住民投票を盛り上げる3要素(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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全国で相次ぐ住民投票。5月に行われた大阪都構想の住民投票は多くの注目を集め、投票率は直近の国政選挙や地方選を大きく上回った。一方、関心が高まらず、開票すらされなかった例もある。有権者を引き付ける住民投票、有権者不在の住民投票の違いとは。

「都構想」に市民が高い関心
大阪都構想の住民投票では大阪市の有権者210万人のうち、140万人超が投票。投票率は66.8%に達した。この数字は昨年末に行われた衆院選の57.4%(小選挙区)、今年4月の市議選の48.6%を上回り、投票率の低い都市部としては異例の高さとなった。

関心が高まった最大の理由は、テーマが大阪市を解体し、5つの特別区に再編するという都市制度の抜本改革だったこと。投票には法的拘束力があり、賛成票が一票でも多ければ都構想が実現、反対票が多ければ白紙に戻るという重要な投票だった。

しかも、マスコミの世論調査では「接戦」との予測が出ており、自分の一票が勝敗を左右するかもしれない、そんな緊張感もあった。

マスコミやインターネットでは有識者から一般市民まで、あらゆる論者が都構想のメリットやデメリットについて熱心に議論。大阪市が事前に開いたタウンミーティングにも連日、多くの市民が駆け付け、橋下徹大阪市長らの説明に耳を傾けた。

賛成派を率いる橋下市長や大阪維新の会、反対派の急先鋒に立った自民党や共産党の「アピール合戦」が熱を帯びたのも関心を高めた要因の一つ。住民投票は一般の選挙と異なり「選挙運動」の規制が緩く、テレビでは連日、コマーシャルが流れ、街中には賛否双方のチラシやポスターが溢れかえった。

大通りではひっきりなしに街宣車が大音量を鳴らしながら走り、主要な交差点では賛否両派の議員や運動員が道行く市民に呼びかけた。普段は投票に行かない無党派層も、否が応でも関心を持たざるを得ない状況だった。

最近、盛り上がった住民投票といえば、英国スコットランドの独立運動が思い浮かぶ。昨年9月に実施された、スコットランドが英国から独立するか否かを決める住民投票。賛否両派の論戦は過熱し、スコットランドだけでなく全世界の注目が集まった。

結果は賛成44.7%、反対55.3%で英国残留が決まったが、投票率は84.6%に達した。今年5月の英国総選挙の投票率が66.1%だったことと比較しても、独立の是非を問うた住民投票への関心の高さがうかがい知れる。

日本国内では名古屋市の河村たかし市長が主導し、自らの政策に反発する市議会の解散を目指した2011年の住民投票、埼玉県北本市でJR新駅建設の是非を問うた住民投票などで多くの有権者が投票所に足を運び、通常の選挙より高い投票率となった。

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開票すらされなかった住民投票も
もちろん成功例ばかりではない。2013年に東京都小平市で道路建設計画の見直しを巡って実施された住民投票は投票率が35.2%にとどまり、規定の50%に届かなかったため「不成立」に。住民の投票用紙は開票もされないまま、破棄されることとなった。

今年2月に埼玉県所沢市で行われた小中学校へのエアコン設置を巡る住民投票も投票率は31.5%にとどまった。結果はエアコン設置に「賛成」とする票が上回ったが、市の条例で「結果の重みをしん酌しなければならない」とした基準(賛成、反対のいずれかが有権者の3分の1に達した場合)には届かなかった。

今年5月に愛知県新城市で行われた新庁舎建設を巡る住民投票は投票率が5割を超えたが、直近の市議選に比べると約15ポイント低かった。

明暗を分ける3要素
これらの事例を踏まえて分析すると、有権者の関心を決める最大の要因は、投票にかけられたテーマの中身自体といえる。過去にも米軍基地や原発の建設など、わかりやすくて大きなテーマの住民投票は総じて投票率が高かった。

逆に争点がわかりにくかったり、テーマが矮小だったりすると有権者の足投票所から遠ざかりがち。投票の実施には多額のコストがかかるため「そこまでして住民に問うべきなのか」と冷めた目で見る有権者も増える。「本来は選挙で決めるべきだ」という意見もあるだろう。

二つ目は投票結果の「拘束力」の問題だ。住民投票の大半は議会の解散や首長の解任を決めるもの、もしくは特定のテーマについて住民の意見を求めるもののどちらか。前者は法的拘束力を持つが、後者は拘束力がないため諮問的な位置づけとなる。

後者の場合は投票結果が即、現実の政策に結びつかない可能性があり、住民の「他人事」ととらえやすい。ちなみに大阪市の場合は国政政党に呼びかけて特別法を制定してもらい、法的拘束力のある住民投票を実現させた。

三つ目は政治家の関与だ。名古屋市では河村市長と自民党など既成政党が激しく対立し、双方とも住民に自らの正当性をアピール。大阪でも推進派の維新の会、反対派の自民党や共産党双方が所属議員総出で街角に繰り出し、市民の取り込みを図った。 スコットランドの独立運動でも地域政党であるスコットランド民族党が主導的な役割を果たし、その後の総選挙で支持を急速に伸ばした。政治に不慣れな一般市民が主導するより、言葉巧みで影響力の大きい政治家が中心となった方が関心も高まりやすいといえる。

茨城県つくば市が運動公園の基本計画を巡って今年8月に住民投票を実施するなど、住民投票は今後も全国で相次ぐとみられる。三重県松阪市では市長と対立する市議会の解散を問う住民投票を目指し、リコールの署名集めが始まっている。

民主主義の手段の一つとして住民投票をうまく活用できるかどうかは、今後の地方自治にとって重要な課題。憲法改正の国民投票が現実味を増す国政も、またしかりである。

(地方議会ニュース解説委員 山本洋一)

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