反抗期の娘に「嫌がらせ弁当」親子問題解決のヒントが見える
反抗期の娘に「嫌がらせ弁当」。母と娘との無言の駆け引き
反抗期の娘に「そんなに生意気な態度を取るなら、こうしてやる」と思って始めた「嫌がらせ弁当」が話題になっています。もちろん「嫌がらせ」といっても、娘への間接的な愛情表現に違いありませんが、弁当にメッセージを込めるというのは母親ならではのアイデアといえます。
このお母さんは、毎朝5時半に起きてお弁当を作ったといいます。気の利いた言葉にユーモアあふれる盛り付けは、思春期を迎えた娘との無言の駆け引きだったのでしょう。眠い目をこすりながら笑いをかみしめて弁当箱のふたを閉める姿が目に浮かんでくるようです。
「依存」の伴わない「自立」は「孤立」でしかない
思春期の子どもに対してどう関われば良いのか親の悩みはつきません。幼い頃は足元にまとわりついていた子どもも、成長とともに離れていき、思春期を迎えると返事もしなくなって生意気な態度を取るようになります。そのこと自体は、子どもが自立していく過程として当然です。本当に親と子の関係が切れてしまうわけではありません。社会的に「自立」した人間になるためには、心の中に「困った時には人に助けてもらえる」という「安心感」が育っていることが必要です。「依存」の伴わない「自立」は「孤立」でしかないでしょう。心の中の親子の絆に支えられてこそ、「自立」できるのです。
しかし問題は、「自立と依存の狭間」でどう振る舞えば良いのか見通しがつかないために、親子の間で手探りの駆け引きを繰り広げざるを得ない点です。そのような駆け引きの見事な例としての「嫌がらせ弁当」から、思春期の子どもとの付き合い方について学べるヒントがあります。
ほど良い距離で、さりげなく関わる。冷静さに裏付けられた愛情で
まずは「ほど良い距離で、さりげない関わり」です。前の日、家で揉めたとしても、朝、学校に行き、昼になって初めて目にする弁当のメッセージは、昨日の出来事からほど良く離れた距離とタイミングです。思春期の子どもは、自分が子どもでも大人でもない微妙な存在であることに不安を感じています。そのため、目の前に大人が「権威」として立ちはだかると、安全な距離を保とうと離れていきます。親はしつこく迫るのではなく、つかず離れずの「ほど良い距離で、さりげない関わり」を心がけましょう。
次に「冷静さに裏付けられた愛情」です。「クールヘッドにウォームハート」という経済学者の名言がありますが、これは親子関係にも当てはまります。いらだつ気持ちを短い言葉やユニークな盛り付けに託す作業は、親にとっても気持ちを静めるセラピー効果があったことでしょう。気持ちを静め「クールヘッド」を保ち、「嫌がらせ」というジョークに昇華させた手作り弁当から、子どもは母親の「ウォームハート」を感じたのではないでしょうか。
親が忍耐強く待てば、子どもは花を咲かせ始める
最後に「忍耐強く待つ姿勢」です。子育ては植物を育てることに例えられます。植物が育つには、豊かな土壌と暖かい陽の光、そして水やりが必要です。しかし、どれだけ手を尽くしても、芽を出す「時」が来なければ芽吹くことはありません。思春期という長い冬の時を経て、春になり、親子の間に暖かいそよ風が吹き始めるまで、親は子どもを信じてじっと見守るしかないのです。3年間、毎日弁当を作り続けたことは大変だったでしょう。しかし、その忍耐強さこそ、娘に対する母親の愛情だったと思います。
この「嫌がらせ弁当」は出版されましたが、その最後のページには娘のメッセージが載せられています。それは「ママの料理は美味しいし、私はママの料理が大好きです。(中略)心の底から尊敬しています。ママのようになりたいと思っています」という感謝の言葉でした。この言葉こそ、母が待ち続けた言葉であり、娘が見事に春になって花を咲かせ始めた証拠ではないでしょうか。
(岸井 謙児/臨床心理士・スクールカウンセラー)
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