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「PCが起動しない」「思い出の写真が」「大切なデータが」データ復旧の一部始終を見た!

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展示会等を取材していると、企業の担当者と名刺交換する機会がよくある。たいていは、その後にメールマガジンや営業のメールが来ることになる。それ自体は一向に構わないのだが、せっかく取材させていただいた企業なので一通り目を通すことにしている。
そんな中、5月に取材した「IT WEEK」(拙稿 http://getnews.jp/archives/959385 参照)の出展企業からメールが届いた。

かいつまんで紹介すると、「PCが起動せずHDDの故障と思って業者に復旧の依頼をしたら見積もりが13万円。驚いて持ち込まれたHDDを初期診断をするとHDDの故障はなかった等、特に夏場に悪徳業者被害が多くなっているのでお気を付けください」という内容。

記者はWindows3.1の時代からPCを使っているので、何度となくHDDを吹っ飛ばしてきた。だからHDDは消耗品であることを経験から知っているので、自分で作成したデータはバックアップを取る癖がついている。バックアップ先は昔ならCD-RやDVD-R、その後HDDそのものが安くなればHDDに、最近はクラウドにアップロードしている。
OSやアプリケーションは入れ直せば何とでもなるが、自分のデータは消えればそれでおしまい。

個人ならかけがえのない思い出の写真や、動画、音楽データや住所録。法人であれば顧客データや財務資料等消えれば即社会問題になりかねないものまで。いずれにせよ、HDDは寿命がくればデータは消えてしまうものなのでバックアップを取るしか自衛手段はない。
それでも、ある日突然、まだそんな時期ではないと思っていた時にPCが起動しないとなれば慌てて復旧業者に持ち込むのも自然な流れだろう。

PCに限らず、デジカメのSDやCF(コンパクトフラッシュ)、スマホのマイクロSDでも同じことだ。誰もが起こりうるストレージのトラブル。しかし、いつでも頻繁に起こるものではないので、無縁でいままで過ごしてきた方も多いはず。
もし、今この記事を見ているときにHDDが不調になって動かなくなってしまったら。
考えただけでも恐ろしいことではないだろうか。

何度も同じ経験がある記者はとりあえず、このメールを発信した会社を訪ねて話を聞くことにした。

訪ねたのは「Dr.データ復旧」というブランド名で展開している台湾の企業、DATA RECOVERY TECHNOLOGY株式会社の渡辺和彦さん。

--まず最初にお尋ねしたいのは、なぜ見積もり段階で悪徳だと言われたのですか?実際に料金を請求されたわけではないのだから、構わないのではないのですか?

「HDDは精密機器であるため、一定の温度・湿度を保つことが重要です。ですから高温多湿の夏場には相談件数が増加する傾向にあります。しかし、PCが壊れたからといってHDDが壊れているとは限りません。接続端子の接触不良、HDDの不安定状態等さまざまな可能性が考えられます。メールでの事例ですが、お客様は弊社に来られる前に、他社で初期診断を受けていました。診断レポートによると、磁気ヘッドと磁気プラッタともに破損が確認されており復旧難易度が高いため、復旧料金は13万円~となるとの内容でした。そこで事情をお伺いしたところ、継続通電による更なるダメージが考えられたため、直接HDDを開封し初期診断を行いました。その結果ですが、”HDDが開封された痕跡がない”、”磁気ヘッドは正常に動作する”、”磁気プラッタは無傷”という状態でした。従いまして物理的障害がないと判断し、HDDを組み立て直し、再度弊社の設備を使って何とかデータの読込みが出来ていました。ただ、不安定な状態でしたので、すぐにデータをバックアップしました。もちろん、故障ではないので、復旧料金等は一切発生しませんでした。この事例でお分かりの通り、何も調べていないにも関わらず高額な請求をして、それでも復旧できればいいのですができなくても技術料として請求されるのは納得できなかったのです」

--よくわかりました。では、御社の場合はどう対応されるのですか?結果的にデータを復旧させれば料金がかかり同じことではないでしょうか?

「弊社ではまず健康診断というのを受けていただきます。HDDを製造する同じ環境のクリーンルームでHDDを開封し、30分で初期診断をします。HDDに物理的な故障がなければそのままバックアップを取って、希望であればお客様がご用意されたHDD等にデータを移して終わりです。料金はいただきません。もし、初期診断で故障が発生していれば状態を確認して見積もりを出します。そして実際にデータの復旧作業を開始しますが、もし復旧させたデータをこの場でご覧いただいて必要なファイルが見つからなければ作業後でも料金はいただきません。その判断はお客様にしていただきますので、安心して復旧作業をお任せいただいても大丈夫です。言葉で説明してもなかなかわかりにくいと思いますので、記者さんは動かなくなったPCや故障したHDDはお持ちではありませんか?実際にやってみましょう」

ということになった。
記者は前述のとおり、何度もHDDを飛ばしているので、壊れたPCは持っていてもすべてバックアップを取っているので、失ったデータはない。しかし、何でもやって見てみないと分からないので、デモンストレーションということで、不要な起動しないPCを提供することにし、後日改めて伺うこととした。

記者は昔、工人舎のSRという小型ノートPCを使用していたのだが、起動している状態でACアダプターを足に引っ掛けてしまい、机から落としてしまった。しばらくは何事もなく動いていたのだが、自己診断機能でエラーが出るようになり、ついには起動しなくなった。
もちろん、データのバックアップは取っていたので問題はない。このPCを取材用に提供した。
実際にデータ診断依頼書に記入し、写真のようにバラバラにされてしまった。

これが問題のHDDだ。今は手に入りにくい1.8インチの超小型HDD。

クリーンルームでの作業は依頼者はガラス越しに見ることができるが、HDDは個人情報の宝庫なので撮影は厳禁だ。今回は特にお願いして撮影許可をいただいた。しかし、クリーンルームに入ることは万が一のことを考えて許可されなかった。当然のセキュリティだろう。

これがクリーンルームだ。HDD製造工場と同じレベルの認証を受けている。

記者のHDDを診断すべく、技術部主任の呂銘章さんがエアシャワーを浴びてクリーンルームに入った。

ようやく入室した呂さんは手際よくHDDを開封し始めた。

ものの数分で開封作業は終わり、磁気プラッタがあらわになる。見た目にはピカピカだが故障はないのか?

呂さんは顕微鏡で磁気プラッタを調べ始めた。

その模様をモニターに映してもらったが、ゴミのようなものが見える。これは吹き飛ばせば済むのではないだろうか?

次いで磁気ヘッドの状態を顕微鏡で拡大する。

詳細な顕微鏡写真をクリーンルーム内の装置で撮影したものを提供してもらった。
きれいな「土星の輪」が見える。終わった。これではもうデータは読めないだろう。肉眼では見えない傷がきれいに付いている。
作成してもらった診断結果レポートには、「磁気ヘッドクラッシュ」、「磁気プラッタに重度のスクラッチ傷」、「必要日数2日」と書かれていた。

記者はバックアップを持っているので、データは必要ないのだが取材用に見積書を出してもらったのがこの写真。
料金は12万円で税込み129,600円となっていた。
この料金が高いか安いかは、復旧されたデータの価値によるだろう。
永遠に失われたと思い込んでいた思い出の写真がよみがえれば、高いと思わないかもしれない。
欲しいデータがピンポイントで復旧できなくても、経費として技術料は請求されるのが普通だろう。
しかし、この会社は違った。

データ復旧をどこまでできるのか実践させてほしいということだったので、これを了承して続けてもらうことにした。
この時点で料金は提示されるが払う必要はない。復旧されたデータの入った別のHDDから、この場にあるPCでデータを依頼者が確認して、必要なデータが無ければその時点で依頼を終了して構わない。もちろん料金は発生しない。

渡辺さんに聞いた。
--なぜ、ここまで無料でされるのですか?どう考えても労力が無駄に終わることもあると思うのですがいかがですか?

「そうですね。ビジネス的な観点から言いますと、東京に進出して間もないのですが、台湾ではこの分野ではトップ企業です。ですから知っていただきたいという思いがあります。それにHDDは消耗品ですから、今回の健康診断で問題がなくてもいつかは寿命が来ます。その時に弊社を訪ねていただける可能性は高いと思います。お客様にしても一度診断をしているHDDなので、どういう状態だったのかが弊社ならわかりますので安心して依頼していただけると思うのです。そして、最大の理由は最初のメールの話に戻りますが、診断だけで何もしていないのに高額な料金を請求するということが納得できないからなのです」


記者のHDDから復旧されたデータを見せてもらったのだが、1500あまりのファイルが見事に取り出されていた。まるでタイムカプセルにでも入っていたかのように。この写真は在りし日のこのPCを記者がスマホで撮影した画像なのだが、取り出されたデータに含まれていた。

同社では、容量による料金の区分はない。あくまでも物理的な破損具合によって料金が決まるので256MBでも3TBでも同じ。またデータ復旧後7日間は同社でバックアップを取っていて、依頼者の方で万が一復旧させたデータを紛失しても無償で再度バックアップを提供するという。

最後にストレージデバイスを扱う上での注意点を呂さんに聞いた。中国語での説明だったので渡辺さんの通訳によるものを記者が書き起こしたものである。写真はUSBメモリーを分解したもの。

「まず、HDDよりもフラッシュメモリーの方が復旧難易度は高いです。これはUSBメモリーでもSDでもSSDでも同じです。HDDでもそうですが、こまめにバックアップを複数に取ってください。そして、病気と同じで早期発見、早期治療が復旧成功率も高く、料金も安く済みます。その際には絶対に通電しないでください。たいてい損傷がひどくなります。HDDはそれでも読み書きが遅くなったり、異音がしたりと前兆の症状が出るのでわかりやすいのですが、フラッシュメモリーは突然ですからわかりません。フラッシュメモリーはデータが読めなくなっても”フォーマットしてください”という警告が出る段階では復旧の可能性はありますが、認識さえしなくなれば無理なケースが多いです」

健康診断は無料なので、異常がなくても一度見てもらうといいだろう。
諦めていたHDDやメモリーカードを持ち込んで相談してみる価値はある。
あなたにとっては計り知れない価値のあるデータなのだから。

※写真はすべて記者撮影
 取材協力 Dr.データ復旧

―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 古川 智規) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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