「教育ブラックバイト」に見る大学生アルバイト講師の功罪
「教育ブラックバイト」の被害が増加
塾講師や家庭教師として働く大学生の間で、残業代が出なかったり、休めなかったりする「教育ブラックバイト」の被害が増えています。飲食店などに比べて高めの時給に魅力を感じて応募したものの、授業の準備や報告書作成の時間は時給に含まれず、拘束時間全体として考えると割に合わないケースや、学校の試験やゼミの実験、レポートなどで忙しい時でも、休みを自由に取らせてもらえないところがあると報じられています。
銀行で法人営業を担当してさまざまな企業と取引をした経験がありますが、学習塾業界は相対的にコンプライアンス意識が低いと感じます。10年前に京都で前科がありながら採用された大学生アルバイト講師が、小6生徒を殺害した事件がありましたが、こんな極端な事例でなくとも、一般常識からすると首を傾げざるを得ないようなことが平気で横行しています。
学生アルバイト講師なしでは経営が成り立たない
例えば、生徒のプライバシーを全く無視し、堂々と個人名と顔写真を出した「○君△高校合格!」という広告や、「○中学△名合格!」と合格者数を水増しした誇大広告など、一般社会では考えられないことがごく普通にまかり通っているのです。
しかしながら、フランチャイズ展開で急拡大してきたマンツーマン指導を標榜する個別塾では、学生アルバイト講師なしでは経営が成り立たないのも事実です。集団塾では、一人の先生が同時に何十人もの生徒に同じテキストを使って同じ授業をしていれば済みますが、マンツーマン指導では運営システム上、人海戦術に頼らざるを得ず、コストの安い学生を使って人件費を抑えることが教室運営の鍵なのです。これが、学生アルバイトに依存する最大の理由です。
塾側の都合で担当講師が頻繁に変わる
ところが、大学生は学校の試験やゼミ、サークル活動、コンパなどで常に忙しく、夕方から夜間のアルバイトなど平気でドタキャンすることは日常茶飯事です。そうした状況を見越して、常に100名以上の大学生講師をプールして、授業に穴が開かないよう毎日人繰りをすることが重要だと豪語する塾長もいる位です。
しかし、生徒の立場からすれば、塾側の都合で担当講師が頻繁に変わることは望ましいことではありません。本来、学校教育では手が行き届かない細かい点を生徒のニーズに合わせて補完することが学習塾の主な役割のはずです。
社会経験に乏しい大学生に学習塾の講師が本当に務まるのか
そのためには、ある程度時間をかけて、一人ひとりの学力や集中力・持久力は言うまでもなく、性格や趣味、将来の目標から当日の体調まで正確に把握して、それぞれの生徒に最適な教材や学習法を状況に応じて的確にアドバイスする必要があります。
それを、日替わりの学生アルバイト講師に期待するのは無理でしょう。この一点だけを考えても、学生アルバイト講師を「随時」募集している学習塾はお勧めできません。学習塾といえども教育業界の端くれに位置するのですから、試験で高得点を取るテクニックを教えるだけでなく、大人として社会の常識を示すことも重要です。
生徒の将来目標を聞いてそこに至る道筋を示し、今の勉強がどのように役立つのか具体的な経験に基づいて助言することもあります。時には、保護者に対して諫言することさえ必要です。そう考えれば、社会経験に乏しい大学生に学習塾の講師が本当に務まるのか、大きな疑問を持たざるを得ません。
(小松 健司/個別指導塾塾長)
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