アニメと全く違う印象!? 『ムーミン』原作を読解
おそらく、ほとんどの人が「ムーミン」というキャラクターを知っているはずだ。1969年に放映されたテレビアニメ『ムーミン』は今日に至るまで何度も再放送され、多くのキャラクターグッズが販売されているなど、大人から子どもまで幅広い年齢層から愛されている。
『ムーミン』は、ムーミン一家をはじめ、スナフキンやミイなどのキャラクターたちがムーミン谷でほのぼのと楽しく暮らしているという物語という印象が強いが、その原作は児童文学であり、私たちが抱いているムーミンの印象とは違う物語が描かれていたのだ。
『だれも知らないムーミン谷』(熊沢里美/著、朝日出版社/刊)は、誰もが憧れるユートピア成立の前史から浮かんでくるムーミン一族の「もう一つの顔」を紹介した一冊だ。
原作である児童文学は、1作目の小冊子が1945年の戦後直後に発表され、その後、四半世紀にわたって全9作品が執筆されている。
私たちがよく知っているムーミンは可愛らしい姿だが、原作では様子が違う。著者の熊沢氏は本書の中で、その印象を語っている。
ムーミンの大きな瞳は小さく描かれ、どこか苛立っているようにも、悲しんでいるようにも見える。さらに白くて丸いはずの体もまっすぐで単調な形に描かれていて、原作のムーミンの姿からは可愛らしいというよりも、ちょっと不気味な印象を受けたという。
原作の中で重要なのは、アニメでは明かされない「2つの問題」を抱えていることだ。
1つ目は、住人たちの人間関係。アニメではムーミンたちは昔から谷に住み、長く親しい関係を築いているような印象を受ける。しかし、原作では主人公のムーミン以外の住人たちは、谷の「外」から移り住んできた「孤児」であると推測できる。スナフキンをはじめ、ムーミンパパとムーミンママも例外ではない。住人たちの多くは他の土地からの移民であり、彼らの関係はまだ出会って日の浅い「他人同士」だったのだ。
2つ目は、ムーミン谷が「危険に満ちた環境」であること。外敵にさらされているというわけではなく、嵐や洪水などの「自然災害」に見舞われているということだ。ムーミンたちはこれらの災害に巻き込まれ、大切なものを失ったり、時には屋敷まで壊されたりと、甚大な被害を何度も受けることになる。さらに、谷は寒暖の差の激しい「気候」の影響も受ける。特に冬はあるキャラクターによって象徴され、彼らの生活を度々脅かすのだ。
また、原作6作目の『ムーミン谷の冬』では、アニメではほとんど追求されていない「もう1つの世界」が存在していたことが初めて明かされる。
ムーミンたちは秋の終わりに冬眠に入り、次の春を迎えるまで目を覚まさない。冬眠をしないスナフキンも南へと旅立つため、前半5作品では冬の季節は決まって省略されてきた。しかし、6作目ではムーミンの冬眠の中断によって初めてムーミン谷の冬を見ることになる。この冬の世界の発見は前半5作品で暮らしていた世界を揺るがすような、重大な契機となる。
そして、原作の完結から20年後の1990年にア二メ『楽しいムーミン一家』が制作されるが、原作の設定に2つの手が加えられる。1つは、アニメではムーミンたちが抱えていた人間関係の葛藤や自然の脅威などの困難が大きく省略され、アニメ・オリジナルのストーリーが数多く加えられている。もう1つは、キャラクターの見た目が原作の不気味なモノクロの姿からパステル調の可愛らしい姿に生まれ変わったことにある。
ムーミンの原作では、現代の私たちも抱えるような問題が描かれている。子供向けに描かれているというものとは違う一面があった。なので、アニメだけでは、ムーミンのすべてを知ることはできないようだ。原作も合わせて読むと、さらに深くムーミンたちの世界を楽しむことができるはずだ。
(新刊JP編集部)
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