第34回 『魔鬼雨』

第34回 『魔鬼雨』

 今回は、梅雨シーズンにピッタリの作品『魔鬼雨』を紹介しよう。「まきう? 魔鬼雨参上!」……違う! これは暴走族のチーム名でも未公開映画のビデオ邦題でもなく、れっきとした劇場公開作品の題名だ。

私が高2だった1976年の夏休み明け、変わった題名も手伝ってか、「恐怖の雨が人間を溶かす!」というキャッチコピーの映画がクラスで話題になっていた。そして各紙の広告欄や映画館で配布されるチラシには、「雨に打たれた人々は、両眼から緑色の液体をほとばしらせ、ドロドロに溶けていく」「ラストの20分間、画面にくり広げられる余りにショッキングな光景に、果たしてあなたは目を塞がずにいられるだろうか?」と、最大の見せ場がネタバレに近い露出度で喧伝されていたのだ。

舞台はアメリカの郊外。300年前、悪魔崇拝者だったプレストン家の先祖は、教団から悪魔聖書を盗み出し、教団は弾圧され首領は火あぶりとなる。そして現代、首領の子孫コービスは裏切り者への復讐と聖書奪還のため、プレストン家の主を殺し夫人を拉致する。その息子マークは教団の本拠地に単身で殴り込むが、母親もろとも教団に両目を奪われ、悪魔教の信者にされてしまう。

マーク役の、いかにもヒーロー然としたウィリアム・シャトナーは、『スタートレック』シリーズのエンタープライズ号初代艦長「カーク船長」としてお馴染み。そしてコービス役は、そのギョロ目を一目見たら一生忘れない名バイプレーヤーのアーネスト・ボーグナイン。サム・ペキンパーの最高傑作『ワイルドバンチ』(69年)、豪華客船沈没パニック映画の草分け『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)など様々な分野の作品で、主人公を食った存在感を示している。また最低映画を決めるゴールデンラズベリー賞の第2回で、『エルム街の悪夢』で有名なウェス・クレイヴンの日本未公開作『インキュバス 死霊の祝福』(81年)の演技が最低助演男優賞に選ばれたことも、ある意味勲章だ。

さて、主人公のマークが倒れ「この先どうなるのか?」と思いきや、実はマークには大学で超能力を研究しているトムという兄がいた(中盤でやっと出てくる真の主人公)。しかも妻のジュリーは霊視能力を持つ超能力者。家族が行方不明になったことを知るトムとジュリーは(トムとジェリーか!)教団の本拠地へ。トム役は『エイリアン』(79年)のノストロモ号船長役のトム・スケリット。奇しくも、有名SF作品の船長同士が兄弟だ。トムは砂漠で行われているサバトに潜入する。コービスが呪文を唱えると「ボーン!」と煙が上がり、羊の角を生やした魔王サタンに変身(ボーグナインの扮装)。ボーグナイン一世一代の特殊メークだが、個性が強すぎて「怪人ヒツジ男」にしか見えない(笑)。

そして母親と弟だけに止まらず、妻まで教団に捉えられたトムは、大学のリチャーズ博士を伴いリベンジに挑む。トムと博士は、教会の祭壇の床下から羊の角を模した装飾の壺を発見する。奇妙なことに、壺の中心にはテレビモニターのようなものがあり、中で大勢の人々が雨に打たれ、喘ぎ苦しんでいる様子が映し出されている。この壺が、300年間に渡りコービスが人間の魂を詰め込んできた「魔鬼雨」と呼ばれるものだった。

この後、トムと教団が壺の取り合いとなり、博士の必死な説得に応じたマークが、壺を床に叩き付けて木端微塵にする。すると天井にボコッと大穴が開き、雨が教会内に降り注ぎ、雨に打たれた信者らが苦しみ出し、ドロドロとロウソクのように溶け始める。マークも母親もボーグナインのギョロ目サタンも、どこにいるかわからんが、この作品がデビューのジョン・トラボルタも溶けていく。『猿の惑星』の特殊メーキャップを担当したエリス・バーマンとトム・バーマンが作り上げた壮絶な地獄絵図だ。確かにここは、アナログ特撮が主流の当時としてはショッキングかも。あっ、サタンのギョロ目が1個だけ落ちそうで落ちない(笑)。力尽きたサタンは壺のあった床下に転落し、なぜか「ドッカーン!」と爆発、教会は燃え落ちる。最後にヒッシと抱き合うトムとジュリー。だがジュリーの顔はギョロ目オヤジに変わっていた(イヤなオチ)。

 この映画は、全米では当時の歴代最高ヒット作『ジョーズ』に次ぐ興行収入を記録したというが、日本ではブームに至らなかった。日米の反応の違いは、悪魔に対する宗教観の相違からか? というのも、この作品のテクニカル・アドバイザーを務めたのは、1966年にサンフランシスコで悪魔教会(The Church of Satan)を創立したアントン・ラヴェイ司祭長。まさにリアル・サタニスト映画。全米が注目したわけだ。

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