映画『くるみ割り人形』増田セバスチャン監督インタビュー(前) 「引き受ける時に運命だと思いました」 [オタ女]
P・チャイコフスキーのバレエ組曲をもとにサンリオが製作した人形アニメーションが、”極彩色ミュージカル・ファンタジー”と銘打ち3D映画として蘇った『くるみ割り人形』。監督を務めるのは、東京・原宿のショップ6%DOKIDOKIのプロデューサーやきゃりーぱみゅぱみゅのMV・ライブでの美術を手がけ、”kawaii”カルチャーの第一人者として国内外で活躍中の増田セバスチャン氏。初監督ながら、東京国際映画祭の特別招待作品にも選ばれるなど、注目が集まっています。
『オタ女』では、発掘された人形アニメーションに新たな息吹を吹き込んだ増田監督にインタビュー。前編では、少女がさまよい成長するストーリーの魅力についてや、クララを演じた有村架純さんとの役作りなど、初めて映画監督を務めた手応えを含めてお届けします。
--まずは、『くるみ割り人形』の監督を引き受けるにあたっての経緯から教えて下さい。最初にお話があったのはいつ頃になりますか?
増田セバスチャン(以下・増田):2014年に入ってからですね。サンリオから、昔のフィルムが発見されて、その保存状態がよかったので、デジタルで色味を起こしたりしていたのですが、僕が入ってもう一度クリエイトして現代的なカラフルなものにするという話で声をかけてもらっていました。それで、本格的にはじめたのがニューヨークでの個展が終わった4月くらいからですね。
--人形アニメーションのフィルムを今の技術で鮮やかにすることに加えて、現代に合わせた脚色をしています。
増田:もともと、この『くるみ割り人形』の一番最初の脚本は寺山修司さんが書いていて、それを辻信太郎さん(現サンリオ社長)が脚色したものが見つかったんです。
--自叙伝の『家系図カッター』(角川グループパブリッシング)でも寺山の存在の大きさに触れられていましたが、ここでも巡りあうことになったわけですね。
増田:最初引き受ける時に運命だな、と思いましたね。製作当時は過激だった寺山さんの表現も、今ならばストレートに伝わるものがあるので、辻さんの脚本ともバランスを取りつつ現代に合わせていく事に時間をかけました。
--『くるみ割り人形』は、少女クララがねずみの大群にさらわれた大切なくるみ割り人形を追って〈人形の世界〉に迷いこんだり、王子様にお菓子の国へ招待されたり、夢のめまぐるしく辿っていくストーリーです。このタイミングで、この物語がクローズアップされたことの意味をどう捉えていらっしゃるのでしょうか。
増田:原作は女の子がさまようストーリーで、僕の大得意なモチーフなんですけれど、今回は呼ばれた感じですね。このような人形アニメーションは、制作費や労力や年月がかかって、ディズニーがやりたくても出来なかった。それが35年前に日本で作られていたんです。だから「俺たちの作ってきたものを繋いでくれよ」と先人たちの亡霊に呼ばれたんじゃないかと。
--人形を作った人たちにもですが、クララにも呼ばれたのかもしれませんね。
増田:人形に呼ばれた。今年は『ドール展』もやりましたし、人形に取り憑かれているんじゃないか、と。
--演出についても教えて下さい。これまで手がけてきたMVや舞台での経験が生きたところがあったのでしょうか?
増田:もとのフィルムを見たときに舞台に近いと思ったんですね。舞台はこれまでに何回もやっているので、3Dの製作や演出をつける時も舞台をやるようにしました。
--作品を拝見させて頂いて、クララが想像よりもずっと大人っぽいセリフを喋ったり、はっとするシーンが多かったです。クララを演じた有村架純さんとどのような役作りをされたのでしょうか。
増田:もちろん脚本もあるかもしれませんが、もう一つは有村さんだったんじゃないかな、と思います。アフレコや稽古で一緒にキャラクター作りをしていて、有村さんが鼻にかかったような甘えた声を出す瞬間を捕まえればクララという役が成功する、と思って臨んでいました。でも、彼女は年齢的に子どもから大人になる瞬間の人なので、子どもっぽいことはやりたくないっていう年代にも入ってきている。その中でクララ役をやるのは、葛藤があったんじゃないかと思います。
--そういった揺らぎが魅力になっているのかもしれませんね。
増田:人形のパクパクとした口の動きを通して伝えることを、最初は彼女自身がなかなか掴めずに大変だったと思うんですが、アフレコで成長していった。それで、後半は”甘えたような声”というのを全部外して、わりと素の有村さんでやってもらいました。クララという少女の成長物語を体験しているうちに、彼女自身がクララになってしまった。結果的に探していたのはクララではなくて有村さんだった、と感じて……。監督としていろいろ演出したけれども、一緒に物語を旅したような感覚ですね。だから有村さんの個性が大きかったんだと、最後の収録ですっきりした顔をした彼女を見て思いました。
--市村正親さんが演じたドロッセルマイヤーがストーリーテリングで非常に重要な役を果たしています。
増田:もともと旧作では同じ役として明言されていなかったのですが、僕のオーダーで1人4役をやってもらいました。道先案内人としてのポジションのドロッセルマイヤーが、クララが夢をさまよう中で、いろいろな姿で出てくるというのを演じてもらいたかった。
--舞台で4役を演じるような演出だったということですね。
増田:『不思議の国のアリス』では白ウサギのポジション。少女が妄想の世界をさまよいながら成長するというファンタジーな話が僕はすごく好きなのですけれど、『くるみ割り人形』にもそういうポジションとして、ドロッセルマイヤーを置いたということです。
--お話を伺っていると、アートディレクターとしてというよりも範囲が広く、6%DOKIDOKIのビジュアルショーや舞台でのお仕事に近いように感じました。そんな中「セバスチャン」色が出たポイントを挙げるとすると、どういったことになりますか?
増田:最初に引き受けた時はアートディレクター的なニュアンスをプロデューサー側から受けたんですけれど、途中から「作品」に変わったんです。最初は自分の中にある成功のパターンに持って行こうとして作っていたんですけれど、僕と音楽の松本淳一さんとエンディングの解釈が違っていたんですね。「こういうふうに考えている人がいるんだ」と衝撃的で、それに賭けようと思った。
--当初の想定とは、別の結末になった、と……。
増田:そのまま製作していれば80点は取れる。松本さんの解釈に「ガーン」と来て、もしかして50点以下になるかもしれないけれど、セバスチャンなりのリスクを追って賭けに出たいという気持ちがふつふつと湧いてきた。そこからは新しいものを作るという方向で全部押し切って、もっと突っ込んだ指示をするようになりました。
--その解釈が何か、想像しながら観てみるのも楽しそうです。現場で多くのスタッフと製作していく過程で、意見がぶつかることもあったのでしょうか。
増田:いろいろなスタッフがいろいろなことを言ってくるわけで、傷つくことも多いんですけれど、それが80点以上なのか以下なのか、とにかく自分が思ったものとは違うものができていくわけです。そういったスタッフワークの中で監督としてやるのはすごい面白いな、と感じました。アートディレクターとしての仕事は、基本的に僕の指示のもとに世界観を作り上げていかなければならないのですが、今回はもともとの素材がありつつ自分の世界観を出していくという作業。それで、最初は『くるみ割り人形』という作品をきれいにまとめるという頭だったのですが、作品に変わりましたね。
--サンリオは、”ハローキティー”をはじめとして日本の”kawaii”を担い続けてきた会社ですが、そこでお仕事をする上での重圧を感じることはなかったのでしょうか。
増田:いろいろなものをぶち壊して作っちゃったから、ほんとうは見せるのがめちゃくちゃ怖かったんです。元のものはリスペクトして活かしながら現代的な解釈をしたと言っても、原作のファンもいるし、サンリオさんもいるし、最初の試写ではドキドキでした。でも、現代の子にはこれが響くんだという確信があったし、分かってくれるはずだという信念のもとやったので。結果的に辻社長からもすごく喜んでもらえました。
--『くるみ割り人形』は大人から子どもまで楽しめるエンターテイメントだと思うのですが、反応はいかがでしたか?
増田:実は、初号試写の時に一番褒めてくれたのは、30~40歳代の男性だったんです。もちろん、10~20代の女の子にグサっと刺さるのは最初から確信があったんですけれど、僕と同じように子ども心をもったままオトナになってしまった世代に響いたのが意外で、すごく嬉しかったですね。
--きっと少年の頃から秘めていた”乙女心”がくすぐられるのではないか、と思います(笑)。逆に女性の反応は……?
増田:全員がそうだとは言いませんが、ある30代の女性からは、「子どもに見せてどう思うのか」と聞かれてしまったり……。でも、そういう人が、この映画を観てどこかに置いてきたものに気づいてもらえたならば、ちょっとはやった甲斐があったのかな、と思います。
(後編 http://otajo.jp/44628 [リンク] に続く)
『くるみ割り人形』予告編 (YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=mpdO9oGV3dc [リンク]
映画『くるみ割り人形』公式サイト
http://kurumiwari-movie.com/ [リンク]
(C)1979,2014 SANRIO CO.,LTD.TOKYO,JAPAN
乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。
ウェブサイト: https://note.com/parsleymood
TwitterID: ryofujii_gn
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。