やけど治療に新風!3Dプリントで移植用の人工皮膚を量産
このところ、人々の注目を集めてきたテクノロジーといえば、3Dプリントが挙げられるだろう。専用プリンターの価格も下がり、一般ユーザーにとっても手が届く範囲になった。3Dプリントは今やバイオ化学や医療分野でも活用される技術となり、義足や義眼のほか、人体の一部を再現するようなことにも使われている。アメリカの軍隊でも、皮膚のやけどや傷を治療するために、3Dプリントの技術を取り入れる研究を進めているという。
「PrintAlive Bioprinter」はコンペで受賞
そんなバイオテクノロジーと3Dプリントに関わる研究を進めているのが、カナダのトロント大学に所属する学生Arianna McAllister氏、Lian Leng氏らのチームだ。彼らのチームが研究をしている「PrintAlive Bioprinter」は、非営利の研究サポート基金James Dyson Foundationが主催する、2014年度のJames Dyson Awards programで受賞し、3500ドルの賞金を授与された。
チームを悩ませる2つの課題
研究を進めるにあたり、チームでは2つの大きな課題にぶつかった。1つめは、皮膚には外側の“表皮”部分と、より深層部にある“真皮”の部分があり、これらはそれぞれ異なる細胞、細胞構造で構成されているという点だ。やけどをすると、皮膚はその両方の部分に損傷を負い、それぞれに適した治療が必要となる。迅速に傷をふさぐことが大事だが、皮膚が自力で再生することは難しいという。
2つめに、通常の3Dプリントの素材に用いられるのは固い物質が多く、1つの素材だけで成型するという点である。移植皮膚をつくるには、移植作業中にも性質を保てるような、よりフレキシブルで皮膚に似た素材を用意しなくてはならない。また、先述の皮膚の2層構造に対応するためには、異なる素材がどうしても必要になる。
移植皮膚用の特殊なプリンタカートリッジ構造
そこでチームでは、やけど治療の外科医Marc Jeschke氏らにさらなる協力をあおぐことにし、新しいプリンターカートリッジを開発。このカートリッジ内には、皮膚細胞で満たされた液体から成る、“微小な溝”のような部分がある。表皮と真皮の細胞は、異なる“溝”の中に、特殊な液体状態で保管されている。
プリントが実行されると、それぞれ別の“溝”内で保管されている液体状の人工細胞が、互いに反応をして凝固し、ジェル状に変化する。そして、凝固した異なる2層がそのまま出力され、人工皮膚として移植できるようになるというわけ。
今後は臨床実験へ
研究チームでは現在、ネズミで実験をおこなっているが、近いうちにより大きいサイズのブタで試験を開始するほか、2、3年以内には人体での臨床実験をスタートさせたい意向だという。
これまでは、やけどなどの皮膚治療のために医療の専門家が時間をかけて細胞を培養してきたところを、3Dプリントで量産できるようになることの意義はかなり大きいはずだ。
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