インターネットから始まる、新しい映画のつくり方 #1 書籍編

インターネットから始まる、新しい映画のつくり方 #1 書籍編

Photography by Kenichi Inagaki
映画をつくる」ということ。

かつては、素人の映画作家がプロの商業映画に敵う作品をつくることは、現実的に”不可能“でした。フィルムは値段が高いし、作品を発表する場所も限られていました。

しかし、そういった状況はここ10年でほぼ解消されたと言えます。制作システムのデジタル化、安価で高品質な撮影機材や編集ソフト、そしてYouTubeやVimeoといった動画プラットフォームの登場。

映画はインターネットの発展とともに、新たな可能性が生まれ始めています。まわりに仲間がいなくても、Twitterで集めればいい。映画をつくりたい、その思いだけで行動に移すことが可能な時代なのです。

今月からKAI-YOU編集部で記事を書いているスズキケンタです。現在、大学に通いながら、映画やPVなどの映像作品を監督しています。

ラブリーサマーちゃんと芳川よしの – Starlight (MusicVideo)

今回から、「新しい映画のつくり方(FILMMAKING UPDATE)」と題して、今までの自分の活動やノウハウを振り返り新たな映画制作法を紹介しつつ「映画づくりは日々アップデートされている」ことを検証していきたいと思います。

今回は、映画制作を学ぶ方法と、そのために僕にとって役立った書籍を紹介します。

つくること、で、わかること

映画をつくることが容易になった、とは言っても、それは単に「環境が整った」だけのこと。一番大切なのは、「あなたが何をつくり、何を相手に伝えるのか」です。作品の感じ方は人それぞれでも、その物語の内容を相手、つまり不特定多数の観客たちが理解できなければ、それは映画とは言えません。

なぜなら、映画はあなた個人のものではなく、人々のものだからです。映画は大衆娯楽として栄えたメディアであり、人々を笑わせ、感動させ、そしてより映画の中に巻き込むには、自分のつくりたい映画を正確に「デザイン」する能力が必要なのです。

僕の最初の作品は、高校一年生の頃、インターネットで知り合った友人たちとともにつくったものです。

脚本は、一度も会ったことのない岩手の友人にSkypeで話し合って決め、撮影と録音は名古屋に住む「機材オタク」な高校生たちに頼みました。

役者もネットで募集し、22分弱のその作品は夏休みの1日を使って撮影しました。インターネットを介して集まった僕らは、撮影初日が初対面。数ヶ月後、その作品はYouTubeに公開され、30,000回を超える再生回数と多くのコメントをもらいました(残念ながら元の動画はアカウントのハッキングによって削除されてしまいました)。

短編映画「声を大にして叫べ」

素人の高校生がつくった青臭い短編映画が、違う場所、違う時間に不特定多数の人間によって鑑賞され、たくさんの賞賛や批判のコメントが送られてくる。僕と岩手の少年が抱えていた日常の鬱憤が、ある1日の出来事(脚本)になり、演技され、撮影され、録音され、編集され、公開され、鑑賞され、僕らだけのものではなくなった。単なる動画とは違う、人に伝えるプロセスを踏んだ映像作品は、どんなものであろうと映画と呼べるのかもしれません。

しかし、知識も技術も表面的にしか身につけていない、いまにも不安で砕けてしまいそうな僕たちは徐々に「映画をつくること」の難しさに直面しました。自分たちの信じるままにつくる、直感的な映画づくりはとてもおもしろい。でも、その直感には「根拠」がなかった。

何をやっても「これは、果たして相手に伝わる映画なのだろうか」という問いが頭に浮かぶ。もし、知識や思考が豊富だったら、もっと良い(そのシーンに最適な)映像が撮れたのかもしれない。撮影だけでなく、脚本や編集も同じです。そういった後悔や不安が日々蓄積されていきました。

どんどん映画をつくって経験を積むことで「自分たちが持っていないもの」が明確に浮き上がってきたのです。だから誰でも最初は、それを知るためにも、まずはやってみることが大事だと思います。必要なことは、自ずとわかってくる。わかったら、それを学べばいいだけだと思います。

映画づくりのベースとなった4冊

では、どうやって学べばいいのか。とりあえず、僕はたくさん本を読んでみました。映画についての本やそれ以外の本、わけへだてなく読みました。そして今、それらの本が自分のベースになっていると感じる時があります。そこで得た知識が自分の行動にコネクトしてきたのです。

映画の基本は独学で学べると確信しました。今回は、自分が読んできた中で特に「読んでよかった」と思えたものを紹介したいと思います。

アカデミー賞を獲る脚本術

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脚本こそが映画の骨格です。その映画が伝えたいこと、やりたいことが、それにはすべて書かれています。”設計図”とも呼べるかもしれません。それがもろいと、作品自体の方向性があやふやになることもあります。スタッフやキャストと作品のイメージを共有するためにも、脚本は欠かせません。逆に言えば、脚本がうまくつくられていればいるほど、撮影以降の行程が楽になり、柔軟性を生み出す余地ができます。

一方で、”脚本がある”ということに疑問を抱いていた時期が自分にはありました。なんの設計図もない状態からの映画づくりもまた好きなのです。それは精神力が必要ですが、能動的にその場で生み出される映画は作品に新たな可能性を見出すものだと考えていました。

しかし、なにかを生み出す時、すでに設計図があれば、もっともっとそこから可能性を見出せるはずです。そして、「脚本術」というものは「大衆に向けた物語づくり」のベースであり、アカデミー賞はその頂点です。そこで用いられる脚本執筆術を身につけることで、自分の映画がもっとおもしろくなるはずだと思いました。

この本に書かれていることは、まさに「映画の基本構造」についてです。時間軸の構成方法や、登場人物の変化・成長について、また「きっかけのシーン」「行動のシーン」など、映画内で繰り広げられる各シーンについて、これでもかというほど詳しくわかりやすく書かれています。

デジタル・フィルムメイキング ─新しいプロフェッショナルとは何か

映画はだれでもつくれる、と確信できた一冊です。まさに「いま」の映画づくりについて、著者の経験を振り返りながら今後の映画の可能性をたくさん提案してくれています。

デジタルでしか撮影したことのない人間にとって「かつての映画づくり」を知ることはとても重要なことです。いまあるものだけがすべてではなく、いままでどのように映画というものが進化してきたのかが頭の中にあることによって、映画づくりはより有意義なものになるのではないでしょうか。

非道に生きる

映画監督・園子温さんの初の書籍です。この本に書かれているのは、脚本術でも、映画術でもありません。彼がいままで歩んできた道を辿りながら、彼自身の考える映画づくりの「思想」そして「姿勢」について書かれています。

決して映画監督として順風満帆な道のりを歩んできたわけではなく、それ以上に彼の経験そのものが「映画」というろ過装置を通して可視化/可聴化されているだけなのだと気付きました。だからこそ、園子温さんはエンターテイメントとして成立しながら、どこかバイオレンスで現実味を帯びた映画を作れるのだと思います。つまり、「映画を学ぶこと」よりも「あなたが何を経験したか」が大事なのです。スティーブン・スピルバーグさんはかつてインタビューでこう答えています。

物語に真実味を出すには、自分が経験したことに基づくものが必要だ。そして観客もそういうところに魅力を感じるだろうし、私もそう感じる。

『A.I.』“スティーブン・スピルバーグ監督”サテライト会見レポート! – UNZIP

あなたが日常でなにかを経験しなければ、映画はつくれません。逆に、あなたが生活の中で経験したことから、映画は生み出されます。映画のつくり方云々よりも先にやることがあるのだと気づかされる一冊です。

デザインの輪郭

上に紹介した書籍「非道に生きる」でも感じましたが、「映画」をつくる人が映画を観て学ぶことは当たり前です。それよりも、映画とは一見あまり関係のなさそうなところからなにかを学び、自身の映画づくりに「応用」することで、それが映画独自の「視点」となり、より興味深い作品を生み出すことが可能になります。取りかかる前からその確証があると、それだけで安心材料になったりもします。

auのケータイ「INFOBAR」シリーズや無印良品の「壁掛式CDプレイヤー」などを手がけるプロダクトデザイナーの深澤直人さんの書いたこの本には、私たちが普段考える「デザイン的なもの」とは全く違う視点でデザインについて書かれています。

「すべてのものにはデザインがある」と考えている彼のデザイン思想は、きっと映画制作にも応用できるはずです。「ひとが、ひとに、なにかを伝達する」ことがデザインの根本的な意義であるならば、それは映画も同じです。深澤さんのデザインについての考え方は独特でありながら、本質をついています。

例えば、手のひらを描きなさいっていわれたら、ほとんどの人がこの手のひらを描くと思うのですが、その外側の風景を描いても残ったかたちが手のひらになるということを人間はあまり考えないと思います。今おっしゃったことは、手のひらをよく知るために、その外側をよく見なさいというような感じがします。実は、この手のかたちがこの周りの背景によって成されているということで、それがないと、これが何であるかという、存在の認識ができないのではないかと思うのです。

深澤直人著「デザインの輪郭」(TOTO出版)より引用

映画の外側を見つめること。それは、自分たちの日常生活のほんの些細な出来事や、もしかしたら「数学」のような学問かもしれません。そういった要素が映画を形成しているのです。映画が日常生活にある限り、「映画」のみとして考えることはできません。すべては相互関係によって成り立っているのです。

以上の4冊が、僕自身が影響された書籍です。でも、これらはただの僕の興味でしかなく、実際にはこの記事を読んで、なおかつ映画をつくりたいと思っているあなた自身が自分の興味のある書籍を探し出して読んでみることが大事です。

今回は書籍を紹介しましたが、それ以外にも、映画の「外側」であなたの興味のあることは徹底的に掘り下げてみるべきです。たとえば、ゲームが好きならそれをとことんやってみるとか、グミが好きなら徹底的に全国のグミを揃えてみるとか…。

一見関係ないことが、いつか、あなたの映画やそれ以外の表現活動につながり、新しい作品や表現を生み出していくのだと思います。

つくる環境も、発表する環境も整いました。あとは実際にやるだけです。

「No, try not. Do. Or do not.(やってみるではない。やるか、やらぬかだ。)」

ヨーダ(スター・ウォーズ エピソード5 帝国の逆襲)

引用元

インターネットから始まる、新しい映画のつくり方 #1 書籍編

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