「国会議員は役人をいじめてないでちゃんと仕事を」パフォーマンスにすらなっていなかった規制仕分け
行政刷新会議が主催し3月6日と7日の2日間にわたって開催された「規制仕分け」が低調に終わってしまったのは何故か。規制問題に詳しく、ガジェット通信でもたびたびご登場いただいている政策工房の原英史さんに「規制仕分けを通して感じたこと」などをざっくばらんにお話していただきました。(取材日時:2011年3月7日17時)
●登場人物
原=原英史さん(政策工房)
ふかみん=深水英一郎(ききて、ガジェット通信)
原さんプロフィール:
原英史(はらえいじ) 1966年東京生まれ。東京大学法学部卒、米シカゴロースクール修了。89年通商産業省入省、07年から安倍晋三、福田康夫内閣で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月に退官後「政策工房」を設立。政策コンサルティングをスタート。近著に『官僚のレトリック』(新潮社) 10年10月、国際情報誌『SAPIO』にて連載開始。
●問題の入り口から先へ進めなかった「規制仕分け」
ふかみん:規制仕分け全体を通して、原さんはどうお感じになられましたか。
原:結論をちゃんと出せてないと思います。なんでこのような形の「規制仕分け」になったのかがわかりません。これだけ多くの人を集めて議論するわけですから、論点を整理した上で緩和するべき点や具体的な解決策までつっこんでお話できたはずなんですが。「問題があることはわかりました」「調査しておいてください」程度の話で終わってしまっていました。でもね、問題があることなんて、最初からわかってテーマを設定してるわけですよね。ずっと問題の入り口のところを議論しているという印象でした。
●「仕分け」は役人いじめのための場か?
原:仕分けって、事業仕分けのときの延長ということもあって「役人いじめをするための会」という意識がいまだにあるんですよね。
仕分けをする人達がそういう意識でいる。リチウムイオン電池の安全性が向上しているので規制を緩和しようという話があったんですが、これはやや専門的な話なわけです。しかし、仕分けする側の人達は、「海外の制度がどうなっているのか把握しているんですか?」などときくわけです。役人の方は「常にそういうことをしているわけではないんですが、一生懸命調べているんです」と答える。すると仕分けする側が「なにやってるんですか!」と怒ったりするわけです。日本の規制なんて星の数ほどあって、それらを定期的にすべて外国と比較するとしたら日本政府の役人は現在の数倍必要なんじゃないですか?
ホントにそんなことやりたいんですか? と問いたいですね。結局そういう意味のない役人いじめに走っちゃってる。
●そもそもおかしな規制があるのは誰の責任なの?
仕分けをしている人達は、そもそもおかしな規制があるのは誰のせいなのかという点について、きちんと理解できていないと思います。規制を決めて、それを存在させている本当の責任者は「国会議員」なんですよ。「国会」なんです。
国民の権利に制限を加える規制は、基本的に法律に根拠がないとできません。実際は省令や通達など、役人が決める細かいルールがありますが、根っこのところには必ず「法律」があります。だから、変な規制があるとしたら、それは国会議員の責任なんです。
ふかみん:法律をつくるのは本来国会議員さんの仕事ですからね。
原:なので、国会議員が変な規制がなされないような法律の書き方をちゃんとしておけばいいだけの話なんですよね。それなのに、法律をつくる仕事まで全部役所に丸投げしてしまって、細かい規則が決められてしまっている部分はあまりチェックもせずに放置していたわけです。そしていざこういう場を設定すると「なにやってるんですか!」と言って怒っている。私にいわせてもらえるのであれば「誰の責任なんだかわかってますか?」と問いたいですね。
ふかみん:議員さんは本来すべき仕事をせずに法律づくりを役人に丸投げしていた、ということがここで露呈してしまった、とうことですね。
原:話題になっていた医薬品のインターネット販売の問題もまさにそのようなもので、法律の中に、厚生労働省令で細かいルールを決められますよ、というすごく漠然とした条文があって、それを根拠に厚生労働省の人達がルールを付け加えることができるようになっているわけです。
ふかみん:コンピューターの世界でいうと、セキュリティーホールや侵入のための裏口が意図的に仕込んであるようなものですね。
原:今回の仕分けの結果を受けて「役所で検討」ということになっているんですけど、これ自体がそもそも間違っています。本当の問題はこんなに大事なことを法律で決めていないことなんです。法律では決めずに、勝手に省令で決めてしまっている。これが問題なんです。
私がもし仕分けをするんだったら、「こういうことを省令で決めていることが間違いです、国会で議論してください」と言うと思います。
ふかみん:議員さんが役人さんに投げつけたブーメランが自分に当たっちゃった感じですね。
原:国会で決める、というのは民主主義の原則です。それを「役人がちゃんとやってないのがけしからん、もっとちゃんと役所で検討しろ」と丸投げしているって事そのものが間違っていますね。
ふかみん:国会議員は役人いじめてないで、ちゃんと仕事しろ、ってことですか。
原:そうですね。
●テーマ選定について
ふかみん:テーマ選定についてはどうお感じになりましたか?
原:今回は、2日間で12テーマだったんですけれども、なんでこの12テーマだったのかっていうのが全然わからないですね日本にはいろんな規制があって、小泉改革の時にも規制改革というのは重要テーマで結構やったりしましたけど、やってやってもなかなか変えられない規制ってのは沢山ありました。例えば農業、教育、医療の分野などが典型的な領域なんですけれども。今回は残っている大所の規制に本気で取り組むという態度が見えない。
どっからかこの12のテーマがでてきたんだけれども、これがなんでそんなに重要なの? っていうのがわからないものが多い。
ふかみん:もっと他に採り上げるべきテーマはあった?
原:例えば、農業ということで言ったら、昔からの大きな課題というのが、株式会社でも農業をやりやすくすべきなのではないかという問題。あるいは農地制度の問題。農協改革。などなど、大きなテーマが積み残しになっている。今回一応農業もテーマとしてあるということだけれども、野菜工場の話だったり、酪農の競争力強化の話だったりですが、どうせやるんなら本丸に斬り込んで欲しいと思います。
ふかみん:あえて難しいテーマは避けたということでしょうか?
原:そうだと思います。そういう難しいテーマがなぜ進まないかというと、結局そこに「しがらみ」や「既得権」があるからなんです。既得権を持っている人達にとっては、今の制度の方がいいってことですね。そっちの方が都合いいし、そういう人達の利益になっている。そこに「変えようよ、変えたほうが国のため、みんなのためになるよね」という話をしても、一部の既得権益のためになかなか話が進まない。
ふかみん:「しがらみ」を断ち切ろう、ということろまで踏み込めてないんですね。
原:本当に「しがらみ」があって、「しがらみ」を断ち切らないと進まないような、大変だけど乗り越えれば大きな効果が望めるようなテーマが今回ないんですね。課題から逃げてしまっている。
ふかみん:仕分けができたような気分になれそうな「小物」のテーマをあらかじめ選んでしまっている。
原:事前テーマ選定をみた時点でそういうことなのかなと思ったのですが、実際に「規制仕分け」を見に行ったら、もっとがっかりしちゃった。だって結論すら出さないんですよ。今朝(3月7日)の新聞なんかを見ても出ている、医薬品のインターネット販売の問題。あの話なんかは、見直しがこの規制仕分けによって大いに進むようなことも書かれていますが、仕分けの結果というのは結局役所に「検討しなさい」と言っているだけなんですね。役所に「検討」せよといっても、本当にまともな「検討」が進むのかどうかは甚だ疑問です。「検討」が非公開の国民の目の届かないところでなされるとすれば、な
おさらです。
ふかみん:とすると、規制仕分け自体に、原さんは意味を見出せなかった?
原:これは事業仕分けの時からずっとそうなんですけど、仕分けには議論を公開することによって、多くの人達に「こんな論点があるんだ」ということを知ってもらい、国民全体で議論をしていきましょうよ、という意味もあるんだと思います。
ふかみん:テーマを見てピンとこないのは自分が素人だからなんじゃないかと思っていたのですが、原さんの目からみてもわかりづらいというのであれば、多数あると言われる規制に関する論点の中からのテーマ選定自体がおかしかったとも言えるのではないでしょうか。
原:その分野の専門家にとっては大事な話ではありますが、少なくとも、普通の人が見て関心を持てるようなテーマはほとんどなかった。その点は残念ですね。
ふかみん:本日はありがとうございました。
2011年規制仕分け総括(政策工房 原英史さん)
原英史さんTwitter
政策工房メールマガジン
撮影・動画編集:東京放送部ソーシャル大チーム
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