今週の永田町(2015.3.31~4.7)

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【税制改正4法案が成立】

 先週3月31日、2015年度の税制改正関連4法が参議院本会議で与党など賛成多数により可決・成立した。
*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 

所得税法等の一部を改正する法律では、企業の国際競争力向上などを図るとともに、減税により企業収益が増えた分を従業員の賃上げや税収増につなげるねらいから、法人税実効税率(34.62%、東京都の場合35.64%)を2年間で累計3.29%に引き下げることが柱となっている。また。2015年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを1年半延期して、2017年4月1日から行うこととし、消費税増税法の付則で定めている「景気判断条項」が削除されることとなった。

地方税法等の一部を改正する法律では、4月から個人住民税の還付加算金の算定方法を見直すほか、個人が故郷の自治体などに寄付すると減税が受けられる「ふるさと納税」における個人住民税特例控除の限度額を引き上げる(個人住民税所得割り額の2割)ととにも、手続きの簡素化が図られた。

 このほか、国から地方自治体に配られる地方交付税総額(2015年度は16.75兆円)を定める「地方交付税法等の一部を改正する法律」や、「関税法及び関税暫定措置法の一部を改正する法律」が成立した。

 

 年度内に成立しないと国民生活に影響が出る日切れ法案のうち、「在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律の一部を改正する法律案」は、参議院外交防衛委員会の片山委員長(自民党)が30日の理事懇談会に遅刻した問題で審議日程がずれ込んだため、年度内に成立することができなかった。

片山氏の委員長としての資質を問題視する野党側は、片山委員長の遅刻について「あまりに緊張感がない」「交代してもらいたい」と抗議していた。このため、片山委員長は、31日に開催された理事懇談会で「外務省から申し出のあった欧州連合欧州議会幹部との面会が長引いた。連絡ミスなどもあったが、切り上げられなかったのは私だ」と釈明したうえで、「責任を痛感している」と陳謝した。

野党側が片山委員長の謝罪をひとまず受け入れたことから、4月2日に外交防衛委員会を開催することが決まった。ただ、野党側は、片山委員長が十分に反省しているか疑問に残るとして、2日の外交防衛委員会でも厳しく質及した。

 

2015年度の本予算案については、衆議院の優越を定めた憲法規定により4月12日に本予算が自然成立するが、与党は、9日にも成立させたい考えだ。自民党は、2日の参議院予算委員会理事会で、9日の集中審議終了後に締めくくり質疑を行ったうえで採決を行うよう、野党側に提案した。参議院予算委員会で可決後、参議院本会議へ緊急上程し、即日中に可決・成立させたいとしている。民主党は、与党提案への回答を留保した。本予算案の採決日程をめぐって、引き続き与野党で協議していくこととなる。

 

 

【与野党対決法案を国会に提出】

 4月3日、政府は、通常国会の後半で与野党対決法案になるとみられている「労働基準法等の一部を改正する法律案」や「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案」などを、閣議決定のうえ通常国会に提出した。

 

労働基準法等の一部を改正する法律案には、柔軟な働き方を広げて労働生産性を高めるねらいから、高度プロフェッショナル制度創設や、実際の労働時間にかかわらず労使間であらかじめ合意した時間を労働時間とみなす企画業務型裁量労働制の対象を新商品開発・立案や課題解決型営業などにも拡大することが盛り込まれている。また、過労対策として、年5日の有給休暇の取得ができるよう企業に義務づけることも明記された。

労働時間ではなく仕事の成果に応じて賃金を決定する新たな労働制度「高度プロフェッショナル制度」は、労働時間規制の適用対象外とし、労働基準法で義務づけている深夜・休日勤務時の残業代や割増賃金の支払いも不要としている。対象者は、法案成立後に厚生労働省令で「年収1075万円以上」などと定め、金融商品の開発や市場分析、研究開発などの高度な専門職に限定される。省令改正で安易な対象拡大を防止する観点から、改正案では、年収要件を「平均給与額の3倍を相当程度上回る」と明記された。また、対象者が不利にならないよう、本人の同意がなければ適用できないとしており、適用にあたっては(1)年104日以上の休日の確保、(2)終業と始業の間に一定の休息の確保、(3)在社時間などに上限設定のいずれかの健康管理措置を講ずるよう企業に義務づけている。

 

 政府は、高度プロフェッショナル制度を成長戦略の目玉の一つとして位置付けており、通常国会での成立をめざしている。

しかし、民主党や共産党、社民党などは「労働強化につながりかねない」「働きすぎを助長し過労死につながりかねない」などと批判しており、改正案を「残業代ゼロ法案」と位置付ける。民主党は「残業代ゼロの阻止に全力を挙げる」との談話を3日に発表し、3月13日に政府が提出した労働者派遣法改正案とともに廃案に追い込むことをめざしている。

今後、審議入りや審議・採決日程をめぐって与野党の激しい攻防が繰りひろげられていくこととなりそうだ。

 

農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案は、全国農業協同組合中央会(JA全中)の中央会制度を廃止や地域農協の経営状態などを監査してきた監査・指導権限を撤廃し、法施行から3年半後にはJA全中を特別認可法人から一般社団法人に完全移行することなどを柱としている。JA全中の監査・指導権限の撤廃に伴い、JA全中の監査部門を分離・独立させたうえで新たな監査法人として設立するとともに、農協監査士が担ってきた監査業務を民間の公認会計士も行えるようになる。これにより、地域農協は、いずれかの監査法人を選択することになる。

全国約700の地域農協の自由な経営と試みを重視して、地域農協の理事は原則として過半数を認定農業者や農産物販売のプロとし、農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならないことが明記された。JA全中の下部組織である都道府県中央会は農協法にもとづく連合会に移行するが、地域農協への指導権限を持たない。農産物の集荷・販売を担う全国農業協同組合連合会などは、自主判断で組織変更できる規定を新設する。

このほか、農地売買などを許可する農業委員会の公選制を廃止して市町村長が議会の同意を得て任命する「農業委員会改革」や、企業参入を促進するために、農地を保有できる農業生産法人(農地所有適格法人)の企業出資比率の上限を現在の25%以下から50%未満に緩和することなども盛り込まれている。

 

 政府・与党は通常国会中に成立させたい考えだが、民主党や維新の党など野党は、安倍総理が主張するほどの大改革には値しない内容などと批判している。

 民主党は、3月26日、農家への戸別所得補償制度を復活させる「農業者戸別所得補償法案」と、ふるさと維持3法案(農地・水等共同活動促進法案、中山間地域農業生産活動継続促進法案、環境保全型農業促進法案)を衆議院に提出した。政府の改正案を「農業者の所得向上につながらず、組織いじりでJAグループに混乱とコスト増を生む的外れな愚策」などと批判しており、今後、農協改革関連法案の対案提出も検討するという。

 

 

【規制改革、社会保障関連法案も国会提出】

このほか、成長戦略の柱に位置付けられている「国家戦略特区法改正案」、年金・医療・介護の「社会保障関連3法案」も、3日の閣議で決定され、通常国会に提出された。与党は、通常国会中の成立をめざしている。

 

国家戦略特区法改正案は、昨年秋の臨時国会に提出したものの衆議院解散により廃案となっていたことから、追加の規制改革策を拡大して再提出することとなった。国家戦略特区は、「地方創生特区」に位置づけられた秋田県仙北市などを含め、9地域が指定されている。

改革案では、首都圏の待機児童問題の解消をめざして都市公園内の保育所設置の解禁や、公立学校の運営を民間委託する公設民営学校の容認、大病院と協定を結んでいない単独の診療所でも日本人の指導医を確保すれば外国人医師の勤務を可能にするほか、都道府県などの試験に受かれば約3年勤務できる地域限定保育士の資格創設、外国人起業家の在留資格緩和と起業手続きをまとめてできるワンストップセンターの設置、家事支援の会社に雇われた外国人に在留許可を容認などが盛り込まれている。

 

 社会保障関連法案は、「確定拠出年金法等の一部を改正する法律案」「医療法の一部を改正する法律案」「社会福祉法等の一部を改正する法律案」の3本が提出された。

年金制度関連法改正案は、国民年金の目減りに備え、企業年金などを拡充して老後の生活資金を補うねらいから、「個人型確定拠出年金」の対象者を自営業者らだけでなく、年金加入者なら誰でも入れるよう拡大した。

医療法改正案は、ばらつきのある病床の再編や職員の再配置など、地域の実情に応じた医療サービスの提供体制を構築するねらいから、同一地域にある複数の医療機関を一体的に運営できるよう異なる医療法人のグループ化し、「地域医療連携推進法人」として都道府県が地域ごとに認定する制度を創設するというものだ。

 社会福祉法改正案は、社会福祉法人が抱える内部留保から建物修繕費など事業継続に必要な財産を除いた余剰分を、地域貢献活動などに充てるよう義務付けている。

 

 

【献金規制のあり方、野党が協議へ】

国の補助金を受けた企業・団体からの政治献金のあり方について、14日、野党各党の国対委員長会談を開催する。

 

民主党は、政治資金規正法の改正を主張する他の野党と協議のうえ、政治資金規正法改正案を一本化して、来週にも衆議院に提出したい考えだ。ただ、企業・団体献金の全面禁止を主張する維新の党や共産党などと、将来的な全面禁止として法案化を進めると事実上の先送りをしている民主党とでは、主張の隔たりがある。このことから、民主党は「野党の最大公約数で与党に迫っていく」(枝野幹事長)と、補助金を受け取る企業・団体による献金規制の強化で野党間の意見集約を図り、民主党案への賛同を求めていきたい考えだ。

民主党案は、災害復旧や試験研究・調査などの補助金を受け取る企業・団体からの政治献金を例外的に認める規定について削除し、独立行政法人など国以外の団体を経由した補助金も規制対象にしたうえで、補助金を受けた企業・団体に1年間の献金禁止を国が通知するよう義務づけるとともに、政治家側にも企業・団体に補助金受給を確認する文書を出すことを義務づけている。違反者への罰金は、現行の「50万円以下」から「100万円以下」に引き上げる。

 

企業・団体献金を全面禁止する政治資金規正法改正案を2月に国会提出した維新の党や、政治資金パーティー券購入(実費分の徴収除く)も含め企業・団体献金を全面禁止とする法案を4月1日に提出した共産党は、民主党が打診した国対委員長会談には応じるものの、「対症療法でなく根本治療をしないと問題が続く」(維新の党の馬場国対委員長)、「抜け穴を残すべきでない」(共産党の志位委員長)などと民主党をけん制してもいる。このことから、民主党の思惑どおり進むかは、いまのところ不透明だ。

 

 

【政策・立法動向に注目を】

 本予算案の採決日程をめぐって与野党攻防が続いているが、本予算は今週中に成立する。通常国会の後半は、労働者派遣法改正案・労基法改正案、農業改革関連法案、5月中旬にも政府が国会に提出する予定の集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案などが主な焦点となる見通しだ。

 予算成立後の国会審議の行方を見極めるためにも、政府や与野党の政策立案・立法動向、各委員会での法案付託・審議入りをめぐる与野党の駆け引き状況を把握しておいたほうがいいだろう。
 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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