Blonde Redhead『Barragán』インタビュー

Blonde Redhead credit Marlene Marino_m

90年代の初頭から活動を続け、インディ・シーンに確固たるポジションを築くニューヨークの3人組、ブロンド・レッドヘッド。ノイジーなギター・ロックからジャズ、エレクトロニック、フレンチ・ポップまで様々な要素を取り入れ芸術性の高いサウンドを創造してきた彼らだが、今回リリースされる9作目の『バラガン』は、これまでのアルバムとは異なる実験性と美しさが共存した作品といえるかもしれない。アコースティック・ギターやフルートのオーガニックな音色、草木が揺れるフィールド・レコーディングスを織り交ぜた神秘的なサウンドスケープ、一転して、クラウト・ロックも思わせる反復ビートやアンビエンス……。吐息のようなカズ・マキノの歌声と相まって、作品全体は不思議な静けさとミニマルな気配に満ちている。そんな新曲群の本邦初披露の場となった6月のHostess Club Weekender。初日のトリ出演を控えたバックステージで、ギターのアメデオ・パーチェに訊いた。

―リード・トラックの“No More Honey”を初めて聴いたとき驚いたんですけど、今回の『バラガン』はミニマムなアプローチやフォーキィなテイストが前面に打ち出されていて、これまでのアルバムとは音楽的にフォーカスが当てられている部分が明らかに違うと感じました。

アメデオ「えー……えへん(咳をする)、今回、何人かのプロデューサーと一緒に組んでいて。それで、今回何をしたいかってことを話し合ったんだよね。そしたら、今回は前よりも少しミニマムなアルバムにしたいなってことで、空間的な広がりを持たせたりだとか、多くを語るんではなくて、あえて語らない部分を残しておくようにしたんだ。ただ、No More Honey”は、少し毛色が異なる曲で、必ずしもこのアルバムの特徴を表してる曲とは言えないんだ。ただ、たしかに、今回のアルバムは君の言う通り、『23』や『ペニー・スパークル』とは明らかに違っていて。前者がサウンドやテクスチャーにこだわってるとしたら、今回のアルバムは何だろうね……より即興的なというか、ワンテイクで録った曲もあるんだよ。ミスもあれば不完全なところもあるけど、それをそのまま不完全な状態で残してみたらどうなるんだろう?と思って。そうすることで、サウンド以外の部分で、何かしら楽しめるんじゃないかと思ってね。すべてを音で埋め尽くしてしまうんではなくて、空間的な広がりを残すことで、繊細さを出したかったんだ」

―“Cat On Tin Roof”もギターの奏法が少しアフリカンぽくて面白いですよね。具体的にレコーディングの方法だったり、楽器の選択基準だったり、今回あらためて変えたりしたようなところはありましたか?

アメデオ「“Cat On Tin Roof”は……これまた特殊な曲で一回演奏しただけなんだ。一回一緒に演奏して……で、レコーディングのときに、その一回の練習でやったことを再現しようとしたんだ。そんな感じで曲ができることがよくあってね。一瞬にして曲が降りてくるんだけど、その瞬間を再現しようとすると途端に難しくなってしまう。手を加えれば加えるほど、最初のマジックがどんどん薄れていってしまうような気がして、それじゃあ、デモの段階に戻って、それを再現できないかということになり……。ポッと湧いて出たというか、何も考えず、ただ感じるままに演奏してただけなんだけど、それがなんだか気持ち良くてね。もしかして一番即興的にできた曲かもしれない」

Blonde Redhead / Barragan (a-sya)(HSE-60194)

―前作の『ペニー・スパークル』から4年の時間が空いたわけですけど、たとえばその間に聴くレコードのタイプや音楽の趣味が変わったりしましたか?

アメデオ「うーん、そうでもないかな。僕が思うに……『ペニー・スパークル』なんかは、バンドにとって本当に大きな、劇的な変化だと思うんだ。だからこそ、できるだけそこから遠くに行きたかったというか、それまでずっと『ペニー・スパークル』の世界にどっぷり浸ってたわけだからね。今度は、それとはまったく違う体験をしてみたかったんだ。この4年間でよく聴いてきた音楽については……音楽は普段からいろいろ聴いているんだけど、音楽にだけ影響を受けてるわけじゃないんだ。むしろ、そのときどきに自分たちが置かれてる状況によって変化することのほうが多いというか……自分たちが今いる空間だったり、どこで何をしているのか、2人で演奏してるのか、3人で演奏してるのかにもよって変化してくるし、あるいは1人のときでもね。本当に予期せぬところにランダムに影響が現れるというか、自分たちのほうでコントロールできるものじゃないんだよ。どんなに一生懸命考えて、それを実現しようと思っても、なかなか思い通りの方向にいかないことのほうが多くて。ただ次の曲を書く前に少し距離を置く必要があったんだ。いつも昔の曲をやりつつも、新しい曲をやって、新しい曲を試してみては、また昔の曲に戻るという感じで作業してて……だから、前にやったことを繰り返したくないっていう気持ちと同時に、何か新しいもので自分たちをワクワクさせてくれるものがないのか探ってたんだよね」

―最初にうかがった “No More Honey”もそうですけど、“Barragán”からもフィールド・レーディングスっぽい音が聞こえてきますよね。風で草木が揺れる音だったり、土を踏む音だったり。これってどんな場所で録音されたものなんですか?

アメデオ「“Barragán”は野外で録音したんだ。ミシガンにいるときにギターを弾きながら……屋外の何もない場所で。それとフィールド録音もしてるんだ。“Seven Two”とかね。“Seven Two ”はイギリスの庭で録音されたんじゃないかな……誰かの足音が聞こえたりしてね。ただ、今回のプロデューサー(※ベックやレディオヘッドを手がけたドリュー・ブラウン)がフィールド録音が好きで、いつもテープ・レコーダーを持ち歩いて、まわりの音とかアイディアを録音してたんだ。それにエフェクトをかけたり、いろいろ手を加えて、それぞれ違う感じに仕上げてるんだ」

―ちなみに、そのイギリスの庭ってどんなところなんですか?

アメデオ「いや、効果音だけだよ。曲自体はスタジオでレコーディングしてて、その上にいろんな場所でレコーディングした音を後から付け足してるんだよ。プロデューサーがすでに録音してきた音を使ってるから。外からいろんな音を拾ってくるのが好きで、膨大な音のコレクションがあってね」

―それと、8曲目の“Defeatist Anthem (Harry and I) ”――“敗北主義者のアンセム”ってタイトルも目を引きます。これはどんなふうにして生まれた曲なんですか? 

アメデオ「どうだったっけ……えーっと、まあ、僕たちが曲を書く場合って大抵がそうなんだけど、僕が最初にギターを弾き始めて、それで……そう、さっきの“Cat  On Tin Roof”もそうだけど、この曲もすんなり出てきたんだ。僕が最初たしかギターを弾いて、残りが勝手についてきたっていう感じで。ときどき、何かに取り憑かれたように夢中になって、自分でもわけのわからぬまま手だけが勝手に動いて、意識の遠くで『あれ、遠くで何か音が鳴ってるなあ』みたいな感じにね」

―タイトルや歌詞にはどんな意味が込められているんですか?

アメデオ「カズが歌詞を書いてるんで、カズに訊いたほうがいいかもね」

―じゃあ、カズさんから歌詞を見せられたときは、どんなことを思いました?

アメデオ「たしかに印象的なタイトルだよね。たぶん、彼女と彼女の飼っている馬との関係について少し触れてるんだと思うし……ただ、もしかしてそうじゃないのかもしれないし、僕がここで話してはいけないカズの秘密について触れてるのかもしれない……。ときどき、歌詞についてわざと訊かないままにしておくことがあるんだ。カズが説明しようとして困った顔になることがあるから……もし気になるなら僕からカズに訊いてみようか」

―ぜひ次の機会に。ところで、先ほど、今回のアルバムには「自分たちがいた空間や瞬間が反映されている」、「音楽にだけ影響を受けているわけじゃない」と話されていましたが、たとえば身の回りのアートやカルチャーから影響を受けるようなこともありますか?

アメデオ「それは僕の生活にとって重要かってこと? それとも自分たちの作ってる音楽にどれだけ影響してるかってことを訊いてるのかな」

―どっちも訊けたら嬉しいですけど、時間もあるので今回は音楽の方についてうかがえれば。 

アメデオ「そうだな……たしかに、ものすごく重要だし……よくまわりを見渡していて……あるいは、絵画でも映画でも観ているときだたったり、普通に部屋に入ったときだったり、何もない空間だったり、誰かの話し声が耳に入ったり、誰かが何かしてるのを目にしたときに、『これをテーマにして曲を作ったらどんなふうになるんだろう?』って、無意識のうちに考えてる自分がいるんだよ。これを音楽にしたらどういう感じになるだろう?とか……ある種の状況をそのまま映し出したような音楽というか……その、何だろう……」

―簡単に答えられる話じゃないですよね(笑)。

アメデオ「何しろ、自分たちのまわりにあるすべてが影響になりうるから……前に都会じゃなくて田舎で曲を作ってみたらどうなるんだろう、このバンドにそんなことできるのかなって思って試したことがあるんだよ。去年の夏に、イタリアの片田舎で曲を書こうとしてね。ただ、結局はうまくいかなかった。美しい風景の中だと、どうもダメらしくてね。つくづく、自分たちはニューヨークで曲を書くことに馴れてるんだと思ったよ。ニューヨークでスタートして、ニューヨークでずっと音楽を作り続けてきたから、それがすっかり染み着いちゃってるんだろうね。ニューヨークもそうだけど、自分たちのまわりの環境すべてから影響を受けてるよ。ただ、影響っていうのは捉えがたいもので……いつどこで何に影響を受けて、それがいつのタイミングでどういう形で出てくるのかわからない。たとえば一枚の絵を目にした影響が何ヶ月も後になって出てくることもあるし、自分の経験したことでもずっと後になって曲の形で出てきたりもする。僕たちのやり方って、いつもそうなんだ。何かに影響を受けて曲を書き始めるっていうんじゃなくて、こう……ただ僕たち3人が同じ部屋にいて、同じ空間を共有し合いながら、お互いに感じ合うところから曲が生まれてくる。もちろん、失敗することもあるし、ただリラックスしてるだけのときもあるし、まわりが見えないほど夢中になってしまうこともある。そう……実際、前に違うやり方で曲を書いたことがあるんだよ。自分はこのアーティストが好きだからこういう曲を作ろう、と思ったとしても、うまくいった試しがないんだ。だから……うん、そういうものなんだよ(笑)」

 

文 天井潤之介/text  Junnosuke Amai

 

Blonde Redhead

1993年に日本人の女性カズ・マキノ&イタリアはミラノ出身の双子兄弟アメデオとシモーネを中心に結成、NYアート・ロックの中核を担うベテランバンド、ブロンド・レッドヘッド。バンド名はアート・リンゼイの原点と言えるバンド~DNA~の曲名からとられた。ソニック・ユースのドラマー、スティーヴ・シェリーがプロデュースしたデビュー・アルバムが絶賛され一躍脚光を浴びた。その後アルバム・リリースを重ね、地道にファン・ベースを増やし、あのレッチリが “フェイバリット・アーティスト” と公言しツアーの前座にも抜擢。2011年には渋谷O-EASTでディアハンターらと共に行った「4AD evening」イベントにて、堂々のヘッドライナーを飾るなど、ジャズ・ロックからノイジーな退廃的ドリーム・ポップまで包括するマルチ・レイヤーのサウンドと、特徴的な美麗で強烈にエモーショナルな世界観で、ここ日本でも高い人気を誇る。本作『バラガン』は約4年ぶり通算9枚目となるスタジオ・アルバム。

 

Barragan-WEB

Blonde Redhead

『Barragán』

発売中

(Asawa Kuru LLC / Hostess)

https://itunes.apple.com/jp/album/barragan/id883074414

http://www.amazon.co.jp/Barragan-Blonde-Redhead/dp/B00KVVDIDO/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1410983717&sr=1-1&keywords=blonde+redhead

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