『天才スピヴェット』ジャン=ピエール・ジュネ監督&カイル・キャトレット インタビュー VOL.2
奇才、もしくは彼が映画界で巻き起こしてきた魔法の威力からすれば、もはや怪人と呼ぶにふさわしい。長編デビュー作『デリカテッセン』、日本でも大ブームとなった『アメリ』をはじめ、ジャン=ピエール・ジュネの創り出す世界は常に奇想天外。そしてシニカルだけど、なんだかとっても温かい−−−。そんな彼が初めて3Dに挑んだ『天才スピヴェット』は、弱冠10才の天才少年が家を飛び出し、貨物列車に飛び乗ってアメリカ大陸を横断する物語だ。インタビューに現れた怪人ジュネは、孫ほどに歳の離れた主演のカイル・キャトレット君を前に、思いのほか表情が緩みっぱなし。カイル君もまたジュネの一挙手一投足に弾けるような笑顔が絶えない。はてさて、お二人の口からはどんなお話が飛び出しますことやら。
(VOL.1より続き)
−−−この映画の核となるのは何と言ってもスピヴェット少年の存在感です。カイル君は10才の天才児というこの役柄を演じてみていかがでした? ここのシーンは難しかったんだよ、というところがあれば教えてください。
カイル「なーーんにも!」
ジュネ「おやおや、カイル、ずいぶんと答えがシンプルじゃないか。疲れちゃったのかい? 私ばっかり頑張って喋ってこれじゃ不公平だから、キミも一汗かきたまえ」
カイル「うーん……、台本の最後にスピーチの場面があって……、そこんとこで、たっくさんセリフを覚えなきゃいけなくて……、なんかたいへんだった!!」
−−−なるほど! 確かにセリフの量がハンパなかったよね。でも 最高に素敵な演技でした。
カイル「あんなにセリフを覚えたのは初めてだったけど、でも面白くて、楽しかったよ(と答えて、素敵な笑顔)!!」
−−−笑顔が可愛い!そして答えもポジティブ!!じゃあ、ちょっとノってきたところで、もうひとつ訊いてもいいかな? カイル君の目から見た「ジュネ監督って本当はこんな人だよー!」という部分があれば教えてください。
カイル「んとねー、とってもファニー、ユニーク、そしてアメイジング!!!!」
ジュネ「ちょっと褒めすぎじゃないか? でもなんだか悪くない気分だ」
−−−監督の目から見たカイル君はいかがですか?
ジュネ「うん、彼は全く手のかからない優れた俳優だった。常にポジティブだし、好奇心も旺盛。私としてはこの子の欠点のひとつやふたつ見つけ出してあげつらってやりたいのだが、それでも全く見つからない。カイルは正真正銘の天才少年なのさ!」
カイル「へへへ(笑)」
ジュネ「危険なアクションもほとんど自分でやってのけた!警官に追われて橋に跳び移ったり、電車に飛び乗って腹からドーンと着地したり。私ならやれと言われても絶対にやらない。痛いのイヤだからね。カイルは最高のアクションスターでもあるのさ!」
−−−ところでカイル君、ジュネ監督は世界で最も奇妙な映画を作り出す人としても有名なんですが、他の作品は観ましたか?
カイル「うん!『ロスト・チルドレン』と、『アメリ』をちょっと。あ、そうそう、『エイリアン4』も観たよ!」
ジュネ「なんてこった!!」
−−−ひゃー、エイリアンの口がガバーッ!て開いて、ガブーッて食べられたりして怖くなかったですか?
カイル「うん、ドキドキしたけど、平気!!」
ジュネ「この子はね、映画の観るときの着眼点もすごく変わっててね。たとえば、最初に会った時、私たちは『ロスト・チルドレン』の話をしたんだけれど、彼が真っ先に切り出したのは技術面についてだった。どんな映像技術を使ってクローンを6人に増殖させたのかってね。私は度肝を抜かれたよ。子供ってのはまずストーリーにこそ夢中になるものだと思っていたから。きっとカイルは、技術屋の才能も兼ね備えているのさ!」
カイル「ハハハ!」
−−−タイムリミットが近づいてきました。そろそろ最後の質問になるかと思います。この映画には“家族”という近くて遠い関係性を、最良の愛情と信頼とで紡いでいくためのヒントがたくさん詰まっていると思うんです。監督ご自身はその点、どう感じますか?
ジュネ「私にできるアドバイスといえば、『少年よ、貨物列車に乗って旅に出ろ!』ということくらいかな。でもね、正直に告白すると、私はそんなこと言えた義理ではないんだよ。そもそもフランスにはアンドレ・ジッとの”Families, I Hate You!”という有名な言葉があるように、家族愛の外に自分を置こうとする者が意外と多い。そして何を隠そう私もそっち側の人間なのさ」
−−−そのような考え方のジュネ監督が、一方でこんなにも心と心で響き合う家族の映画を紡げるなんて、さすがです。
ジュネ「それができたのも、このメインとなる家族が甘ったるい愛情などではなく、エキセントリックなまでの強い絆で結ばれているからだよ。私はクラシカルな映画なんてまっぴらごめんだし、フランス映画に多いリアリズムあふれるテイストも苦手だ。むしろ好きなのはティム・バートン、テリー・ギリアム、クロサワ、キューブリック、フェリーニ、セルジオ・レオーネなどといった強烈な作家性を際立たせた人の映画なんだ」
−−−なるほど。
ジュネ「でも、そうは言っても『天才スピヴェット』は今後ますます私の中で異色作としての位置づけを色濃くさせていくはずだ。これまでは登場人物の感情をフィルターで覆ってシニカルな表現に徹することが多かったけれど、本作はむしろ感情というものに寄り添ってみようと心掛けたからね。何がそうさせたのかは分からない。もしかすると、私が苦手としてきたはずのクラシカルでエモーショナルな作風に最も近づいた作品とさえ言えるのかも。そんな私の新境地を、日本の皆さんが楽しんでくれたらなと心から願っているよ」
撮影 山谷佑介/photo Yusuke Yamatani
文 牛津厚信/text Atsunobu Ushizu
『天才スピヴェット』
モンタナの牧場で暮らす10歳のスピヴェットは、生まれついての天才だ。だが、身も心も100年前のカウボーイの父と昆虫博士の母、アイドルを夢見る姉には、スピヴェットの言動が今ひとつ分からない。さらに、弟の突然の死で、家族の心はバラバラになっていた。そんな中、スピヴェットにスミソニアン学術協会から、最も優れた発明に贈られるベアード賞受賞の知らせが届く。初めて認められる喜びを知ったスピヴェットは、ワシントンDCで開かれる授賞式に出席するべく、家出を決意する。数々の危険を乗り越え、様々な人々と出会うスピヴェット。何とか間に合った受賞スピーチで、彼は<重大な真実>を明かそうとしていた──。
監督:ジャン=ピエール・ジュネ『アメリ』『デリカデッセン』『エイリアン4』 原作:「T・S・スピヴェット君傑作集」ライフ・ラーセン著(早川書房刊)
出演:カイル・キャトレット(新人)、ヘレナ・ボナム=カーター『チャーリーとチョコレート工場』『英国王のスピーチ』
ジュディ・デイヴィス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン、ドミニク・ピノン
11月15日(土) シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開(3D/2D)
© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA
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