チップって本当に必要なの? ~はずむべきはお金か気持ちか
郷に入っては郷に従え、ということわざがあります。例えば海外旅行をした際は、現地の習慣にならうのが旅の醍醐味(だいごみ)のひとつ。意外な文化の違いに驚いたりして、それがまた印象的だったりして。
個人的には初めて海外に行くことになったとき、「お店でチップを払う」行為に憧れや戸惑いがありました。アメリカはカリフォルニア州にあるストックトンという街でしたが、「どういうサービスを受けたとき?」「どれくらい払ったらいいの?」「直接ウェイターさんに手渡したらいいの?」「それともテーブルにさりげなく置いておくのがスタンダード?」などと、渡航前に思いを巡らせたものです。
チップ文化が今、揺らいでいる
ところが実際に日本の外に飛び出してみると、チップ文化が形骸化していることに気付かされます。というのも、支払う金額にあらかじめチップ代が含まれていることが少なくないのです(レシートにはTIPやGratuityと記載されています)。自分で金額を手書きで申告できる場合もありますが、お店によっては「15%、18%、20%の中から選べ」みたいな選択式になっているときもあります。「取っておきたまえ」とか何とか言いながら、ドル札を気前よく何枚か握らせる、みたいなシーン全然なし。
15%のチップ代が精算時に含まれている場合のレシート
チップ代を手書きする場合のレシート(15%くらいを自己申告)
これ、ちょっとヘンじゃないですか。良いサービスを受けたお礼に、自発的に払うのがチップじゃなかったんですか。払うというか、はずむものじゃなかったんですか。チップをいくら払うとか、そもそも払うかどうかは客側の気持ち次第であるはずで、まるでチップを払うことが義務であり強制でもあるようなレシートを突きつけられると、もやもやとした気分になってきます。ありがとうの気持ちを込める、貨幣を通じたコミュニケーションでもある素晴らしいチップ文化がお店の売上アップのための口実に利用されているのだとしたら、少々がっかりです。
気持ち良く応対してくれたウェイター本人に手渡したいのに、お店全体で強制徴収される形になるのも気になります。これについてはウェイターだけでなく厨房(ちゅうぼう)の中にいるスタッフにも等しくチップが行き渡るように、という店側の配慮でもあるようですが、それなら初めから料理の原価に組み込んでおけばいい話にも思えてきます。
チップの本質に立ち返ろう
そう感じているのは何も私だけではないようで、現地の方々からも「これはおかしい」という声が聞かれるようになってきているそうです。「そんなことならもう、チップを無くせばいいじゃない」と。もちろん低賃金で働いているウェイターの大事な収入源という側面はありますが、そもそも低賃金で働かせているお店側に問題があるわけですし、「チップ文化にかこつけて客に余分なお金を支払わせる悪習はもうやめにしないか」というわけですね。
そこでチップ文化に馴染み(なじみ)のない日本人の私は思いました。本来はありがとうを伝える文化なわけだから、お金はともかく「気持ちをはずむ」という本来の意義に立ち返るべきじゃないか。貨幣に気持ちを乗せなくとも、思いを直接伝える方法はあるんじゃないか、と。そうして思いつきで商品化してしまったのが「KIMO TIP」です。気持ちのチップ、名付けてキモチップ。
これは「美味しゅうございました」「ご馳走(ごちそう)様でした」「有難うございました」といった言葉が印字された小切手風のメモです。自由に書ける文字なしバージョンもあります。これを渡せば、すんなり気持ちが伝わるのではないでしょうか。しかも声で伝えるよりも手元に形として残るので、受け手にとっては「次も頑張ろう」と励みになり、サービスがさらに向上する好循環も期待できます。
そうそう、渡す方もなんだかドキドキするんですよね。個人的にも日頃から使っているのですが、お店を後にするときにコースターの下にこっそり忍ばせておくんです。ちゃんと気づいてくれたかなと思って、お店の外から店員さんの様子をうかがってみたりして。「これ何だろう、お客さんの忘れ物かな」と思いきや、自分宛の感謝の気持ちが書かれてあって、思わず口元がほころんでしまう店員さんを何人も見てきました。うれしいと思ってもらえたなら本望ですし、何よりこちらも渡せてうれしいんですよね。これこそがチップの原点じゃないでしょうか。
この「KIMO TIP」を発売して以来、「普段から紙ナプキンに”美味しかったです”と書いてテーブルに置いていたから、こういう商品があったらいいなと思ってました」「これが日本の新しい文化になれば良いですね」といった声をよく耳にします。私も海外から良いものを取り入れ独自にアレンジするのが得意な日本人の端くれですから、今すぐにでも「日本発の新文化」として海外に”逆輸出”したい気持ちでいっぱいです。
さっそくニューヨーク在住の友人伝いで、現地の意見をうかがいました。
「素晴らしい! 日本人の心遣いはやっぱり素敵だわ。旅行とか、ちょっとメッセージを残したい時にも便利ね。アメリカよりヨーロッパの人の方がウケるかも」(スイス出身の女性)
「日本なら使うチャンスはたくさんあるわね。だけどアメリカは、良いサービスはお金で買う文化だから、チップをはずんだ上で添えるなら喜ばれるかもね」(ニューヨーク育ちのアメリカ人女性)
「朝、夫や彼氏の枕元に残すのがいいわね。”It was really good”って(笑)」(ブラジル出身の女性)
最後はまさかの下ネタでしたが、なるほど海外でも受け入れられる余地はありそうです。特にニューヨークで顕著だという「サービスをお金で買う文化」には理解を示しつつ、さらに気持ちを添えてもいいんじゃない?という提案は、案外悪くないかもしれません。まずは2020年に開催される東京オリンピックの時にまでに「日本の新文化」だと誇れるよう、今から定着させていきたいですね。
気持ちは1億ドル(お釣りは要らないよ)
最後に余談ですが、ロンドン在住の方にこんな話を聞きました。
「ロンドンでもチップに疑問の声があるんです。同じように何パーセントかのチップ代が上乗せされていて。でもあくまでサービス料なので、断ることもできるんですよ。サービスが良くなかったなと思えば、無理に支払うことはないんです。あまり波風を立てたくない日本人には心理的にハードルが高いかもしれませんが、金額に見合わないと思えば、言ってみたらいいんです。私もそうして払わなかったことがありましたよ」
当たり前だと思われてきた常識が、実は本質からずれているのに習慣として根付いてしまって、なんだかそのままになっている。そんな事例に私達はしばしば直面します。でも社会を1ミリでもより良くしようと思うなら、「ちょっと違うんじゃない?」と勇気を出して主張することが大事かもしれませんね。
皆さんはチップについて、どんな意見をお持ちですか?
気持ちをはずむ言葉のチップ「KIMO TIP」はこちらのページで買えます。
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