THE NOVEMBERS『Rhapsody in beaty』小林祐介インタビュー前編

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THE NOVEMBERSのニューアルバム『Rhapsody in beaty』はもうお聴きになっただろうか。ノイジーなものもサイケデリアもガレージロックもエレクトロもここではすべてがエクスペリメンタルだ。しかもその”体験的”な音楽はジャンルではなくセンシュアルなものであり、これまでのロジックを新たな挑戦でもって一旦解体して得たどこまでも自由な音像そのものといった印象でもある。そしてこの10月にバンドを軸としたチーム”MERZ”も1周年を迎えその手応えをはじめ、「LAD MUSICIAN」の20周年を記念するショーのアフターパーティでのライブや、小林祐介のソロ=Pale im Pelz(ペイル イン ペルツ)についても語ってもらった。

 

——すでにツアーも始まっていますが、実際にライブで演奏してみてどういうアルバムになったと感じてますか?

小林「やっぱりライブでやって思ったのが、自分たち自身が高揚するのをまざまざと感じるというか。もともと自分たちがもっとドキドキしたいとか、ワクワクしたいとか、もっと美しいものやアヴァンギャルドですごいもの作りたいっていう気分で制作していったのが、そのままライブに持ち込めてるような気がします。だからギターをガッてやった瞬間に轟音が鳴るとか、みんなでせーのでわかりやすく爆発させるみたいな。童心というか少年心というか、自分たちに刺激されるようなライブが、今新たに行われてるっていうか」

——音楽的な影響を素直に表してるようなアルバムですしね。

小林「そうですね。影響だけで作ったみたいなところはありますからね(笑)」

——“救世なき巣”は明らかにMy Bloody Valentineを想起させるし。

小林「“救世なき巣”は、部屋じゅうをアンプで埋め尽くして、それにいろんな機材をバラバラに繋げて、僕が別の部屋で弾き語りしてるんですよ。なんていうんですかね……音って耳で感じるものって言われるものなんですけど、マイブラのライブを見た時に、耳で聴こえない音があるなと思って。身体が押しつぶされそうな音とか、頭のなかをグジャグジャにされそうな音とか。だから音だけでこんなに違うものなのかと。人が普段『ここまでしか使ってない』感覚をこじ開けて中に入ってきたっていうか。だから音楽に対して、僕はものすごく狭い中で考えてたし、狭い中で表現してたんだなって気付いて。で、それからやっぱりそういう過激なものとか、どこまでも圧倒的に美しいものに対しての憧れというか、そういうものが改めて僕の中で沸々と芽生えてきたんですね」

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——しかも影響はマイブラに限らずで。

小林「元々はアルバムとしてエレクトロ・シューゲイザー、ノイズみたいのを作れたらいいなと思ってたんですけど、でもBorisと浅井健一氏(笑)、その2組とやったことで、ホントにわかりやすく『ロックっていいな』ってなって(笑)。僕、ロックってかっこいいなっていうセリフを全然言ってこなかった人生で。ぶっちゃけロックがどうとかあんまり考えてこなかったんですけど、ロックってものは映画みたいだなとか、漫画みたいだなとか、僕の胸をすごくドキドキさせるなとか、そういう感覚で、『ロックアルバムを作ろう』っていうものと、その”圧倒的に美しくて衝撃的なノイズ”みたいなものがどんどん結びついていって、今作になったっていう感じですね」

—小林さんてすごくロジカルじゃないですか。だけど、ロジックを実際の音作りに使った感じがします。この”救世なき巣”なんて最たるもので。

小林「そうですね。実験と検証を踏まえてっていうところでいうと、確かに何でもいいからバーン!ってやって、『それがロックだ』というより、思い描いてるものを、そういうものを作りだすためにどうやるのか?とか、逆にまたどうやったらそういうものが自分の想像を越えていくのか?とかっていうのは確かにロジカルなもので作っていきましたね」

——そのロジックが高度だから実際の音像は理屈っぽく聴こえないというか。

小林「ああ、そうかもしれない。実際に歌詞とかもいい意味で適当なんで、今回。あんまり意味とか価値みたいなものがしがらみにならないような温度感というか。すごく一筆書きみたいな歌詞もあるし。これを作ってみて思ったのは、意識的な部分もあるし、無意識的なものもあるけど、過去の僕っていうのは、すごくいろんなしがらみがあって、それを楽しんだり疎んだりしていたとしたら、今回はしがらみを取り払うっていう行為自体を楽しもうとか、もっと無邪気に踊りたいみたいな、そういうのがありましたね」

——以前は影響を素直に出せない感じだったんですか?

小林「矛盾とかどうしようもないことから逃れられないんだったらせめて楽しむしかないよなっていう、ちょっとした諦観とか。逆にそういうものから何を選ぶのかとか、そういうことをテーマにしてたってことですかね。逆に今回はそれに付き合うのもバカバカしいっていう態度とか、それをしがらみだと思い込む時点で、なんかスタート地点ずれてるんじゃないのか?とかいう思いがありましたね」

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—音楽的なしがらみといえば例えばなんですか?

小林「たとえば圧倒的にうるさい、アンプが何十台もあったりとかして、それをバーッて鳴らしたときに手間がかかるとか(笑)。興味はあったけど『そんな大したこと起こんないんだろうな』ってやる前から思ってたりとか。あと、やっぱ4人いるんで4人のバランスっていうものを正解は自分たちで作るしかないのに、何か別の対象と比べた時に自分たちの正解をそこに当てはめて、いい意味でも悪い意味でもバランスどりをしてきてしまったというか。今回それを一度壊してるんですよね、やっぱり。マイブラのライブ見たときに声が当然聴こえなかったりとか、ドラムが薄くなったりとか、言うなればそれってバランスが悪いってことじゃないですか?でも、My Bloody Valentaineの中では、正しいというか。そういうものを改めて自分たちで作っていくというか。なんか『少年心』と言いつつも、こういうなんて言ったらいいのかな…退屈とかを自分の想像力ひとつで、とか手の技一つで吹き飛ばせる大人の教養がほしかったのかな」

——他の取材で、小林さんがこのアルバムを2011年にもし震災が起こってなかったらどんなアルバムを作ってただろう?そういう意味合いのアルバムでもあると言ってましたね。

小林「はい。それがさっき言ったしがらみを取り外してみたらどうなんだろうか?とか、自分で2011年以降、自分の価値観が変わって気づいたこととか、新しく考えなおしたこととか、『こういうのが自分はいいと思うんだよね』っていうこととか。それ自体がこう、自分の表現とか自分自身を豊かな高みに連れてってくれたりとか、いい影響しかないと僕は思ってるんですけど。それじゃない未来にも美しい作品があったら、少しこう、寂しいなと思って。意味とか価値っていうものがいかに自分の中で健康に結びつくか?っていうのがすごく大きい価値基準の一つだったんですけど、それ自体が作品の可能性を止めてしまうこともある。僕の生活自体が楽しく素晴らしいものになっていったらいいなっていうもの自体は変わらないんですけど、音楽、その作品を作るってことに関しては道徳とか倫理観っていうのは足かせになることがやっぱりあるので。そういう窮屈な物事から解放されたかったりとか、そうじゃない世界を楽しんで、より日常を豊かにしたいっていう思いから、人って芸術を作ったり、鑑賞したり楽しんだりするじゃないですか。で、そういう意味でいうと生活と作品の価値基準が重なりすぎるのも、すごく狭いものになっていくなっていう。だから、僕の場合、そこの可能性をもっと広げていきたいっていうのがあったから、たぶんちょっとコマを戻すっていうか…実際戻るわけじゃないんですけど、仮にこんなことがあったらどうかな?っていうモチーフにしてやってみたという」

——でもそれもこの3年があって、ロジックの使い方も経験値も上がって自由になれたからこそなのかなと。

小林「ああ、そうです。その通りです」

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——しかしまぁ1曲目から「この暴風の中で何が見えてくるんだろう?」みたいな曲(”救世なき巣”)から始まるわけですが。

小林「この曲のテーマは実は、海外で起こっている戦争や紛争がきっかけで。自分の子供が生まれるってなった時に、子供たちの未来とか、子供たちの現状みたいなものをちょっとモチーフに曲を作りたいと思ったんで」

——ああ、なるほど。

小林「まさに暴風雨みたいな人を覆い尽くしてしまいそうな轟音の中で、聴こえそうで聴こえないような声があるじゃないですか。で、そういうものをすごく表現したくて。声が届かないとか、言葉が聴いてる人に届きそうで届かない、でも誰かが何かを言ってるだけはわかるって、すごくその戦争の中にいる人…過去も未来もそうなんですけど、戦争の中にいる、一方的に当事者にならざるを得なかった受け手の人たちっているじゃないですか。その人の人生みたいなのを表現できたらいいなと」

——そして2曲目はこれまで具体的に表現してなかったかなと思うんですけど、Blankey Jet Cityの影響を感じて。

小林「実はベンジーの影響がいちばん出たのは4曲目で。“Blood Music.1985”はRomeo’s bloodの”blood”からきてるんです」

——ああ、確かにリフの感じはそうかも。

小林「そうそう(笑)。なんかベンジーとやってて、曲作りでベンジー節みたいなリフをロメオズのリハスタで僕が弾いてたんですよ、それをベンジーが「それいいじゃん」とか言って、一瞬セッションぽくなってたんですけど、次のスタジオの時にはもう忘れてて、流れちゃったから自分で曲作ろうと思って。それで「ブラッドミュージック」っていう小説もあるのも知ったのでそこで結びつけて」

ーーそして楽曲の“Rhapsody in beauty”はフジロックのステージで1曲目にやってた曲ですか?

小林「そうです。あの時はまだちょっとラフでしたけど」

——『今日も生きたね』の時のインタビューで、もっと広いフィールドに出て行くスタンスについて話していて、その布石みたいな曲なのかな?とあのライブを見て思ったんですけど。

小林「ホントにその通りで、フジロックでやったら、野外で昼間で人がたくさんいてっていうときにこんなふうにできたらきれいだなとか、そういうモニュメントみたいな曲を1曲目にやって人前に出て行きたいなっていうのがあって作ったんですけど。でもこれも実は2011年以前に作ってた曲で。ただ形とか歌詞は全然違うんですけど。これを改めて作ろうと思ったのが、過去どうのこうのってお題があったからで」

——“こういうことさ 自由に生きるのは”ってヴァースに繋がる構成が明るいだけじゃない内容の曲ですね。

小林「僕が今回“Rhapsody in beauty”や“Romancé”、“僕らはなんだったんだろう”とかで共通して描いてるのは、ただ人が死ぬっていうのをモチーフに…1人の人生がただ終わっていくとか、1人の人生がただこう、閉じていくというか、そういうものが自分自身とかバンドに重ねて表現できたらいいなと思って。“Rhapsody in beauty”自体の歌詞は、1番までは自由って素晴らしいなってことで、2番が自由を謳歌するっていうのはこんなふうに自分に何かが降りかかっても引き受けなくちゃいけないことなんだというか。だから昔の自分が思ってた自由と今の自分が思ってる自由が共存してて。今作を作る前の自分だったら、『自由って素晴らしいっていうけど自由にも代償があって、それって不健康だから僕はあんまり選びたくないな』とかいうところで、もしかしたら終わってたかもしれないけど、死ぬかもしれないけどこの一瞬すごく美しいじゃないのっていうか、やっぱり美しいものは美しいんだから作品にしたいよっていう、今の自分がいる。そういうところですかね」

——“ラプソディ”の意味をこのアルバムでちゃんと知りました。

小林「僕も全然知らなくて。熱狂的な詩とか物事を伝承していく詩の形態とかいうのを後から知って。で、“ラプソディ・イン・ブルー”っていう、まぁ往年のスタンダードナンバーがありますよね。”イン・ブルー”っていうのはブルーノートによるっていう”イン”なんですよね文法的に。だから”イン・ビューティ”にすると”美しさによる”って言い換えられるなと思って。”美しさによる狂詩曲”、みたいな雰囲気で。最初なんてキザなんだろうと思ったんですけど、それが途中から堪らなくなってきて(笑)」

——そして今回最も新しい音像の“Romancé”ですが。

小林「(裸の)ラリーズの“黒い悲しみのロマンセ”から”ロマンセ”っていう言葉をもらって。それこそレコーディングエンジニアの岩田さん(岩田純也/トリプルタイムスタジオのオーナー兼エンジニア。ASIAN KUNG-FU GENERATION、Syrup16g、ART-SCHOOL、indigo la Endなどを手がける)とは毎日実験をして。どうやったらもっと80sのプールバーとかああいうネオンの感じが出せるんだろうか?とか(笑)。AORをコクトーツインズが演奏してる感じとかっていうのを僕がずっと言ってて。で、お互いの叡智が結集して、このなんとも言えない(笑)音像になったっていうか」

——私はずばり、坂本慎太郎であり、最近のOGRE YOU ASSHOLEにも通じ聴こえ方でした。

小林「あ、はい。でも坂本さんの新譜を聴いて、パーカッションの使い方とかいいなと思って。で、自分でパーカッションを組んだりして、曲のあのアイデアに使っていったりしたんで。元々“Romancé”の仮タイトルが“坂本”だったんです、だからまさにおっしゃる通りで(笑)」

——なるほど(笑)。足が15センチほど浮きます(笑)。

小林「(笑)。結局ノイジーなもの…とかロックっぽいものをわーって作っていって、プラス物悲しい曲が出揃った時に自分の中で少しモヤモヤがあって。これだけだとまだ作品にしたくないなって。それはなんだろ?ってなったときに、自分の80s的なものへの渇きみたいなもので、で、唐突に80sサウンドみたいなものが挿入される構図になったんです。でも結局、自分のルーツは80sだったりするんで、そういうとこに帰ってくるのかなと思いましたけどね。でもYoutubeのコメントとか見てると外人がすごく反応してくれてたりとか、『10年代のキュアーになるのか?』とか書いてる人がいたりとか」

(後編へ続く)

撮影 山谷佑介/photo Yusuke Yamatani

文 石角友香/text  Yuka Ishizumi

 

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THE NOVEMBERS

『Rhapsody in beauty』

発売中

http://www.amazon.co.jp/Rhapsody-beauty-THE-NOVEMBERS/dp/B00MMSUZPS/ref=ntt_mus_ep_dpi_1

https://itunes.apple.com/jp/album/rhapsody-in-beauty/id923995837

 

 

THE NOVEMBERS

2005年に結成した日本のオルタナティブロックバンド。2007年にUK PROJECTから1st EP”THE NOVEMBERS”をリリース。2012年からはiTunes storeで世界62か国への楽曲配信を開始。海外バンドの来日公演のサポートも増えTELEVISION,NO AGE,BORIS, BO NINGEN,Wild Nothing,Thee Oh Sees,ULTERIOR等とも共演。そして、台湾の「MEGAPORT FESTIVAL」にも出演し、国内だけでなく海外からの注目も高まる。2013年10月、自主レーベル「MERZ」を立ち上げ更なる躍進中。2014年7月にはFUJI ROCK FESTIVALに出演し、10月から開催されるTHE NOVEMBERS 5th album and Tour – Romancé –のファイナルは新木場スタジオコーストにてワンマンライブを行う。2014年10月15日5th アルバム『Rhapsody in beauty』をリリース。詳しくは下記HPにて。

http://the-novembers.com

 

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都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

ウェブサイト: http://www.neol.jp/

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