tofubeats『First Album』インタビュー(前編)
天性のポップセンスを武器に、森高千里、藤井隆とのコラボも果たし、お茶の間での認知も進むtofubeats。その彼のメジャーファーストアルバム『First Album』が完成。“Don’t Stop The Music”を筆頭にシングルでおなじみのキャッチーなトラック、パラパラを見事に調理したモダンなダンストラック“CANDY¥¥¥LAND feat.LIZ”、静かに染み渡るミディアム“衣替え feat. BONNIE PINK”など全18曲が収録。様々な味わいはあるものの、アルバムの根底を貫くのは音楽への一途な、奪われたら息ができないんじゃないかというほどに濃密な愛だ。そして、そこに到達したいという願い。それはもはや信仰のようだと、tofubeatsは語ってくれた。
——アルバム完成、おめでとうございます。SoundCloudで曲があがりまくってたので順調なんだろうなあと思っていたんですが、制作過程はどうでした?
tofubeats「いや、全然。順調も何もSoundCloudにあげてるのはアルバムには入れないつもりで作ってたやつなんですけど……入りましたね。そういう感じです(笑)。そもそも7月の頭に急にアルバムを作らなきゃいけなくなりましたってことがわかったんです。レコード会社内ではずいぶん前から年内にアルバムを出すと決まっていたらしいんですが、俺は直前に知ったという流れで。『嘘ですよね? あ、本当なんだ。じゃあ頑張ります』って(笑)。先行シングル以外のほとんどの曲をそこから1ヶ月強で作りました。最後の”20140803”は締切直前でサンプリングで作ってみたらいい曲だったんで仕上げたんですよ」
——自主制作のアルバムは時間に追われずに出来たから、またちょっと感覚が違った?
tofubeats「前作も期日を決めてはいたんですよ。でも当時のブログを見返すと、4ヶ月しか時間がないって書いてあって衝撃を受けました(笑)。前作は満を持して、マスタリングも自分でやって。マスターを『出来上がった!』って感じで持って行ったのは覚えてます。今回は満足してないわけじゃないけど、なんかもう最後の方はボロボロボロボロ、みたいな(笑)」
——『First Album』は入ってるメンツからしてもメジャーでどこまでできるのか、ある意味そういうところも試ししてる感じがするんです。それも『lost decade』の時とは違う?
tofubeats「メジャーというか、能書きが短い分いいゲストが呼べるという考え方もできるというだけで、やりたいことは『lost decade』とあまり変わってないです。それは展開や入ってる曲の分量を見てもわかると思います。1ヶ月しかないんだったら18曲も入れなくていいじゃんって話なんですけど、やっぱりパンパンにしたかったし、うん、基本的にやりたいことは変わってないんだなって感じですね」
——やりたいことというのは、ポップスを届けるということ?
tofubeats「楽しんでもらうってことじゃないですかね。サービス精神じゃないですけど、アルバムを買って聴いてもらって、その中に好きな曲が1曲でも入ってたらいいなって。アルバム全体としてどうというより、アルバムの中に好きな要素が多ければいし、そしたら好きになってくれるチャンスが増えるから、こっちからしてもその要素が多い方がいいんです」
——なるほど。濃密な製作期間でしたが、改めて振り返ってみて手ごたえはある?
tofubeats「いや~、あんまりわかんないです。『lost decade』もそうでしたけど、世に通って初めてわかるものですから」
——ああ。じゃあこれ完全にいくっしょって感じはいつもないんだ?
tofubeats「一度もそんなことないっすね(笑)。どの曲でもないっす。ただ俺が特に好きな曲はあって、パラパラ(“CANDY¥¥¥LAND feat.LIZ)と”衣替えfeat. BONNIE PINK ”は出来て良かったなと思います。でもこれは世の中にウケるなってのはないです。選ぶのは世の中だし、その世の中のためにやってるみたいな感じもあるんで。世の中の人がいいとなって売れるというより、これがいいということをわかってもらえたら嬉しいなと思います」
——これがいいとわかってもらえる世の中だったらいいな、と?
tofubeats「いや、ちゃんと説明すればいいとわかってもらえるとは思うんです。だからちゃんと説明できればいいな、少しづつ説明の精度を上げられればいいなって」
——じゃあ説明の精度として、『lost decade』の時より上がったと。
tofubeats「上がったというより、わかりやすくはなったと思います。”ディスコの神様”単体より、シングルというものが入ってて、かつそうじゃないものが入ってるアルバムは、どういうことがやりたいのかというわかりやすさはあると思います」
——そのために全体でのシングルの置き場所も考えたり?
tofubeats「俺ならこう並べるってだけですね」
——それはDJの時の感覚?
tofubeats「そうですね。普通のメジャーアルバムだったら”Don’t Stop The Music”はここに置かないだろうから、それはありますね。
1曲目に”20140809 feat. lyrical school”、2曲目に”#eyezonu”は置かないだろうし。でもこれで始めたらすごい自分のアルバムになるというか。人のアルバムじゃないよって意味も込みで、この曲から始めたくて」
——うん、これが”poolside feat. PES(LIP SLIME)”から始まったら全く違うアルバムになっていただろうというのはすごくよくわかります。今作でのフィーチャリングはどういう風に選んだんですか?
tofubeats「lyrical schoolは僕がずっとプロデュースしてて、僕名義の作品でも参加して、お互いい関係で。本当は曲が書きたかったんですけど時間がなくて、前回もアルバムの納品に一番近いライヴをイントロで使ったんで、今回もそういう感じにしたいなと思って、ライヴが一緒の日に最後にこっそり録ってるから『音楽最高』と言ってくれと仕込んだ感じです。PESさんに関しては、元々”poolside”は2年前に作っててネットでずっと上がってたんです。それをレーベルの担当の方がすごく好きでいつか曲にしたいと言ってくれて、PESさんと合うだろうという話もずっとされてたんですよ。それで一緒になって録れそうだからってことで、形になりました」
——それは実際に一緒に作業をやったってこと?
tofubeats「そうです。曲はもうあったので、リリックを書いてもらって、スタジオに入って録って、細かいディレクションをしました」
——PESさんのリリックの印象は?
tofubeats「めちゃくちゃ良かったですね。リア充はすげえなあ、みたいな(笑)。サーフィンに行きまくってる感じとかいいですよね。その日も早めにレコーディングが終わって、『すげえ、海に間に合うじゃん!』って言ってましたから」
——tofuくんと真逆ですね(笑)。
tofubeats「だからいいなと思ったんです。藤井隆さんとやるのとはまた違った良さがあって」
——光があると闇が際立つ。
tofubeats「そうです(笑)。今回はアルバム全体がそうですよね」
——そう、本当にそれは思った。
tofubeats「両方ないとどっちかわからないですからね。で、新井(ひとみ)さんとは一度新井さんの作品でご一緒させていただいたことがあるんですが、その時にすごい手ごたえあったのでもう一度やりたくて。それでこちらの名義の作品でやらせてもらいました。女子流がかっこいい路線でやってるんで、また違う感じがいいかなってことでこういう風にして。LIZはMad DecentというDiploのレーベルと一緒にBBCのラジオ出た時になにか一緒にやりましょうってなって、その流れで俺に興味をもってくれたアーティストが何人かいたんですけど、特にLIZがやりたいって積極的に言ってくれたんです。俺もLIZが好きだったし、じゃあやりましょうと。これに関しては向こうにトラック何曲か投げて一番好きだったものを使ってもらいました。ずっとなかなかハマらなかったんだけど、このパラパラが出来て、いい具合に破れかぶれ感が出てよかったです。BONNIE(PINK)さんは、”衣替え”を『ディスコの神様』のEPに入れるために作ってた時からずっと一緒にやりたくて。EPの時はタイミングが合わなかったんですけど、このアルバムを作る時にもう一度オファーしたら大丈夫になったので、アレンジを総とっかえしてやってもらった感じです。僕、ワーナーのアーティストの中でBONNIEさんが一番好きなんですよ」
——どこがそんなに好きなんですか?
マネージャー「年上の女の人が好きなんです」
tofubeats「そういうのもあるんですけど(笑)、BONNIEさんは『Heaven’s Kitchen』の14、15歳の頃から今に至るまで、向かおうとしているところがあまり変わっていない気がするんです。ひとつ行きたいところがあって、それを色んなところからどう行けるかをずっと試してる。それがなんていうか、音楽の“いい”というところで、その行きたいところが口では言えないから色々と曲で説明していて、僕も今回はパラパラを作ってみたりしてるんです。それを感じるアーティストが僕はすごく好きで、BONNIEさんは特にそれを感じるのと、普通に曲も声も好きというのがありますね」
——その行きたいところっていうのは、アーティストによって違うものですか。それとも音楽が持つ力みたいなもの?
tofubeats「それがちょっと難しいんですけど。なんていうのかな……人それぞれ、例えばもの作りをしている人と話すと、違う分野のことでも意外と原理は一緒だったりするじゃないですか。到達しようとしている点みたいなのがあって、そこに行くために音楽を聴いたり、作ったりしていて。音楽を作る以上は、何かそういう点を持っているか持っていないかで出来上がってくるものが変わってくる。その点を目指している、いないにしろ、その点があることを知っているか知っていないかみたいなところでも全然違うと思ってて。なんか、そういう点を見つめているからこそ全体に広がる音楽ができる……っていう感じがするんですよね。少し概念的な説明になってしまいましたけど」
——いや、すごくよくわかります。tofuくんにとってその点というものはどういうもの?
tofubeats「言葉にできないからずっとやってる、みたいな。それが説明できたらやめるでしょうし。でもそこに近づいたり、しなかったり、時期によって自分の気持ちとかも違うからやり方も変わっていくし、その至る過程も自分で見ていて面白いし、楽しいですね」
——他の人の曲とか聴いてて「うわ、これいってるわ」みたいなのってあります?
tofubeats「あります、あります。いい曲聴くとそうなるし、触発される。音楽を作る一番のモチベーションは音楽を聴くことなんで」
——「音楽にアディクション」(soundcloudでフリーDLできる楽曲”touchmebaby”の歌詞)ってね。
tofubeats「でもコーヒー飲んでるんですけど(笑)。しんどいわって言いながら作ってるんですけどね。大体ああいう曲を作ってる時は疲れてます。サンプリングのワンループとかで作って、サンプリングだからリリースできねえしって感じでサラッとアップするっていう(笑)」
——疲れてる時にアップするの?
tofubeats「そうですね。息抜きで作ってる」
——不思議なんだけど、それをあげることによってどういう気持ちになるの? すっきりしたり、楽になるの?
tofubeats「そうです。バッティングセンターみたいな感じでバーンってアップするんです」
——でもこういうアルバム用に作る曲はそうもいかない。
tofubeats「そうですね、やっぱり頑張りますからね。アルバム作るとなったら試合ですから。ぶっちゃけサクッと作るのもあるんですけど、全体として『音楽っていいよね』みたいな感じをどうやってやるかみたいなのはありますよね」
(後編へ続く)
文 桑原亮子/text Ryoko Kuwahara
tofubeats
1990年、平成2年生まれ、神戸市在住のトラックメイカー/DJ。インターネットで100曲以上の楽曲を公開し続けるかたわら、 YUKI、FPM、佐々木希、ももいろクローバー、Flo Rida など様々なアーティストのリミックスも手かがけ高い評価を得ている。Web CMなどのクライアントワークも多数。盟友オノマトペ大臣と2011年末にリリースした“水星EP”はアナログ盤として異例のヒットに。強い要望を受けてリリースされたデジタルバージョンはiTunes 総合チャート1位を獲得。iTunes Best of 2012 に選出され、翌2013年のニューアーティストにも選ばれる。2013年春発売の『lost decade』も iTunesで総合チャート1位を獲得。世界のインターネットに散らばる最新のクラブミュージックからJ-POPまで、凝り固まらない平成生まれのバランス感覚を持った新進気鋭の若手トラックメイカー。11月には森高千里をフィーチャリングした“Don’t Stop The Music”でメジャーデビュー。藤井隆を迎えた“ディスコの神様”でも話題に。2014年10月2日にメジャー1st『First Album』をリリース。
tofubeats
『First Album』
発売中
http://www.amazon.co.jp/First-Album-通常盤-tofubeats/dp/B00MBH33LS
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
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