東京電力が放射線量測定データを「使いづらく」している理由

※図A 公開されているデータの一例

※図A

●2011年4月13日追記
経済産業省情報プロジェクト室及び東京電力内関係者各位のご尽力により、福島原発モニタリングデータのCSVファイルでの公開がはじまりました。小さいようですが、大きな一歩だと思います。最適な方法での情報公開は、情報の透明性というテーマにもつながる話だと思います。先送りすることなく引き続き改善の継続を期待したいと思います。

●2011年4月11日追記
現在、経産省経由で東京電力さんにお話いただいており、近日中にモニタリングデータ部分に関してはCSVでの提供を開始できるとのこと。ただし、内部調整に時間がかかり、公開日未定。関係各位の「もうひとふんばり」に期待。

【以下の記事は、2011年4月6日時点の状況を背景に書かれたものです。現在、東京電力さんのウェブサイトでは、CSV形式でのファイルも公開されています】

東京電力の公開している福島原発などの放射線量測定データは、扱いづらいPDFフォーマットで、しかもセキュリティ設定がおこなわれているため、通常の方法では利用が困難です。なぜそんなことになっているか、その理由を直接きいてみました。

東京電力からの回答(4月4日回答)
(略)
モニタリングデータの公開につきましては、当社が提供した情報のすべて、あるいは一部をそのまままた改変して転用・複製等されることを防ぐため、PDFファイルにセキュリティ設定を行っております。

何卒、ご理解いただけますようお願いいたします。

……ご理解いただけるわけがないでしょう。

これらの測定データは有効に使われなければ意味がありません。「発表しました」という体裁だけつくれればいい、ということなのでしょうが、この期に及んでなぜこのようなことを続けるのか、理解に苦しみます。むしろ「使いづらく」しているために、利用の際、ミスが起きる可能性が高まっています。改竄の可能性があるということですが、元ファイルが東京電力のサーバーにあるんだから、すぐに検証は可能でありそのおそれはほぼありません。この件に関しては、経済産業省商務情報政策局情報政策課の境真良氏も”個人的な”ツイッターのつぶやきで以下のようにコメントを寄せていただいています。

改竄の議論は件の要請(*)を出す段階で役所でも議論済みで、公式HPに公式データが出てるなら検証可能なので相対的に重大な問題でないという認識。

(*)東北地方太平洋沖地震等に係る情報提供のデータ形式について(経済産業省, http://bit.ly/fdZA7k )

●有志の方が手間をかけて変換している
先ほども書きましたが、東京電力が発表している放射線量データは、コンピューターでそのまま読めない形になっています。ですので、利用するためには手作業を含む変換作業が必要となります。この作業、三重大学の奥村晴彦教授がやってくださっています。この労があってこそ、やっとコンピューターにも読める形となり、晴れて使える形でデータが公開されている状態になっているのです。奥村先生はコンピューターアルゴリズムが専門であり、この世界ではたいへん有名な方です。

三重大学の奥村晴彦教授による作業メモより:

東京電力 http://www.tepco.co.jp/ で公開されている福島第一・第二原子力発電所の放射線量率データは,手打ちPDFのようで,そのままでは機械可読ではないので,コピペと若干の自動処理でExcelおよびCSVファイルにしました。

本来、これは東京電力がおこなうべき作業であるはずです。しかし、それがおこなわれていません。

これらの利用可能となったデータを見やすくグラフ化したり、理解しやすい形に表現したりといったさまざまな工夫がおこなわれているのは、こういった有志の方が時間をとって変換の作業をおこなってくださっているからなのです。

繰り返しますが、東京電力が、利用しづらいファイル形式にわざわざ変換しなければ、もっとスムーズにデータが伝達されるはずなのです。これは本来であれば、東京電力が率先しておこなうべきことなのです。

※図B 線量データの可視化

※図B

●経済産業省の指導も無視
監督官庁はこの状況をどう見ているのでしょうか。実は経済産業省や地方自治センターは、今回の震災を受け、企業や役所などに、「国民へ発信する重要情報は、利用しやすい形で公開するように」と釘をさしています。しかし東京電力はその指導すら無視しています。

東北地方太平洋沖地震等に係る情報提供のデータ形式について(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/other/2011/0330.html

国民へ発信する重要情報のファイル形式について – 財団法人 地方自治情報センター(LASDEC)
https://www.lasdec.or.jp/cms/12,22060,84.html

●東京電力の中で改善されている部署もある
同じ東京電力の中でも、こういう間違った判断をする部署ばかりではありません。電力供給状況に関しては、当初使いやすい形でのデータ提供はありませんでしたが、早い段階でコンピューター処理をしやすいCSVフォーマットでのデータ提供がはじまりました。それを受けて、経産省自ら「アプリを作ったら教えて」とまで言っているほどです。電力利用状況に関するさまざまなグラフや工夫を凝らした表現が増えたのは、そのおかげでもあります。

※図C みんなで節電 消費電力ブログパーツウェブサイトより

※図C

しかし何故か福島原発等の放射線量の測定データに関しては、いつまでたっても「セキュリティ付きのPDF」のままで、利用されることを拒否した状態です。この問題、将来的に関係者の責任が問われることになるでしょうが、情報が欲しいのは、まさに今です。今からでも遅くないですので、考え方を改めていただき、すべての情報を利用しやすい形で公開するようにして欲しいと思います。

※多数の関連リンクについてはガジェ通サーバーの記事したの関連リンク集をご覧ください。


関連コメント)

Twitter / @境真良氏(経済産業省商務情報政策局情報政策課): なお、改竄の議論は件の要請を出す段階で役所でも議論済みで、公式HPに公式データが出てるなら検証可能なので相対的に重大な問題でないという認識。
http://twitter.com/#!/sakaima/status/55597188960632832

関連リンク)
福島第一・第二原子力発電所モニタリングによる計測状況|原子力発電所|東京電力

東北地方太平洋沖地震等に係る情報提供のデータ形式について(経済産業省)

国民へ発信する重要情報のファイル形式について – 財団法人 地方自治情報センター(LASDEC)

経済産業省が、東京電力の電力使用状況データを使ったアプリを募集

奥村教授によるPDF→CSV変換メモ

(4月7日20時40分追記)福島第一・第二原子力発電所モニタリングによる計測状況(HTML版)
@tabimobaさんによるHTML変換版

可視化の例)
放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) – 宇宙線実験の覚え書き

福島原発のγ線量測定データをggplot2で可視化してみた – ぬいぐるみライフ(仮)

放射線量観測グラフ

福島第1原子力発電所び放射線量観測値をグラフにする

Radiation monitor of Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant

(機械可読)空間放射線量率データ

都道府県別環境放射能水準調査

Visualization of latest radioactivity levels in Japan

Visualizations : Radiation levels (μSv par 2hours) in Japan

Map MashUp Manager for 0311

※図A) 1枚目の画像:東京電力発表、福島第一原子力発電所の放射線量計測値発表データより
※図B) 2枚目の画像:ブログ「宇宙線実験の覚え書き」より
※図C) 3枚目のブログパーツ画像:みんなで節電 消費電力ブログパーツより

※修正等: [4月6日20時]モニタリングカーによる計測状況発表データの画面スクリーンショットにトップ画像さしかえ(当初、可視化されたグラフをトップ画像としておりましたが、それを東電発表PDFと勘違いしている方がおられたようなので)。[4月7日20時]図Cの画像をさしかえ。[4月8日]境氏コメント追記。「上場企業なら当然」「改竄防止に必要」とのコメントが少なからずあるため、説明追記。

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

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