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19歳の母と74歳の子ども 映画『春との旅』

俺の邪悪なメモ

今回は罪山罰太郎さんのブログ『俺の邪悪なメモ』からご寄稿いただきました。

19歳の母と74歳の子ども 映画『春との旅』

観てきました!小林政広監督の最新作、『春との旅』 *1

*1:『春との旅』オフィシャルサイト
http://movie.haru-tabi.com/index.html

いや、とっても良かったです!
現時点での小林監督の最高傑作だと思うし、一般性も高いので多くの人にオススメできる映画です。

本作は、74歳の老人・忠夫(仲代達矢)と19歳の孫娘・春(徳永えり)が旅する様子を描いたロードムービー。二人は北海道の田舎町で二人暮らしをしていましたが(やや複雑な事情があり、徳永えりの両親はいません)、徳永えりが単身上京することを希望したために、仲代達矢をひきとって面倒見てくれる人を探して親戚(しんせき)を訪ね歩く────という、いわば“老人の居場所を探す旅”の物語です。

まず、なんといっても素晴らしかったのが、俳優陣の演技です。主演の仲代達矢を筆頭に、大滝秀治、淡島千景、柄本明、香川照之といったひとクセもふたクセもある実力派の俳優たちが、脚本上でも演技の上でもガチバトルを繰り広げ、これが大変見応えあるのです。

中でもやっぱりスゴいのは仲代達矢のクソジジィっぷりでした。頑固でワガママで自分勝手、そのくせ甘ったれで自分独りじゃ何もできない。孫娘の気持ちも慮ろうとせず振り回す。まさに、絵に描いたようなクソジジィでした。まあ、偏屈な爺さんの役を偏屈な爺さんがやってるんだから、そりゃハマるわけなんですが(これ、ほめてますからね? 念のため)。ある日突然、こんなジジィが「居候させてくれよ~」とやってきたら、たまったもんじゃありません(笑)。

でも、この映画を観てると、そんな仲代達矢のことがだんだん憎めなくなってきちゃうんですね。仲代のふるまいは、憎たらしい反面、どこかコミカルで愛らしくもあるのです。

途中で「生まれて初めてコーヒーを飲む」というシーンがあるのですが、この芝居なんか本当に傑作で、異様にカワイくて可笑しくって、劇場でもクスクス笑い声が漏れていました。そう、確かにカワイイんです。あの仲代達矢がですよ?

これはどいうことかっていうと、要するに “子ども” ってことなんだろうと俺(おれ)は思いました。仲代が演じてるのは“74歳の子ども”なんじゃないかと。

だから、一緒に旅をする徳永えりは振り回されているように見えて、どこか駄々っ子をあやす母親のようでもあるのです。

この二人の関係は、祖父-孫 ではなく 子-母 であり、二人ともがこの関係にある種の依存をしているように俺(おれ)には思えました。

映画の中では何度かこの“旅”を終わらせるチャンスが訪れるのですが、二人はそれを拒否して“旅”を続けます。特に終盤、かなり良い形で“旅”が終えられそうな選択肢が提示されるのですが、二人はまるで逃げるようにして“旅”を続けることを選ぶのです。それは、もしその選択を受け入れて“旅”を終えてしまうと、子-母 だった二人は 祖父-孫 という本来の関係に引き戻されてしまうからなのだと俺(おれ)は思いました。

これは歪(ゆが)んだ共依存なのかもしれませんし、究極のマザコンといっていいかもしれません。
でもこの二人の関係性に、甘やかな魅力があるのも確かです。

今の日本では多くの人が自分の老後に、孤独死をはじめとするさまざまな不安を抱えています。人生の最後に拒絶されて孤独に死んでいくのはだれだって嫌なものです。そんな不安の裏返しともいえる「人生の最後に子どものように無条件で承認されたい」というとても今日的な欲望をこの映画は上手くすくい上げてくれるのだと思いました。

だから、俺(おれ)にはあの結末(どんな結末かは是非映画館で確認してください)は、文字通りの “ハッピーエンド” に思えました。

あと、公式サイトで紹介されている社会学者の上野千鶴子センセのコメントがちょっと面白かったです。
——
妻に死なれ、娘にも先立たれた男おひとりさま版の現代「リア王」の放浪の旅。
それでもオレにはこんなにもけなげな孫娘がいる!という究極の男の夢。
そんな孫娘のいないオレさまたちはどうしたらいいのだろう?と深く考えさせてくれる。
あったかくて、こわーい映画だ。

上野千鶴子(社会学者)
——
『春との旅』オフィシャルウェブサイト「著名人コメント」より引用(強調は引用者によるもの)

あの……上野センセ、ほめるフリしてキレてません?
ちなみに俺(おれ)は上野センセの書いた『おひとりさまの老後』も、金と教養がないワタクシたちはどうすればいいのかしらん? と深く考えさせられる、こわーい本だと思いますけどね。

『春との旅』 小林政広 著 / 毎日新聞社
http://books.mainichi.co.jp/2010/04/post-6565.html

『おひとりさまの老後』 上野千鶴子 著 / 法研
http://www.sociohealth.co.jp/book/db1/data.cfm?code=5845680

執筆: この記事は罪山罰太郎さんのブログ『俺の邪悪なメモ』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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