小中高「6・3・3制」変更の問題点
現在の学制は、子どもたちの成長・発達に適合できていない
近年、現行の学校制度や学校体系を見直すべきだ、との議論が高まってきています。小中高の「6・3・3制」から「4・4・4制」への変更、就学年齢を5歳に引き下げることなどが検討されてきました。既に具体化されてきた自治体もあり、横浜市では平成18年頃から小中一貫教育の取り組みを始め、平成24年度からは市全体の小中学校491校について、全て連携して一貫教育を行うことを発表しています。
では、なぜ最近になって学制改革の必要性が叫ばれているのでしょうか。その根底にあるのは、戦後に導入された「6・3・3制」の区切りが、現在の子どもたちの成長・発達に適合できていないという現状です。子どもの生理的・心理的成長は過去50年で約2年早くなり、今の子どもの思春期は小5には始まります。私自身、自塾の生徒の発言を聞いていると、子どもたちの早熟ぶりを感じる機会があります。
また、「小1プロブレム」「中1ギャップ」などの進学に関する問題も保護者や教師を悩ませており、小学校1年生のクラスでは学級崩壊に近い状態になったり、中学校になじめずに不登校になったりする子どももいます。これらの現状を踏まえ、今の子どもたちにとって最適なシステムをつくるべく、学制改革が求められているのです。
学制改革での問題点は「具体案の無さ」と「コスト」
さて、このような学制改革には、どんな問題点があるのでしょうか。大きく分けて二つ考えられます。一つは具体案の無さ、二つ目はコストです。一つ目についてはさまざまな論点があり、議論も紛糾しています。政府の教育再生実行会議は「4・4・4制」への変更を打ち出していましたが、7月中にまとめる第5次提言で学制全体の改革は見送られることになりました。また、小中一貫校は既に一部の自治体で設置されていますが、中高一貫の中等教育学校のように法制化されていないため、文部科学相に特例として指定を受ける必要があります。このように、一部では先進的な試みとして学制改革が行われていますが、国全体として具体的に動き出すまでには至っておらず、現在も議論が続いています。
二つ目のコストに関しては、5月に開催された学校関係者の会合で出された資料によると、就学年齢を5歳に引き下げ義務教育化した場合だけでも、2610億円の追加費用が必要になるそうです。これが、小中・中高間の区切りを全国的に変えることになった場合、学校設備の整備、教員の異動・研修などに莫大な費用がかかることになります。現状、学制改革の必要性は多くの人が感じていますが、コスト面のことも踏まえ、「総論賛成・各論反対」という状態だといえるでしょう。
自塾での授業で「小1プロブレム」や「中1ギャップ」の大変さを実感している点から、子どもたちのために学制の改革は必要だと思います。しかし、未だ議論が尽くされたわけではなく、まずは一部の自治体で行う、もしくは特区を設けて実験的に行うべきでしょう。「6・3・3制」の変更は子どもたちはもとより、教師や保護者にも多大な影響を与える改革です。拙速よりも巧緻に重きを置き、ゆっくりと議論をすべきだと考えます。
最新の気になる時事問題を独自の視点で徹底解説するWEBメディア「JIJICO」。各分野の専門家が、時事問題について解説したり、暮らしに役立つお役立ち情報を発信していきます。
ウェブサイト: https://mbp-japan.com/jijico/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。