格差縮小の秘策?「貯蓄税」導入は現実的に可能?

格差縮小の秘策?「貯蓄税」導入は現実的に可能?

格差縮小のため「貯蓄税」で財産税が金融資産にまで拡大?

格差縮小に「貯蓄税」が有効という考え方があります。「貯蓄」は具体的には「預金」のことを差し、「貯蓄税」とは保有する預金残高に一定の税率を乗じて課す税金です。その目的は経済格差の縮小にあります。最近、テレビでも紹介され、注目を浴びています。

税金というのは、昔は人頭税、すなわち担税力に関係なく1人につき一定額の税金が課されていました。それが今日では課税対象も細分化し、所得や財産、消費などに課税されています。そもそも税金には、「国家を運営するための財源を確保する」という基本的な機能、つまり、市場経済では提供されない「国防や外交などのサービスを提供する」という他にも、「所得の再分配」や「経済政策を推進する」ということがあります。

国家を運営するための財源を広く浅く徴収するという意味では消費税が、所得の再配分では累進課税である所得税が、それぞれ優れているといえましょう。財産の所有にかかる税金としては、現行制度では、不動産については固定資産税が、車については自動車税があり、一般国民にとって財産税に馴染みがないわけではありません。「貯蓄税」の導入により、財産税が金融資産にまで拡大することになります。

「マイナンバー制度」実施が「貯蓄税」導入のハードルを下げる

さて、現行の制度では、累進課税である所得税の他に、亡くなった時の財産に応じて課税される相続税が、所得の再分配機能、つまりは格差是正に役立っています。「貯蓄税」も格差是正に役立つことが期待されています。また、税制は国の経済政策を推進するという役割もあります。貯蓄に対して課税するということは、格差是正の他に、「貯蓄をすると損」というメッセージを発信することになります。これは、投資や消費の促進を進めようという国の経済政策の流れと一致します。

「貯蓄税」を導入するためには、貯金の把握が問題となりますが、実務レベルでは、平成28年からはじまる「マイナンバー制度」の導入がハードルを引き下げるでしょう。というのも、「貯蓄税」を導入するためには、行政当局が各人もしくは世帯ごとに預金を名寄せして貯金の残高を把握する必要がありますが、マイナンバー制度が実施されれば、これが可能となるからです。

把握できない「タンス預金」。公平性の確保が重要な課題

もっとも、貯蓄があるといっても、その理由はさまざまでしょう。マイホームを建てるために一生懸命、貯蓄している人もいますし、退職して残りの人生の生活資金を退職金に頼っている人もいます。逆に、所得が高くても浪費癖のため貯蓄のない人もいるでしょう。個人で事業をしている人は、運転資金として借金をしたお金が通帳に入金されているだけかもしれません。同じ所得でも、銀行に貯金している人と「タンス預金」をしている人との公平性の問題もあります。富裕層であれば、国内の銀行を避けて、海外の銀行に貯金をするでしょう。

このような点を考えると、公平性をどのように確保するかが重要な課題となりそうです。仮に導入するのであれば、もっと真剣な議論が必要でしょう。

(西谷 俊広/公認会計士)

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