ゲーセンと「コインいっこ入れる」の呪い(当たり判定ゼロ)

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ゲーセンと「コインいっこ入れる」の呪い(当たり判定ゼロ)

今回はりくぜんさんのブログ『当たり判定ゼロ』からご寄稿いただきました。
※すべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/647505をごらんください。

ゲーセンと「コインいっこ入れる」の呪い(当たり判定ゼロ)

ロマサガ2でコムルーン島という島が登場します。
火山島であるこの島は、コムルーン火山の噴火による滅亡を目前にしているのですが、滅びを前にしたサラマンダーの島民がこんな台詞を残します。
「我々は逃げない。この火山と共に生きていくのが我々の定めだ。急ぐのだ。時間がないぞ」
ヒュー、かっこいい!

結局この後、多くのプレイヤーは火山を噴火させてしまい、哀れなサラマンダーは灰の下で滅び、プレイヤーは冥術を手にするのですが、外部環境の変化の前にどうにもならないという状況はコムルーン島でなくとも起きえます。え?助けないよね、サラマンダー。

ありとあらゆる産業を見渡しても、消費税の増税でもっとも被害を被ったのは、100円という魔法の単価に縛られたゲーセン業界ではないでしょうか。
偉いさんは「消費税は最終的に最終消費者が負担するための税制なのだから価格に転嫁すれば良い」として役所には謎の相談窓口が乱立していますが、ゲーセンは「コインいっこ入れる」というお気軽で伝統的な課金方法がここにきて足かせとなっています。こんな中で役所に相談しても「ジュースみたいに120円にすればええやん」みたいな正論言われて、発展性のない「はいそうですね」にしかなりません。

コナミのPASELIのように電子マネーで1プレイ124円にして「コインいっこ入れる」の魔法を打ち破るという方法もありますが、コインいっこ入れて遊ぶ通常のプレイヤーとの差をどのように埋めるかという問題も出てきました。増税後、外でたまたまPASELI切らして100円入れてボルテ遊んだんですが、選べる曲が減っていて「何か設定間違えたかな…」と思い、もう一度100円入れてようやく気がついたのですが、まさかコインいっこ入れるプレイヤーに制限をかけてきているとは…。一部の機能をわざわざ殺してDLCで販売するバンナム的なやり口に、蟹みたいに泡を吹きそうになったのですが、責める気にはなれませんでした。何もかも消費税が悪いんや!ゲーセンも業界全体として「取れるところから取る」というスタンスで徹底していますし。
ただPASELIにチャージしてカード作らないとまともに遊べないようなゲームばかりになって「ちょっと入って遊ぶ」という一見さん的な遊び方ができなくなりつつあるので、敷居がますます高くなっている感はあります。このままだとゴローちゃんも「俺がふらっと入って遊ぶようなゲームはもうないのか…」とかブツブツ言い出しかねません。

今年もゲーセン運営大手の決算から数字を抜粋して業界概況を作ってみました。開発じゃなくて店舗運営の方です。
ほとんど3月決算ですので、時期的には消費税増税の前の瞬間で区切ったデータとなるかと思います。なるべくゲーセン運営の部分のセグメントのみに切り分けて数字を取るようにしていますが、例えばスクエニはゲーセンの機器開発事業の数字が混ざっていますし、アドアーズはカラオケ部分も切り分けることができないため混ざってしまっています。
あくまで総体としてザクッとした感じで概況で見れるデータとして扱うとよろしいかと思います。

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昨年までのあらすじとして、(大手に限りますが)ゲーセン業界というのは、年々売上が下落しているものの、不採算店舗を閉鎖することで利益体質への転換を進めてきているところでした。消費税の影響のない今年までは同様の動きを見せていますが、店舗の合計数は増加しています。これはイオンの中のゲーセンを運営するイオンファンタジーが中国などの外国に50店舗程度の新規出店を行ったためで、国内の店舗で見れば減少しています。
ウェアハウスはゲオに吸収されて子会社ですらなくなってしまい、単体の数字で発表されなくなってしまったため、直近の数字からは除いています。(前年比はウェアハウスを除いた数字と比較して算出)

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利益ベースで見ると同程度で、バンナムのゲーセン事業の不振をスクエニ(タイトー)が埋めてトータルイーブンの形ですが、スクエニは開発事業も含まれているため、純粋な店舗運営だけで見ると前年より悪化していると見て良いかと思います。

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各社別の売上と利益をマトリクスにするとこんな感じ。イオンファンタジーが海外出店で売上を伸ばしていますが、海外事業はまだ赤字なので利益ベースで見ると減少しています。この辺りは将来に向けた投資的な意味合いが強いと思われます。アドアーズも好調ですが、ここ数年経費節減で利益体質に変わってきており、その流れが続いている感じ。

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続いて店舗数と利益のマトリクス。海外出店に注力しているイオンファンタジーを除いてすべて前年比減。数字は公開していませんが、スクエニ(タイトー)も短信に店舗は減少している旨の記載があります。こう見ると足元の見直しでアドアーズが利益体質へ変換しているのが顕著。セガの店舗も減少しているように見えますが、今年度から直営店のみ店舗数にカウントするようにしたための、集計方法の違いによるもの。純粋な増減だと4店舗の減少となります。

ともあれ、ここまでが嵐の前の数字となります。
これまでの撤退戦略による利益体質への変換というのは、不採算店舗を抱える大手だけが取れる戦略で、中小零細は自分のところが不採算になったらそれで終わりですから、上記の数字よりも遥かに悪いものになっているのではないかと思われます。それでも余計な脂肪をそぎ落として冬を生き延びてきたゲーセン業界でしたが、ようやく実際に利益体質への転換が数字に現れてきたところで増税とは、砂漠でふらつく旅人にオアシスの幻を見せてタバスコを飲ませるような酷な仕打ち…。

価格転嫁できない場合の3%分の超過ダメージというのは、売上ではなく利益から負担することになります。しかも法人税と違って、赤字だから免除ということもなく、お客さんから預かったお金という位置づけですので必ず払わねばなりません。こうして100円のうちお客さんから預かったことになっているお金がどんどん増えていくのですから大変です。正直5%までの増税でもよく100円で耐えたなと思うのですが、今から比較すると余裕のあった時代ですから、まだ耐えられたのかもしれません。

さらに金融政策が消費者物価を上げる方向にシフトしていますからインフレというパンチを受けることになります。これまで100円単価が維持できたのはデフレが続いたという時代背景もあろうかと思います。そして消費税8%、10%のワンツーをもらうわけですから、これがはじめの一歩の世界であれば「まっくのうち!まっくのうち!」と観客から歓声が上がってるレベル。

「コインいっこ入れる」と共に育ったゲーセンが「コインいっこ入れる」という呪いに苦しんでいるのは皮肉な話です。どうか嵐の前のこの決算がゲーセン産業が生きていた最後の写真とならないよう祈りたいところですが、1Qの足元の数字を見てるとやや厳しいかもしれません。
ゲーセンのデカい筐体でギャーンと遊ぶゲーム体験は、失われつつある過去の遺物に足を踏み入れていて、いつの日か、かつて喫茶店ではインベーダーが遊ばれていたんだよみたいな話と同じ扱いになるのかもしれません。
なんだか、COOP遊んでて味方がやられそうなとき「生きてー!生きてー!」と叫んでる感覚に似ていますが、どうにかコインいっこの呪いを打ち破って無事ゲーセンが消費税とインフレの嵐から生きて帰れますように。そういう時代じゃなくなりつつあるのはわかりますが、自分が育った文化圏がなくなっていくのは悲しいので、自分が死ぬまで応援せねばならんのだなと思う一方で、いつまでも同じ人間が生きていると同じ文化圏が残され続けるので、人はいつか死なねばならんのだなと思いました。いつだったかゲーセンに行ったら、強そうな人が「命は投げすてるもの…」とか言っているのを聞いたので、きっとそうなのでしょう。

執筆: この記事はりくぜんさんのブログ『当たり判定ゼロ』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年08月19日時点のものです。

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