるから、ちょっとぐらい下手でも味があった方がいいとは思っていますね。それはテイさんやパラ・ワンという先輩がやってきたことを見ていて思うことなんです。自分のクセは大事にしていこうと」

――最後に今後のtofubeatsの夢、野望、あるいはヴィジョンについて訊かせてもらえますか。

tofubeats「いつも言っていることですけど、良い曲がたくさん作り続けられたらいいと思っています。良い曲をいっぱい作ってそれを自分で聴くと、カウンセリングになりますから。カウンセリングというか、音楽を作ることで自分のことがわかっていくんです。で、自分でそのことを面白いと思えるんです。でもそうは言っても、面白く思えるようになるのは1年後ぐらいですけどね。音楽を作っているときは絶対しんどいんです、永遠に。でも、そのとき頑張って、1年ぐらい経つと曲を聴いて気持ちいい~ってなるのがわかっているから、ただただやっていく感じですね」

文  二木信/text  Shin Futatsugi

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『POSITIVE』

発売中

http://www.amazon.co.jp/POSITIVE-初回限定盤-tofubeats/dp/B010P8PPZG

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tofubeats

1990年、平成2年生まれ、神戸市在住のトラックメイカー/DJ。インターネットで100曲以上の楽曲を公開し続けるかたわら、 YUKI、FPM、佐々木希、ももいろクローバー、Flo Rida など様々なアーティストのリミックスも手かがけ高い評価を得ている。Web CMなどのクライアントワークも多数。盟友オノマトペ大臣と2011年末にリリースした“水星EP”はアナログ盤として異例のヒットに。強い要望を受けてリリースされたデジタルバージョンはiTunes 総合チャート1位を獲得。iTunes Best of 2012 に選出され、翌2013年のニューアーティストにも選ばれる。2013年春発売の『lost decade』も iTunesで総合チャート1位を獲得。世界のインターネットに散らばる最新のクラブミュージックからJ-POPまで、凝り固まらない平成生まれのバランス感覚を持った新進気鋭の若手トラックメイカー。2013年11月には森高千里をフィーチャリングした“Don’t Stop The Music”でメジャーデビュー。藤井隆を迎えた“ディスコの神様”でも話題に。2014年10月2日にメジャー1st『First Album』、2015年4月1日に『STAKEHOLDER』、そして2015年9月16日に2nd『POSITIVE』をリリース。

 

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