「自衛隊配備」の賛否問う住民投票、中学生参加の意義

「自衛隊配備」の賛否問う住民投票、中学生参加の意義

中学生40人にも投票権が与えられた

先月、日本最西端の島、与那国島で陸上自衛隊配備の賛否を問う住民投票が実施されました。賛成が反対を上回った開票結果を受け、自衛隊の誘致を主導してきた町長は政府の計画通りに環境整備を進めていく考えを改めて表明しました。今回の投票では、自衛隊の配備という島の将来を左右する事案であることを理由に、中学生40人にも投票権が与えられた点が注目されました。

自衛隊の誘致問題は、島の過疎化対策として有効だという賛成派住民と、有事に外国軍の標的になる可能性を危惧する反対派住民との間で長年にわたり島を二分する論争になっています。中学生にまで投票権を与えることについては、左翼勢力や外国政府に操られた反対派の陰謀だとして「大人の話に子どもを巻き込むな」といった意見もありました。

多様性を尊重することを学ばせる絶好の機会を放棄した

しかし、純粋に教育的見地からは、中学生にとって公民の教科書などを読むよりも、このような現実問題を題材にする方が遥かに実のある勉強ができたのではないかと思います。実際、今回のケースでは人口問題や安全保障、地方の財政など、幅広い観点から賛否を検討する必要がありました。NHKのニュースでも特集されていましたが、自主的にスマホで情報を調べたり両親や友人と話し合ったりと、真剣に考えてから投票所へ向かった中学生も多くいたようです。

ただ一つ惜しまれる点は、町や学校が不偏不党の原則にこだわるあまり、中学生にわかりやすく論点を整理して積極的に情報提供しなかったことです。公務員として立場を明らかにすることが憚(はばか)られたのであれば、せめて生徒同士が今回の件について議論する場を設けてほしかったと思います。公共の場で正々堂々と議論し、採決の後は立場を超えて結果を受け入れ、暴力に頼らず平和的に問題を解決するといった民主主義の原則を教える、すなわち異論を認め、多様性を尊重することを子どもたちに教える絶好の機会を放棄したのです。

主体的に考える習慣をつけることが望まれる

各地の学校現場で国歌斉唱や国旗掲揚が義務化され、従わない教員が処罰されています。個人的には子どもの頃から君が代を歌い、日の丸には起立して脱帽することに何の抵抗もありませんが、行政の考えを上から一方的に押し付けるやり方には賛成できません。

国歌斉唱・国旗掲揚がなぜ必要なのか、逆になぜそれに反対するのか、双方の意見を持つ教員同士を生徒たちの前で議論させ、生徒自身に是非を判断させれば良いのです。教師自らが自由闊達に意見を述べ合う姿を見せずに、生徒たちに自主性や積極性を求めるのは矛盾しています。

全国的に選挙における若者世代の投票率の低下が社会問題となっています。この状況を打開するためか選挙権が18歳に引き下げられるようですが、それだけですぐに若者の政治に対する関心を引き上げられるとは思えません。与那国島のケースほど重大でなくとも、例えば地域の自治会の集会に中・高校生も気軽に参加できるような仕組みにして、普段からさまざまな身近な問題に対してアンテナを張って主体的に考える習慣をつけることが望まれます。

(小松 健司/個別指導塾塾長)

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