有効求人倍率上昇に隠された問題点

有効求人倍率が1.10倍と22年ぶりの高水準

有効求人倍率上昇に隠された問題点

厚生労働省の発表によれば、6月の有効求人倍率(季節調整値)が1.10倍と22年ぶりの高水準となったそうです。求人倍率とは、求人数(企業が採用したいと思っている人数)を求職者数(働きたいと思って応募する人の数)で割った数字で、これが1を上回るか下回るかで、労働市場が「売り手市場」か「買い手市場」かがわかるようになっています。

確かに、「求人難」という言葉を耳にするようになったりして、企業の人手不足感が伝わってきますが、その数字の中身を分析してみると、「景気が良くなってきている」と安易に考えて良いものかどうかは怪しいといえます。

数字の中身を見ると、労働市場の偏り・ミスマッチが浮き彫りに

まず、先ほどの有効求人倍率ですが、正社員に限ってみると0.68倍となっており、依然として1を大幅に切る数字となっています。正社員になりたくても、その門は未だ狭きものであることがわかります。全体の有効求人倍率を押し上げているのは、パート・アルバイトなどの非正規雇用求人であるといえるでしょう。

また、1.10倍という数字は様々な職種全体の平均値です。職業別の有効求人倍率を見てみると、建設業は2.71倍、介護職は2.04倍と高い数字を示していますが、販売営業職は0.99倍、一般の事務職に至っては0.28倍となっていて、職業間の差が大きくなっています。労働市場の偏り・ミスマッチが浮き彫りになっています。

全体の求人数が増えたにも関わらず、6月の失業率は3.7%と、前月を0.2ポイント上回っています。「有効求人倍率が1倍を上回った」と言っても、単純に景気が良くなったというわけではありません。正社員の求人数は未だ十分ではありませんし、この数字が国民の生活の安定に寄与しているとは言えない状態です。

物価上昇に賃上げが追い付いていない

そして、一般に、求人倍率が上昇すると、需要と供給の原理から給与額の上昇が期待されますが、現状はどうなっているのでしょうか。厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、今年6月の現金給与総額は前年同月より0.4%アップしたそうです。しかし、物価の上昇を加味した実質賃金は、前年比3.8%のマイナスとなっていて、物価上昇に賃上げが追い付いていないことがわかります。このことからも、景気回復の恩恵が一般市民にまで回ってきていないことが読み取れます。

また、女性の労働者数が前年より54万人増加したそうですが、おそらく安倍首相が女性の活用を謳った成果というよりは、単に、夫の給料が上がらず女性も働かなくては家計が厳しいといった理由の方が大きいのかもしれません。

今後も、有効求人倍率だけでなく、正規雇用の求人数や賃金の動向に注意していく必要があるでしょう。

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