CHILLY GONZALES『Chambers』インタビュー

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_DSC2698 © 2015 Alexandre Isard

iPadのCM曲“Never Stop”や、近年の評価を決定づけた『Solo Piano』シリーズ。さらには、コラボレーションで参加したダフト・パンクのアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』が昨年のグラミー賞で最優秀アルバム賞を獲得したことも記憶に新しいかもしれない。他にもボーイズ・ノイズとのオクターヴ・マインズ名義でのリリースなど、活動の場をますます広げる天才音楽家チリー・ゴンザレスの最新ソロ・アルバムとなるのが『チェンバース』。ハンブルグのストリングス・グループ、カイザー・カルテットとの交流を深める中でインスピレーションを得た今作は、いわば“ピアノと弦楽四重奏のための音楽”。溌剌として唄心に溢れたピアノのフレーズ。奥行き豊か広がるオーケストラルな音色や旋律には、ジャズやアンビエント、イージー・リスニングなど様々なスタイルに通じたゴンザレスならではの素養も窺えて興味深い。そんなリスナブルにして洗練を深めた今作についてメール・インタビューで聞いた。

 

―今回の最新アルバム『チェンバース』の制作にあたって、カイザー・カルテットから得たインスピレーションとはどのようなものだったのでしょうか?

チリー・ゴンザレス「彼らはもの凄く才能があって、リズム感も抜群だったし、ポップ・ミュージックの弦楽四重奏団になりたいという意欲にも溢れてた。それが僕の哲学である“時代の申し子”となることに、ぴったり嵌ったんだ」

 

―さまざまなジャンルの音楽に造詣が深いあなたですが、室内楽についてはどのような視点から魅力を感じていたのでしょうか?

チリー・ゴンザレス「室内楽団は、19世紀のロック・バンドなんだ。4つか5つの楽器が一緒に音を鳴らしてるっていう、ちょうど僕がティーンエイジャーだった頃と同じだよ。オーケストラは軍隊みたいなもので、指揮者が大将だ。でも弦楽四重奏団は、友達同士のグループがお喋りしてるのと同じなんだよ」

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―そうした室内楽の魅力、実際にカイザー・カルテットとの交流の中で得たインスピレーションを今作の制作に反映させる上で、最も重視した点、腐心した点とは?

チリー・ゴンザレス「この問いには答えられないな、自分で意識していることじゃないから。インスピレーションというのは、突然ふっと湧いてくる時があるんだ。でも全然インスピレーションが湧かなくて、とにかく必死にハードワークするだけという時もある。すると、何か魔法が起きたりするんだよ。最も重視しているのは、毎日音楽を作る、ってことだね」

―『チェンバース』は、室内楽やクラシック音楽の現代的解釈を意味する作品であると同時に、そうした音楽を知らないリスナーやこれからの世代に向けた入り口となる作品でもあると思います。啓蒙、というと言葉が大袈裟かもしれませんが、そうした過去と現在、さらに現在と未来を繋ぐような作品にしたい、みたいな意識はありますか?

チリー・ゴンザレス「そう願ってるよ。古い時代の音楽と現代の音楽とが、ほとんど何もかもを共有し合うということ、それが僕の音楽的構想には欠かせない要素なんだ。つまり、スタイルや時代の違いというのは、実際、些細なことで……大抵の音楽は同じ12音音階を用いているし、似たようなリズムを使っている。テクノロジーは変化するものだし、文化も変化する。だけど音楽は、僕らが思ってるほど変化しないんだ。「もし◯◯だったら?」という問いかけをしてみるのもいいだろ?――例えば「もし弦楽四重奏がラップ・サンプリングみたいに聴こえたら?」とか色々ね。

―若いリスナーに室内楽を扱った作品をレコメンドするとしたら、誰の作品を選びますか? その理由も併せて教えてください。

チリー・ゴンザレス「とくに室内楽を薦めてるってわけじゃないんだ。人は、自分がどういうものを求めているのか自分で調べて、自分の耳でそれを受け止めるべきだから。僕は、ガブリエル・フォーレの五重奏曲をたまたま好きになった。でもクラシック音楽に関して誰かに教えを授けようとしてるわけじゃないんだ、多分、音楽全般に関して言えることだろうけど」

――昨年には、初心者向けの練習曲を収めたピアノ楽譜集『Re-Introduction Etudes』を発表されましたが、その目的は? 

チリー・ゴンザレス「人々に、当事者として音楽の一部になってもらうためだよ。もう一度ピアノを弾きたいと僕に書き送ってくれた、すべての人のためさ。楽譜の読み書きは、僕と同世代の人の多くが過去に学んでいるけれど、大抵はほんの2、3年で辞めてしまっている。だからそのエチュードを書いていた時は、それくらいのレベルを念頭に置いていたんだ」

―今回の『チェンバース』や『Solo Piano』シリーズでチリー・ゴンザレスを知ったようなリスナーの中には、あなたが過去にエレクトロニックやヒップホップのスタイルの音楽をやっていたことなど想像がつかない、という向きもいるかもしれないですね。過去と現在のあなたの作品は、あくまで地続きの関係にあると言えるのか。それともどこかに変化へのターニング・ポイントがあったのか。

チリー・ゴンザレス「何も変化はないよ、ただ、時代を超越した音楽機器がさらにもっと新しい手法で使用されている、というだけのことだね。今作ではテクノロジーが駆使されているから、ターニング・ポイントらしき所はそこかしこに見え隠れしている。だけど何事も、ゆっくりと徐々に積み上げられていくものなんだ」

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―昨年のボーイズ・ノイズとのプロジェクト、オクターヴ・マインズで音楽的に追求したものとは?

チリー・ゴンザレス「ニュー・エイジのエレクトロニック・ロマンス」

―あなたの、音楽に対する“学び”の精神、音楽に対する知的好奇心の源泉は、どこにあるのでしょうか?

チリー・ゴンザレス「僕にとってはピアノの前が、長時間ひたすら没頭していられる場所だったんだ」

―昨年のグラミー賞では、あなたが参加したダフト・パンクのアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』が最優秀アルバム賞を受賞しました。そして今年はプリンスがグラミー賞のプレゼンターを務めた際に、大変印象的な言葉を残しています。「皆、“アルバム”ってやつを憶えているかい?」と。ダウンロードやストリーミングが普及し、あるいは楽曲単位で音楽が聴かれるような状況の今、アルバムというフォーマットやパッケージを通じて音楽を届けることについて、意識されたり大事にされたりしていることはありますか?

チリー・ゴンザレス「アルバムが好きな人達のために、トラック・リスティング(曲順)の決定にはものすごく労力を注いでいるし、1曲目から最後の曲までを通しで聴くという経験を強く意識しているよ。思うに、こういったタイプの音楽は、シングル重視のラップ系アルバムやメインストリームのポップ系アルバムより、丸ごと通しで聴くのに適しているんじゃないかな。『チェンバース』にはシングル曲はない。1曲1曲、どれもが対等なんだ。 だけど、この曲とあの曲って感じで、つまみ食いするのが好きな人達のために――僕自身、どちらかというとこっちのタイプなんだけど――その人なりの『チェンバース』ベスト曲集を作るのは大歓迎だよ。もしやってみたかったら、自分でリミックスを作ったり、ドラム・ビートを加えたりするのもいいんじゃないかな」

―音楽作りのスタイルは、聴き手側のスタイルの変化に合わせて変わっていかねばならないと思いますか? また、音楽スタイルも変化すべきものでしょうか?

チリー・ゴンザレス「そういうのって自然に起きることだよね。天才的なミュージシャンは、オーディエンスのことをよく研究・観察している。でもそれからオーディエンスを新たなものへと導くんだ――そしてオーディエンスは大抵それについて行き、そしてその天才に次のアイディアを提供してくれるんだよ」

―ところで、あなたのお兄さんであるクリストフ・ベックが、ディズニー映画『アナと雪の女王』のスコアを手掛けた人物だということを、つい先日知りました。今や誰もが知る大ヒット作品ですよね。あの状況をどう見ていましたか?

チリー・ゴンザレス「兄のことは、すごく誇りに思ってるよ。彼は『The Unspeakable Chilly Gonzales』のオーケストラ・アレンジも手掛けてくれたんだ。素晴らしい人だし、素晴らしいミュージシャンだよ」

―あなたが手掛ける映画音楽も、いつか聴けたら嬉しいです。この先、音楽的にチャレンジしてみたいことはありますか? 

チリー・ゴンザレス「まだ決めていないんだ」

文 天井潤之介/text  Junnosuke Amai

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CHILLY GONZALES『Chambers』

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