「アニメがなかったら今の俺はない」 新宿育ちの黒人ラッパー・ACEインタビュー
ACE
ブラジル生まれ新宿育ち、今年で25歳のラッパー・ACEさん。小学生の頃からはじめたラップで一人孤独に鍛錬を積み重ね、「B-BOY PARK MC BATTLE U-20」、「UMB2013 REVENGE」、「罵倒×Amebreak”THE COMINGvol.1」、「戦極MCBATTLE」など、数々のMCバトルの大会で実績を重ねてきた。
そんなACEさんが所属するHIPHOPグループ・Sound Luckが主催するイベント「ADRENALINE 2014 VOL.5」が8月24日(日)に開催される。
平成を代表するラッパーが勢揃いする毎年恒例のアドレナリンだが、今年はMC漢 aka GAMIさん、MASARUさん、太華さん、そしてHilcrhymeのTOCさんといった平成を超えたレジェンドたちの出演が発表されており、平成と昭和がぶつかり合うこの夏最大のHIPHOPイベントとして注目を集めている。
今回はそれを記念して、ACEさんにインタビューを敢行。肌の色が違う故に受けた差別から芽生えた「見返したい!」という気持ち。それを糧に長い期間一人孤独でラップを続け、鍛錬を積み重ねてきた漢の生き様に迫った。
また、日本のTVアニメやロックバンドの影響を強く受けているACEさんの意外な側面も感じ取っていただければ幸いだ。
アニメがなかったら俺のラップはない
──ACEさんは純粋なブラジル人なんですよね。
ACE そうですね。ブラジルで生まれて、3歳の時に日本に来ました。それからはずっと日本に住んでいて、ずっと新宿で育ってきました。
──じゃあHIPHOPをはじめたのは、ブラジルの影響を受けたからというわけではないんですね。
ACE 全然受けてないですね。小学4年生の時にテレビで『学校へ行こう』という番組を見た時に、ちょうど「ズンッチ、ズンズンズン」ってラップをやってる人がいて、それで「ラップって面白そうじゃん」って思ったのがHIPHOPとの出会いですかね。
それから番組で流れてた楽曲を調べているうちにKICK THE CAN CREWやRIP SLYMEにハマって、好きな楽曲のトラックを流してたら自然と言葉が口から出てきて、気づいたらフリースタイルがはじまってました。友だちと遊ぶより、1人でラップしてる時間の方が好きだったくらい夢中になってましたね。
その結果、1人で公園でブツブツつぶやいてる怪しい黒人がいるって噂が広まって、通報されるというエピソードがあります(笑)。
──じゃあACEさんのラップに影響を与えてるのって、割と日本のポピュラーなHIPHOPなんでしょうか。
ACE うーん、全然そういうわけでもないですね。影響を受けているのはアニメとアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とコカ・コーラとミニストップのコンビニ弁当です。特にアニメがなかったら今の俺のラップはほぼないようなもんだと思います(笑)。
──アニメ!? 全然イメージがないです。
ACE 小さい頃からめっちゃ見てて、『聖闘士星矢』とか『NARUTO』、『焼きたて!!ジャぱん』を見てましたね。『焼きたて!!ジャぱん』がきっかけでエンディングテーマだったSOUL’d OUTを知って楽曲を聴きまくったりとか、あ、思い出した。違います、俺ラップはじめたきっかけ自体がアニメです!
──え!?
ACE 『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』のオープニング「WAR WAR! STOP IT」のラップがくそかっこよくて、この曲の影響は相当デカかったですね。
この曲は学校でも結構流行ってたんですけど、俺だけがラップパートが歌えたので、サビをみんなで歌ってラップは俺が歌うっていうのがラップをはじめたきっかけだったと思います。
──アニメとACEさんが結びつかなくてびっくりしました。
ACE 今でも全然アニメ見ますよ。アニメが好きになると、オープニングやエンディングのアニソンが好きになるんですよね。そっからHIPHOPと出会えたこともたくさんあるし、良い曲に出会えることもたくさんあった。『東京アンダーグラウンド』の「覚醒都市」とか本当に名曲だと思うし、『NARUTO』の「遥か彼方」でアジカンとも出会えたし。アジカンがなかったら今の自分はないですね。それくらい今でも大好きです。
──HIPHOPも最近アニメやマンガ、ライトノベルとかのオタクカルチャーとのつながりもでてきてますよね。
ACE すごくいいと思います。それこそ電撃文庫さんから出た『韻が織り成す召喚魔法 -バスタ・リリッカーズ-』とか本当にありがたい。HIPHOPの入り口が開けるし、俺もそういう方面との関わり方を考えて、もっと入り口を広げていきたいですね。
肌の色が違うことから受けた理不尽
──「WAR WAR! STOP IT」をみんなで歌うってことは、小学生の頃からHIPHOPを聞く友だちがいたんですね。
ACE それは本当にたまたまで、当時はモーニング娘。のブームが来てましたから全然いませんでしたね。でも中学に入ってからは、HIPHOP好きの友だちも少なからずできたんで、給食の時間にキングギドラとかエミネムのCD持って放送室をジャックして流したりしてました(笑)。でもラップをしてるのは、変わらず俺だけでしたね。
──1人でラップを続けるのってつらくなかったですか?
ACE でも高校に入るまではずっと1人でラップしてましたよ。1人でやりすぎてて、即興でラップすることがフリースタイルってことやMCバトルの存在すら知らなかったくらいです。それでも時々文化祭で見せ物としてラップすることがあって、それが本当に楽しかったのが糧になってたのかもしれません。
──それはなぜなんですか?
ACE なんて言えばいいんだろう… やっぱり肌の色が違うからか、周りから白い目で見られたり理不尽な扱いをされる事が多かったんです。
それは差別というと大げさですけど、たとえばクラスで飼ってる金魚が誰かに殺された事があって、俺は何もしてないのに「絶対あいつだ!」って決めつけられたり、運動神経だけは良かったから体育の時は仲良くしてくれるんですけど、それ以外では全然話してもらえなかったりとか。どっちかというとクラスの親から「あの子とは遊んじゃダメ」って言われるタイプでしたね(笑)。
だから当時はそういう経験からなんとしてでも「すごい!」って言わせて、認めさせてやりたい気持ちが大きかった。ラップで世界を認めさせれば、自分の存在も認められる気がしていて、文化祭とかでラップを見せつけることは自分の中で凄く大きな意味を持っていました。
仲間ができて変わった
──小中学生と1人でラップしてたわけですが、いつ頃からHIPHOP仲間と出会ったんでしょうか。
ACE 高校に入ってから今のSound Luckをやってる相方のHIDEと出会って、MCバトルの存在を知りました。それで18歳くらいからクラブに出入りするようになって、ステージでMCバトルをしたり、時にはライブをするようになって、同じ平成世代の仲間がたくさんできました。
──仲間ができて何か変わりましたか?
ACE 変わりましたね。1人でやってるときって誰かと比べたりできないじゃないですか。でも自分的にはどんどんラップが上手くなってると勘違いしてきちゃって、だんだんと鼻が伸びてくるんですよ(笑)。
でも仲間ができて、クラブとか行くと、「こいつヤバい!」みたいな奴ばかりで、最初は鼻をへし折られた気分でしたけど、その分今まで自分が知らなかった技術が身に付いたし、周りがHIPHOPに対して理解のある人しかいないので、単純にもの凄く楽しくなりましたね。
──一方で昨年は当日になってダブルブッキングが発覚して、中止になってしまいましたよね。
ACE 完全にクラブの手違いで起きた事故だったので、本当に悔しかったです。出演してくれるアーティストやお客さんの中には地方から来てくれてた人もいて。この時は泣く泣く冬に開催をずらすことができたんですけど、やっぱり夏にやりたかった。何度も言いますが今回は特に気合いが入ってます。
──出演者を見ると気合いが伝わってきます。
ACE 前々から出てもらいたかった人たちなんですけど、5周年という記念すべきこのタイミングでアタックしないわけにはいかなくて、思い切ってオファーしました。お客さんを絶対に喜ばせてくれる平成を超えるレジェンドたちです。
今年は会場の都合で「B BOY PARK」がステージでライブできなくなったり、来年はどうなるかわからない。だから「アドレナリン」も、HIPHOPの夏の一大イベントって言われるくらいの大きな存在にしていきたいと思ってます。
昔のクラブには夢があった
──「B BOY PARK」に限らず、クラブでの深夜イベントなども随分減ってますよね。
ACE 昔、渋谷のブエノスが深夜営業やってた時なんて最高に楽しかったですもん。憧れのラッパーがライブしてたり、時には有名人が遊びにきてたり、「これが東京か!」みたいにワクワクするような夢やチャンスがあった。
でも今は深夜にライブをやってるイベントなんてほとんどなくて、全然つまらない。最近は夜にクラブに行く機会がなくなりましたね。たまに行っても女の子を口説いてる男ばっかりで、純粋に音楽を楽しみにくる人自体も減ったと思います。
──ACEさんといえば、MCバトルで活躍されてるイメージを持たれてる方も多いと思います。MCバトルをきっかけに自分の音源を聴いてもらいたいというようなお気持ちはありますか?
ACE 特にないですね。バトルはバトル、音源は音源。自分の中でこの2つは明確に分けているので、「バトルだけじゃなくて音源も聴いてくれ!」みたいな気持ちはありません。バトルに関して俺は相手を殺しにきてるだけだから「勝手に見とけ!」って感じですね(笑)。
──お客さんを楽しませるようなエンターテイメントのような意識ではないんですね。
ACE それはライブですね。もちろんMCバトルでも笑いやエンターテインメントを意識した方が有利になることもあるんですけど、それよりも「俺のラップはどうよ?」という意識の方が大きいです。
──ACEさんにとってのMCバトルってどんな存在ですか。
ACE 長く付き合ってる彼女みたいな感覚で、好きでも嫌いでもあるような感じですね(笑)。嫌いだけどやめられないみたいな(笑)。やっぱりすっごい気持ちの良い試合ができた時は勝ち負け関係なく幸せなんですよ。嫌いな部分は待ち時間とジャンケンで先攻後攻が決まるまでのドキドキ感ですね。
メジャーデビューが目標
──最後に今後の展望を聞かせて下さい。
ACE わかんないけど、今はHIPHOPシーンどうこうというより、自分のことだけで精一杯です。とりあえずメジャーデビューすることを目標に毎日頑張ってます。メジャーデビューを通過点にして有名になりたいです。
──それはソロとしてですか?
ACE Sound Luckとしてもソロとしても、どっちもです。ソロはソロ、Sound LuckはSound Luckで、それぞれ生み出せるものが全然違うし、どちらの楽曲も多くの人に聴いてもらいたいと思ってます。
あと最近は路上ライブでバンドとセッションする機会が多いので、ソロとしてはもっとバンドと絡んでSound Luckとは違う味を出していきたいですね。
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引用元
「アニメがなかったら今の俺はない」 新宿育ちの黒人ラッパー・ACEインタビュー
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