写真に写ってしまった物語『世間のひと』(鬼海弘雄)【日刊ガケ書房】

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編集部より)新連載『日刊ガケ書房』はじまりました。京都にある人気書店『ガケ書房』の店主である山下賢二さんに、おすすめ本、気になる雑貨、ガケ書房の日常、などを紹介してもらいます。

「世間のひと」鬼海弘雄(筑摩書房)

写真に写ってしまった物語

そこには間違いなく写っているのだけれど。
カメラを透した人間がそこに写っているはずなのだけれど。
その写真の中でこちらを向いているのは、嘘みたいな人たちだ。
劇画から飛び出してきたような、その人たち。
そっぽを向いていても視線を感じる彼らの立像。

彼らの住む街、浅草には馴染みがある。あのくすんだような独特の空気も知ってる。
遠くから見かけただけで、違う時間を生きているんだなとわかる彼ら。
ということは、無条件に被写体ではある。
しかし、鬼海弘雄さんの写真は何かが違う。ただ被写体になりやすい人に
シャッターを押した写真ではない。時代は、昭和40年代から平成24年ごろまで
網羅している。理由は、昭和というフィルターでもなさそうだ。

登場するのは、老若男女。夢と希望に溢れた人がいる。平穏に生きる人がいる。
障害を持った人がいる。長年ひとりぼっちの人がいる。荒い若者がいる。
美人もいる。でも、美人にも人生があるということを想像させられる。
鬼海さんがシャッターを押した瞬間、その人のサイドストーリーが写りこむ。
顔が<肖像>という歴史を俯瞰した形になる。

人間の数だけドラマがあるとは本当のことだと実感する写真集だ。

(『ガケ書房』店主 山下賢二)

この本について

書名:世間のひと
出版社:筑摩書房

『ガケ書房』について

店名:ガケ書房
所在地:〒606-8286 京都市左京区北白川下別当町33
電話:075-724-0071
ウェブサイト:http://www.h7.dion.ne.jp/~gakegake/ [リンク]
ここにはその目的の本はありません。
しかし目的外の面白い本があります。

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