ピケティ論でわかる個人が資産運用に取り組む意義
資本収益率rは、経済成長率(国民所得の成長率)gよりも大きい
トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」が世界的なベストセラーになっています。値段の高い分厚い経済書であるにもかかわらず、日本でも13万部を突破した模様です。この本の最大の特徴は、世界20か国以上の納税当局の記録を過去200年以上にわたって収集・分析し、その膨大なデータに基づいて実証的に議論を行っていることです。これに加え、ベストセラーとなった大きな要因として、格差の拡大を実感し閉塞感を抱くワーカーが世界規模で存在していたということがあるのではないでしょうか。
この本の主張を単純化して要約すると、次のようになります。
・資本収益率rは、経済成長率(国民所得の成長率)gよりも大きい(r > g)。したがって、労働賃金を増やすよりも、資本を多く持ってその一部を再投資する方が富を増やしやすい。
・所得の上位層、富保有の上位層と、その他の層の格差は拡大を続けており、格差の拡大は相続によって増幅される。世界で協調して、資本に対して累進的な課税を行うことが解決策となりうる。
個人は資産運用を行い資産を増やしていくべき
これを個人の視点から考えると、ワーカーとして労働の対価を得るだけよりも、資本(株式、債券、不動産などあらゆる資本が対象)を蓄積して、そこからの収益を増やしていく方が、富を増やせるということになります。よって、資本を持たない者は、早く資本を持つようになるべきで、資本を持つ者もさらに資本を増やしていくべき、と結論づけられます。つまり、個人は資産運用を行い資産を増やしていくべきなのです。さもないと格差がどんどん拡大していきます。
私は、この本を最初に手に取ったとき、ロバート・キヨサキ氏の「金持ち父さん、貧乏父さん」シリーズを思い出しました。人の属性を収入源から従業員(E)、自営業者(S)、ビジネスオーナー(B)、投資家(I)の4つに分類し、BとIへの移行を勧めるものでした。つまり、経済学のデータや分析を待つまでもなく、「労働の対価として所得を得るのでなく、資本の対価を得られるようにゴールを定めて実行していきなさい」ということが、すでに当たり前のこととして語られていたのです。
資本の対価を得るには不動産購入が有効
では、どうすれば資本の対価を得られるようになるのでしょうか?手っ取り早いのは不動産を購入することです。ピケティの書でも、富の増加率が高い資産は、どの国においても不動産のようです。格差の下位の層から抜け出すには、借り入れして不動産を購入し、その収益で負債を返済しつつキャッシュフローを貯め再投資するという方法が有効です。ちなみに、不動産以外の資産では借り入れが難しいためにレバレッジを効かすことができず、資産はなかなか増えません。信用取引など一部の投資ではレバレッジが効きますが、価格の変動性が不動産よりも高くリスクが高いのが通常です。
また、すでに富裕の部類に入る人でも、キャッシュで不動産を購入し、そこからキャッシュフローを得つつ相続対策も同時に行って、さらに上部の層へ移行することが考えられます。
不動産投資で下位層から脱出することを正当化する理論とも言える
ここで、同じ不動産の購入でも、金持ちとそうでない人とで、すでにリスクに差が生じているのがわかります。後者であれば、借り入れしないと物件を買えませんので、常に借入金返済のリスクがつきまといます。一方、金持ちにはそのような心配がなく、かつ資金力があるので、優良な物件を購入しやすくなります。早く行動し上部の層へ移っていくことが、いかに重要であるかがわかります。
ピケティ論は、個人が不動産投資により格差の下位層から脱出を図ることを正当化する理論とも言えそうです。ただし、個々の投資タイミングや物件の選定次第で、失敗するケースも多いことは言うまでもありません。
(賀藤 浩徳/不動産投資アドバイザー・マネーアドバイザー)
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