「こどものきもち」 Vol.2 渡辺俊美(TOKYO No.1 SOULSET)

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悩みがなかった子どもの頃に戻りたい」なんて台詞をよく聞くけれど、子ども時代にも悩みはもちろんあったのを大人になって忘れているだけだと思う。小さいながらにプライドも心配かけたくないという想いもあって、誰にも相談できないこともあるかもしれない。子どもに笑顔で過ごしてもらうにはどうしたらいいのか。全6回にわたり、子どもを持つ親であるクリエイターに登場してもらい、日頃どんな風に子どもと接しているか、親子関係で大切にしていることなどを語ってもらう本連載。第2回目にはミュージシャン、渡辺俊美が登場。TOKYO No.1 SOULSETのシンガー、ギタリストとして、ソロやプロデューサー、ファッションブランド「DOARAT」のディレクターなど多岐に渡る活動を繰り広げながら、著書『 461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』で 息子のために作り続けたお弁当とエピソードを紹介。“食”で繋がる親子の関係を描いた渡辺に改めて話を聞いた。

 

——『 461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』を読んで、息子さんと本当にいい関係を築かれているなあと思いました。はじめから積極的に育児されていたんですか。

渡辺俊美「息子が産まれたのはもう20年も前なんだけど、当時はできちゃった結婚というのもあり、子どもをもつということに対して素人でしたから、どれが正解なんだろうって思いながらやってましたね。親になる人は、みんなそうだと思うけど。それでも自分では、子煩悩だったと思います。保育園の送り迎えもしたし、小学校はPTAの活動を積極的にやって、小学校4年のときは“オヤジの会”っていうのを作って。小学校の朝礼でギター持って歌ったりもしましたね」

——それはすごい! 

渡辺俊美「男の子は小学4年にもなると血気盛んで、だんだん悪いことも覚えてくるんで、オヤジが学校に来てるだけでちょっと違うんじゃないかと思って。そういえば先日、大学生になった息子の同級生たちが僕のイベントに遊びにきたんだけど、“あのときおもしろかったね”って話になって。“トーイのパパがきて、サンタの格好してさ”みたいな(笑)。ああ、子どもの記憶に残ってるんだなって思いました」

 

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——子育てをイベントにしちゃうのが俊美さんらしいですね。

渡辺俊美「そうそう、パーティにしちゃうっていうね(笑)。夜は仕事でいなかったりするけど、少なからず自分にできることは積極的にやったと思います。あと、うちはゲームやってもOKだったので、友だちがよく遊びにきましたね。それでずーっとゲームやってるから、『今日天気いいぞ、外行ってこーい』って声かけたり。意外とよく叱っていたような気もします。挨拶がなかったら、もういちど玄関から入れなおしたりとか。一方で、ごはんやおやつは作ったりしていたので、ただのうるさいオヤジではなかったように思います」

——子どもができて、ごはんの内容は変わりました?

渡辺俊美「いや、やっぱり自分がうまいと思ったものを提供しますね。あと、息子と『美味しんぼ』や『ザ・シェフ』を一緒に読んで、食に興味をもたせるっていうことをしました。僕は食べることが好きだから、早く一緒に外食したかったんですよね。コミュニケーションのツールとして、マンガとか共有できるものがあると会話が生まれるからいいと思う。いまなら『孤独のグルメ』とか、いろいろあるしね」

——親子で一緒に遊んでる感じがいいですね。

渡辺俊美「それは僕じゃなくて、息子が親に順応してくれたっていうのが大きいですね。僕は普通の職業ではないし、どうしても不規則な生活になっちゃうけど、“普通の親は……”とか思わないでいてくれた息子に感謝です」

——子育てするうえで心がけたことはありますか? 

渡辺俊美「そうだなあ……やっぱり、離婚するときに息子が僕についてきた一番の理由は、食べ物だと思うなあ。『パパの作ったものはおいしい』って子どもが信用してくれてるんだと思います。食育は大事ですね。親が『今日はこれだよ』って出して、子どもは出されたものを全部食べる。『これは何入れたの?』とか、そんな会話は日々してますね」

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——食を通して、自然と会話がつながっていくんですね。

渡辺俊美「そう。今は食事中のスマホが問題になってるけど、うちの子は食べるときは食べる。たまに録画したダウンタウンの番組とかを一緒に観ながら食べることもあるけど、会話を楽しくするためのテレビはいいと思うんですよね。そうやって息子も、ふたりでごはんを楽しむっていうことを身体で覚えてるんだと思います」

——一緒に食事をしながら、「あれ、今日はなんかあったのかな?」みたいなときはどうしてますか。

渡辺俊美「そういうときは息子がやたらと話しかけてきますね。僕も息子に興味があるから、いつも真剣に話をしました。ひとつ、自分の中で『こうだ』と決めてやったことがあるんだけど、小学4年くらいのときに、息子にゲームを買ってあげたんです。息子はそのゲームを友だちに貸して、それを友だちがなくしちゃった。それで学校内でケンカになって相手を怪我させて、僕が呼び出されたんです。そこで息子は正論を言うんです、『せっかくパパに買ってもらったのに、コイツがなくしちゃったんだ』って。でも僕は息子を責めたんです。『そんなに大事なものをなんで貸したんだ、貸したおまえが悪い!』って。息子はビックリしてました、パパは絶対自分の味方をしてくれると思ってたから」

——そうですよね。

渡辺俊美「でも僕は、『なくしちゃったものは仕方ない、それで相手を責めるのはナシ。おまえが怒るのもわかるけど、根本的にはおまえが貸したからこそ起こった出来事なんだ』と、先生のいる前でものすごく怒ったんですよ。当然、息子は納得いかない。それで家に帰ってから、『パパは友だちに大金を貸したことがあるんだ』っていう話をしたんです。『よかれと思って貸したけど、そのお金は返ってこないし、友だちにも連絡がつかない。ほんとは友だちを責めたいけど、でも貸した自分が悪いんだって思ってる。そのときパパは苦しんだから、おまえも本当に大事なものは人に貸しちゃだめだよ』って言いました」

——子どもをちゃんと大人の土俵に乗せたうえでの言葉ですね。

渡辺俊美「そうそう、子どもって成長したがると思うんです。だから対等に見てあげて、ダメなところはしっかり言う。そうすると、子どもも僕のダメなところを言ってくれるんですよね、『パパだってさあ』って泣きながら。そんなときは『ごめんな』って、何度も謝ったことがあります」

——親も間違いを認める……それが意外と難しいんですが(笑)。 

渡辺俊美「そうか(笑)、でもちゃんと謝ったほうがいいですよ。それと子どもがある程度大きくなったら、『中学を卒業したら、自分の道は全部自分で選べるよ』っていうことを、ざっくりでもいいので言ったほうがいいと思う。僕は息子が中3のときにそう話して、そのとき息子が『もう学校行かない』って言ったので、『いいよ』って言いました。自分で選んだことだから。『ただ、パパは高校時代めちゃめちゃ楽しかったから、行ったほうがいいよ』とは伝えましたけど、最終的には自分で決めさせた。そうやって自分で選択することを早めに覚えたほうが、真剣に考えるようになると思う。『パパは30過ぎまでだいたい人のせいにしてたけど、40近くになって、やっと間違いだって気づいたんだ』っていう話を息子にしました」

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——リアルな失敗談ですね。

渡辺俊美「そのほうがおもしろいですから。成功の話なんて他人でもおもしろくないから、親のなんてとんでもなくおもしろくないよ(笑)。結局、息子は翌年に高校に行って、その後大学に行くことも自分で選びました」

——“選択する力”を親が子どもにつけさせることはできるということですね。

渡辺俊美「そうです。あとは、『こっちの道がいいよ』って子どもに興味をもたせて導くことはできると思うんです。たとえば美大に行かせたいなら一緒に美術館に行くとか、音楽好きだったらライヴを観に行ったりとか」

——それは親も楽しめますよね。

渡辺俊美「絶対楽しいですよ。親だって100点じゃないから、いろんなことをお互い話しあえたらいいですよね」

——子育てがクリエイティヴな制作に影響したことはありますか。

渡辺俊美「子どもは本当にエネルギーになりましたね。そういえばこの前、僕の弁当の本がドラマ化されるときに取材があって、その帰りに息子と焼き肉食べに行ったんです。そのとき息子に『パパ、僕を生んで失敗したとか、生まなきゃよかったとか思ったことある?』って質問されたんです。で、『ないよ、あるわけないじゃん。逆に離婚したり、ひとりぼっちにさせたり、悪いことばっかしてごめんな』って謝ったんです。それで帰ってから風呂に入ってたら、息子が後から入ってきた(笑)。本出してよかったなって改めて思った瞬間でしたね」

——そんなことがあったんですね。

渡辺俊美「やっぱり親は子どもを教育するというより、僕らが親としてつねに学んでいかないとダメだなって思います。今の時代に興味が持てなくなったら、子どもたちも親に相談することを諦めちゃうと思う。だから父ちゃん母ちゃんは輝いてないと。おしゃれして、うまいもの食って、そのために仕事して。それが一番健康的だよね」

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——つまり親も子も、お互い好きなことをやるのがいちばんってことですよね。

渡辺俊美「そうそう、そういうことです。そして子どもは、小さいうちは肌身離さず、次は手を離さず、そのあとは目を離さず、最後は心を離さずっていうふうにやれば、ハタチからは勝手に自由になります(笑)。それが親としての最高の楽しみだし、あとは楽園が待ってますよ」

——俊美さんは昨年から女の子のパパでもあるんですよね。 

渡辺俊美「いま八ヶ月です。ぷーちゃんって呼んでるんだけど、もう毎日ギューッとしてます(笑)。ギューッとしたときに、笑ってる感じが伝わってくるんだけど、抱っこしてるからその顔が見えない。そういうときは、その思いを歌詞に書いて、音楽にします。それが残すっていうことなんじゃないかな」

——今後のご予定は?

渡辺俊美「音楽活動としては、ライヴはいろいろやってるけど、そろそろアルバムを作る時間がほしいですね。あと、本も書きたいな。娘のこと、食に対すること、音楽をやって食べていくこと。最近は洋服も作り始めたので、創ることの意味を文にできたらなあって思います。心を動かすことをずっと続けたい。そして、ぷーちゃんを見守りたいと思います」

 

Save the Children「HEARプロジェクト」

http://www.savechildren.or.jp/hear/donation/

※  本記事は個人のインタビューによって構成されており、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの公式見解ではありません。

 

撮影 依田純子/photo  Junko Yoda

文 廿楽玲子/text  Reiko Tsuzura

 

渡辺俊美(TOKYO No.1 SOULSET)

1966年12月6日生まれ、福島県出身のアーティスト。1990年に結成したTOKYO No.1 SOUL SETのシンガー、ギターとして、1995年にメジャーデビューを果たす。その後、ソロユニットTHE ZOOT16も始動。2010年には、ともに福島県出身の松田晋二(THE BACK HORN)、山口隆(サンボマスター)、箭内道彦(風とロック)と猪苗代湖ズを結成する。2012年2月にTHE ZOOT16のベストアルバム「Z16」、ジャズ・コンピレーション「BRUSHING WORKS INTER PLAY -My Favorite Swings- selected by TOSHIMI WATANABE」、3月にTOKYO No.1 SOUL SETのアルバム「Grinding Sound」を発表。さらに6月に初のソロアルバム「としみはとしみ」をリリースした。様々なプロジェクトと同時に、川村カオリ、ジャズボーカリストakiko、土岐麻子、2BACKKA、サイプレス上野とロベルト吉野など、楽曲提供・プロデュースや、テレビ東京ドラマ「週間真木よう子」の音楽担当、映画『モテキ』の企画CDへの楽曲提供など、幅広い音楽活動を行う。ファッションブランド「DOARAT」ディレクターとしても活躍。

http://www.watanabetoshimi.com

http://www.doarat.net

TOKYO No.1 SOUL SET http://www.t1ss.net

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都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

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