残業代定額制で「働かせ放題」の懸念は現実のものに?
「残業代ゼロ制度」導入とともに「裁量労働制」の見直しも
厚生労働省は13日、労働政策審議会を開き「労働法改正の報告書」を取りまとめました。この中には「残業代ゼロ制度」などと呼ばれ話題となっている「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入とともに、「裁量労働制の見直し」も盛り込まれています。
「裁量労働制」とは、デザイナーやコンサルタント、ソフトウェア開発者などの専門職に従事する人や、事業の運営に関する企画、立案などの業務を自らの裁量で遂行する労働者に限定して、実際の労働時間が何時間であろうと、労使協定で定めた時間を労働したものとみなす制度です。こういった職種に従事するものは、労働時間の長さではなく、労働の質や成果によって評価を行うべきという見解に基づき、1987年の労基法改正により導入されました。
つまり、成果さえ出していれば、一日3時間しか働かなくても8時間労働したのと同じだけの給料がもらえる一方、10時間労働しても8時間分の給料しかもらえないといったことが起こります。
政府の本当の狙いは、なし崩し的に対象者を拡大すること?
今回の見直しでは、この「専門職」の対象に一部の営業職が追加されることになります。具体的には「提案型営業」と呼ばれる職種で、顧客のニーズを個別に聞いてサービスや商品を提供する営業職と定義されていますが、線引きが曖昧です。店頭販売や飛び込み営業など以外は、すべて対象者になる可能性があります。
ネットや雑誌記事などでは、この見直し案について概ね否定的な意見で埋め尽くされています。その理由の多くが「人件費削減の口実にされる」「うつになったり、過労死する人が増える」「帰宅時間が遅くなり、家族と過ごす時間が減り、さらに少子化が進む」ということです。また、今はまだ対象者が限定されていますが、なし崩し的に拡大されていくのではないかと懸念している人も多くいるようです。実際、私もそうなると思いますし、政府の本当の狙いもそこにあるのではないでしょうか。
労働力の減少を補うために1人当たりの生産性を上げるしかない
しかし、政府が「ホワイトカラー・エグゼンプション」を含め、このような制度改革を進めるのには次のような理由があります。
現在、日本の労働時間は国際的に見ても長く、週49時間以上、働く人は全体の22%に及びます。一方、欧米諸国は10%強にとどまっており、1時間に生み出す価値を示す労働生産制が日本が40ドル程度なのに対し、米国やフランス、ドイツは60ドル、ノルウェーやルクセンブルクにいたっては80ドルと大きく水をあけられています。
さらに、急速に進む少子高齢化で、日本の労働人口は2030年までに、現在より約900万人減ると予想されています。労働力の減少を補うために、今より労働時間を増やすと、家庭がおろそかになり少子化にさらに拍車がかかったり、それこそうつになったり過労死する人が増える恐れがあります。そこで、もっとメリハリのきいた効率的な働き方を広げて、労働者1人当たりの生産性を上げるしかない、ということのようです。おそらく、ここに嘘偽りはないと思われます。
見直し案の骨子のままでは、ブラック企業に活力を与えるだけ
しかしながら、現在、検討されているような見直し案の骨子のままでは、危惧されているようにブラック企業に活力を与えるだけの制度に成り下がる危険性が大いにあります。「ザル制度」などと揶揄されても仕方がありません。
本当に上記のような崇高な理念の実現に向けてこの制度を導入するのであれば、週当たりの労働時間の上限を厳しく設けるなど、改悪とならないための審議をもっと徹底的に尽くしてほしいと思います。
(吉田 崇/社会保険労務士)
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