【歴史マニアの女医コラム】雷に撃たれた武将! 死ななかったけど脚が不自由になった理由とは
こんにちは! 歴史好き女医の馬渕まりです。専門は代謝内科。脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病が得意分野です。
大友家に仕えた九州の猛将・立花道雪さん。例によって道雪さんがどんなすごい武将だったかは割愛で、彼が「若いころ雷に打たれて左足が不自由になった」という伝承に斬り込んでまいります。まずは彼の伝説から確認してみましょう。
・大木の下に居てはいけませんって!
「道雪が故郷の藤北で炎天下の日、大木の下で涼んで昼寝をしていたが、その時に急な夕立で雷が落ちかかった。枕元に立てかけていた千鳥の太刀を抜き合わせ、雷を斬って涼んでいたところを飛び退いた。これより以降、道雪の左足は不具になったが、勇力に勝っていたので、常の者・達者な人より優れていた。さて千鳥の太刀だが、雷に当たった印があった。これより千鳥を雷切と号するようになった」(引用: ウィキペディア)。
大木の下で昼寝をしていた道雪さんに落雷――。このエピソードは必ず道雪の愛刀・雷切と一緒に語られますね。今回はまず、医学的ではなく科学的なツッコミから進めてみたいと思います。
落雷の恐れがあるときに大木の下に居てはいけません! 雷はどこにでも落ちる可能性がありますが、近くに高いものがあるとこれを通って落ちる傾向があります。気象庁のホームページにも、「高い木の近くは危険ですから、最低でも木の全ての幹、枝、葉から2m以上は離れてください」と書いてあります。
道雪さん、木の下で昼寝をしている場合では無いですよ。また、落雷の恐れがあるときに通電しやすい長いものを持つのも危険です! 落雷には、【直撃】と【側撃】という2つの落ち方があります。木に雷が直撃した場合、電流は木を伝わって地面に流れますが、より伝わりやすい性質のものが近くにあればそちらにも流れるのです。
そして、雷による事故の殆どは【側撃】によるものなのです。高い木などから離れる必要があるのはこの側撃を避けるため。道雪さん、も、も、もしかして千鳥の太刀を持っていたのが雷に打たれた原因でないの?
・黒焦げになっちゃうワケではありません
さてここからが本題、雷に打たれたらどうなるか?」のお話です。そもそも雷に打たれたらどうして死ぬのでしょうか? 黒こげになっちゃうから? 実は雷による電流は一瞬で流れ終わるため、一般的な感電にくらべ火傷は軽度であることがほとんど。死因の多くは「心室細動」なのであります。
ご存じの通り、心臓は血液を送るポンプの役目を持っています。心臓の筋肉が足並みをそろえて働かないと、きちんと血液を送り出すことができません。そのため、心臓には電気信号を出す場所があり、それが伝導路を伝わり心筋細胞の動きを統率します。
落雷を受けるとこの信号が乱れ、「心室の心筋の興奮が無秩序になる」(心室細動)場合があります。心室細動になると、心室全体としての均一な収縮がなく、心室からの血液を送り出せなくなるため意識は消失、数分以内に正常調律に戻らない場合、死に至ります。雷に打たれた場合の死亡率は10~30%といわれています(ただし日本は死亡率が高く70%)。
・稀に電撃麻痺が永続することがあり
続いて、道雪の左足の後遺症について考察したいと思います。なお、私が『雷に打たれた人を診察したことがない』点はご了承ください。雷が直撃するとまず死にます。なので、状況からして道雪も側撃であったと推測。雷に打たれて助かった場合、後遺症が残らない場合も多いそうです。
しかし、脳がダメージを受けたり神経が損傷する場合もあるとのこと。左足の後遺症として考えられるのが電撃麻痺の永続でしょう。落雷を受けた後、両脚が一時的に麻痺して青白くなり、感覚を失うことがよくあります(雷撃麻痺)。これは交感神経が不安定になることで起き、通常は数時間で治るものの、稀に症状が永続する場合もあるようです。私的には、この電撃麻痺が原因だと思っております。
・35歳で雷に撃たれて57歳で誾千代が誕生って!?
他にも「落雷による神経損傷」や「落雷の衝撃で吹っ飛ばされて左足に外傷」、あるいは「鎧などの金属部分まわりの火傷」などが考えられます。足が不自由になった道雪さんですがその後も騎馬に乗って戦ったり(しかも強い)、晩年は輿に乗り戦場に出向いていたそうです。ほんと凄い♪
ちなみに道雪さん、35歳の時に雷に打たれたとのことですが、57歳の時に娘の誾千代さんが生まれております。さすがタフな御仁。
https://youtu.be/Jf9xzyTbh5M
執筆: 武将ジャパン
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