農協「大改革」で日本の農業は発展する?
JA全中、農協改革案の受け入れを表明。監査権限の撤廃も
政府は9日、全国農業協同組合中央会(JA全中)の一般社団法人化を柱とする農協改革案をまとめました。JA全中は同日、改革案の受け入れを表明しています。改革法案では、JA全中の各地域農協に対する監査権限を撤廃することも盛り込んでいます。
今回の改革は地域農協の経営の自由度を高めて、農家の所得向上につなげることや、地方の活性化、農業の成長産業化を目的としています。JA全中の監査権限の撤廃により、かかる目的は達成されるのでしょうか。
全中から監査権を取り上げても、その効果には疑問
歴史を紐解けば、第二次世界大戦後の占領政策で、それまで大地主の所有していた農地が小作人に解放されることになりました。いわゆる「農地解放」です。それまで使用人であった小作人が一事業主として、農業に必要な機械や肥料を買ったり、農産物の販売ルートを確保したり、ノウハウを蓄積したりすることは大変なことであったため、組合を作って互いに助け合う仕組みをつくりました。これが「農業協同組合」です。
ここ数年で農協は合併が進んで広域化していますが、元々は小さな農協が各地域や各市町村単位で存在していました。それぞれがバラバラに活動していては、効率が悪く情報収集にも限界がありますので、各県に農協を取りまとめる組織があります。それが県の農協中央会であり、さらに全国を取りまとめる組織が、全国農業協同組合中央会(JA全中)です。
報道では、あたかも全中が革新的な農家の取り組みを阻害する「巨悪の根源」のようにいわれていますが、これは少々言い過ぎでしょう。全中から監査権を取り上げても、農家の所得向上や農業の成長産業化につながるかは疑問を持たざるを得ません。
財務の信頼性や透明性の確保が農業発展の答えになるかは未知数
そもそも「組合」というのは、株式会社のように資本家や投資家が資金を調達して、株主から委任を受けた経営者が事業を行う、といった性格の組織ではありません。JA全中が行っていた監査の受け皿として公認会計士監査が挙がっていますが、公認会計士監査が目的とするところは、経営者が株主や投資家に示す決算報告に「インチキ」がないかどうかを保証することにあります。公認会計士監査を導入すれば財務の信頼性や透明性は確保できますが、それが農家の所得向上や農業の成長産業化につながるというのは、考えが飛躍しているような感じがします。
オムロンやユニクロは鳴り物入りで農業に参入し、あっという間に撤退しました。オムロンは2年8か月、ユニクロにいたってはわずか1年半で撤退しています。このことは、自然を相手にする産業は、経済的合理性を追求してもうまくいかないことを如実に物語っているのではないでしょうか。機械や衣類は在庫を持てますが、食べ物は腐ってしまいます。機械や衣類は原材料さえ投入すれば工場で製造できますが、自然を相手にする農業では安定供給はままなりません。財務の信頼性や透明性はなんら関係がありません。
確かに、全中の指導が画一的という批判が当てはまる部分もありそうです。とはいえ、今回の改革が農家の所得向上、農業の成長戦略、ひいては日本の農業の発展の答えになるかどうかは未知数と言わざるを得ない印象です。
(西谷 俊広/公認会計士)
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