【 Trip to 90’s 】 サム★サフィ( 1992 )

サム★サフィ

日々の生活に疲れたという方必見、日仏合作「サム★サフィ(1992)」を紹介したい。
筆者もこの映画を初めてみたその頃、人生における最悪の時期で自分自身にモヤモヤを募らせ、他人にもイライラしまくりの毎日を送っていた。そして出会ったのが本作だ。

自由すぎる主人公 エヴァ

スペインでストリッパーをしながら、根なし草のような生活をしているエヴァ(オーレ・アッテカ)。母親も自宅の家具を差し押さえられるという極限状態でアートの中に生きる人間。
エヴァはとうとう今の状況に嫌気がさしはじめ、ストリップ小屋のお金を持ち逃げし飛び出してしまう。彼氏と街を歩きながらふと「普通に生きる人」が気になりだし、普通に働いてお給料をもらいながら生活する決心をする。

普通に生活する……9時から5時まで働いて毎月お給料をもらい、稼いだお金で買い物しその食材で料理し……人が寝る時間に寝て、日が昇れば起きる生活のこと。
ストリッパーやグルーピーで生活して来たエヴァにとっては、これが“普通の生活”だ。
大部分の人がその“普通の生活”を生きているから、それに憧れるという女の子を驚異の目で見てしまうだろう。

「普通の生活は、私にとってエキゾチックなの。」

(エヴァ)

これ、なかなか名言。
エヴァはゲイの画家 ピーターの家に転がりこみ、仕事が見つかるまでお世話になる。掃除機をかけることにすら新鮮さをおぼえ、楽しそうに掃除する彼女の姿が微笑ましい。
食器を洗うのに洗剤を間違えてオリーブオイルで洗ってしまったり……とにかく笑える。
そして、失敗しても前だけを向いていられる彼女が羨ましくもある。

エキセントリックな主人公…だけど学べることがいっぱい

サム★サフィ

そんな彼女にもとうとう念願の仕事が見つかる。ゲイのカップルの家で家政婦をすることになり、クレームの手紙を書き続ける偏屈なオヤジとも仲良くなり、小さいながらも一歩踏み出しはじめる。
手作りの料理はお世辞にも上手とはいえないけれど、オジサン達に喜んでもらえるエヴァ。
確かに「世の中こんなにうまくいくかー」とも思ってしまうのだ。
しかしエヴァを見ていると、彼女なりの処世術に気づく。

常に前しか見ていない、やりたいこと目指して一直線

いかなる状況でも愉しむ

他人に優しい

電話や役所の窓口などでも“一歩譲る”会話

エヴァの姿を見て思うことは、仕事の面接で高校中退という学歴を臆せずハキハキと告げる。自然な毅然さぶり、偏屈じゃないところがいい……常に何にでも前向きに挑戦していく。
これ、筆者にとって一番羨ましいところである。
見知らぬ人にも優しいので、そこから思いがけない繋がりが生まれたりもする。
このたぐいまれなコミュニケーション能力に、自分自身気付いていない彼女がまたおもしろい。

「他者に依存しながら生きたくないの」(エヴァ)

「人生は依存のゲームだから面白いんだ、依存しなくなる時、それは死ぬ時だ」
(ピーター)

劇中のこのやりとり、ハッとする部分だ……ユニークでおしゃれで軽快な映画だが、学ぶところが多い。
幸運は、前向きな人の後ろについてくる!

衣装はヒロミチナカノが協力。ファッションも学ぶべし!

オレンジのビニールっぽい四角の端切れを黒いビニールテープを貼ってスカートにしたり、黒いスケスケ・シースルーを赤いブラの上にサラッと自然に着たり。
うーん、大胆!
役場に勤めはじめたら地味なくすんだブルーのスーツを購入するも、スニーカーを履くことでひと味違う着こなし。ファッショナブルで真っすぐなエヴァの生き方は、女性の共感を呼ぶこと間違いなし。
劇中にネナ・チェリーの音楽が使われているのも、筆者にとって「ややっ!いい趣味してるな」という感じだった。

映画のタイトル「Sam Suffit」はフランス語で、日本語に直すと「もう、うんざり!」という意味だそう。
ありきたりな毎日にうんざりという人、心が少し疲れている時など、この作品は“一服の清涼剤”となるだろう。
エヴァを演じるオーレ・アッテカの巨乳にもついつい目がいってしまう……。
監督は、「エリザとエリック(1988)」 「ガーターベルトの夜(1990)」などのヴィルジニー・テヴネ。衣装や美術にこだわった彼女の映画は、アーティスティックで20年以上経た今見るからこそ新鮮だ。

余談だが、筆者宅の猫(プロフ画像)の名前はこの映画から名付けたものだ。

画像掲載元:
http://www.premiere.fr/Cinema/Photos-film/Photos-acteur/Sam-Suffit-1513353
(『プレミア』フランス ウェブサイト)

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